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娘のためにマジカルステッキを買ったら本物だった話

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 今日は愛娘の5歳の誕生日だ。昨日おもちゃ屋で買った「ウニっと☆メタモルフォーゼ!」のマジカルステッキを娘に渡すと、今までで一番の笑顔を見せてくれた。やったぜ。
 娘はその場で箱をあけてステッキを取り出すと、アニメのオープニング曲を歌いながら踊り始めた。かわいい。
 ビデオカメラを持っていないことを軽く後悔しながら、ケーキを取り出そうと冷蔵庫を開けた。
「……あ、ちわっす」
 ……。
 ……。
 中になんかいる!
 ケーキ食べながらあいさつしてきた!
 とりあえず扉を閉めて、もう一度開けてもやっぱりいた。
 たしか、こいつは「ウニっと☆メタモルフォーゼ」に出てくる怪人のはず。こんなの呼んだ覚えがない。
「だ、誰だお前は!」
「どうしたの? パパ」
 僕の声に反応し、娘がステッキを持ったまま側にきた。
 怪人は娘を見、そして驚愕の表情を浮かべた。
「な……なに……! マジカルステッキの後継者が現れただと……!」
「後継者……?」
「こーけいしゃってなあに?」
 何もわかっていない僕たちの方に、怪人は手を伸ばす。
「そこの少女! 悪いことは言わない。そのステッキを俺に渡すんだ!」
「ぜったいヤダ! これはわたしのなの!」
 娘はステッキを抱き締めて、頭を左右に振る。
 それを見た怪人は、「仕方がない……」と呟いた。
 あ、これ嫌な予感がする……。
「それならば、お前の父親をいただくぞ!」
 そう言うとすぐに、怪人は私を抱えて飛んだ。
 天井に穴が空いたのだが……。
「パパー!」
 娘の声が、むなしく響いた。

 怪人は、私をビルの屋上まで連れてくると、無言でうろうろし始めた。
 暇なので、「ウニっと☆メタモルフォーゼ!」についてまとめておこうと思う。
 「ウニっと☆メタモルフォーゼ!」は、女児向けのアニメ番組。悪の組織によってウニの卵や赤ちゃんに変えられた少女たちが、マジカルステッキの力を使って一時的に人へと変身し、怪人たちを倒す話だ。変身した後の少女たちの名前は、「ソウジツ」「ホウハイ」「ゲンチョウ」「プリズム」「プルテウス」で、僕が買ったステッキはプルテウスのものである。プルテウスはアニメの第二十三話で登場した最年長キャラで、ウニの発生的に見ると成体の一歩手前である。
 なんでそんなに知ってるのかって? 娘と一緒に毎週見てるからだよ。
「パパー!」
 幻聴なのだろうか、娘の声が聞こえる。
 幻覚なのだろうか、プルテウスのコスチュームに身を包んだ娘の姿が見える。
「なっ、あの子供がプルテウスになってるだと……?」
「わたしのパパを返して! 怪人X!」
 本物だな、うん。
 会話の流れ的に考えると、僕の娘はプルテウスになったようだ。
 どういうことだよ。
「ハッハー! 変身してしまったのなら仕方がない。ボスのために消えてもらうぞ!」
 怪人は、笑いながら光弾を放った。眩しい光のせいで、一時的に目が見えなくなる。
 ようやく光がおさまって目が見える頃には、両腕に武器をつけた娘の姿があった。
「中胚葉・骨片(ウーニー☆クラッシュ)!」
 娘の両腕から、激しい打撃が繰り出される。しかし、それは見えないシールドで弾かれてしまった。
「フハハハ! なんて弱い打撃なんだ! こんなものでは俺はやられないぞ!」
「くっ……まだまだ……!」
 娘は再び攻撃を開始したが、それも弾かれてしまっている。
「ハハハ! いい加減諦めてしまえ!」
 怪人はシールドを破裂させ、その勢いで後方に飛ばされた娘の身体に光弾を撃ち込む。
「やめろー!」
 くそっ、拘束さえされていなければ……娘を助けに行くことができたのに……!
「ガハハハ! 正義なんてくそ食らえ! 全員悪になってしまえ!」
 怪人は、体を大きく仰け反らせながら声高く笑う。
 そして、固まった。
「あれ?」
 僕も空を見て固まった。
「うそだろ?」
 空に、巨大なウニが浮いている。
「ふぅ、やっと間に合ったね」
 娘だけは平然としている。娘は僕を引きずりながら、怪人Xから距離をとる。
「もうあなたはわたしの腕のなか。逃げることはできないよ?」
「なーんーだーとー?」
 怪人は悔しそうに顔を歪める。
 娘はマジカルステッキを握り締め、プルテウスだけに用意された技の名前を叫んだ。
「アリストテレスの提灯(ウーニー☆フラッシュ)!」
 空に浮かんでいたウニが徐々に地上へと降りてきて、怪人を食べてしまった。
 この技は、敵の心を浄化する必殺技だ。この技を受けると、どんな悪人でも改心する。
 きっと、今あの体内で浄化が行われているところだろう。
「パパ、大丈夫?」
 娘が縄を全てほどいてくれた。その手には、特に外傷はない。
 これで全部解決した。そう思ったとき、マジカルステッキが点滅し始めた。
「えー、もう戻っちゃうのかなぁ」
 娘は、残念そうに言いながら、マジカルステッキから手を放した。
 その瞬間。
 娘が、プルテウス幼生の姿になった。
 ……。
 ……。
「娘ー!」
 こうして、僕と娘の冒険が始まった。
 ……かもしれない。
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