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おまけ
ハグ・ミー
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須応真人にとって、ハグは一番の愛情表現だ。
そうなったきっかけは、母だろう。まだ彼女が生きていた頃、須応はよく母から抱きつかれていた。母がいなくなった後は、妹が愚図る度にそっと抱き締めてやった。
もちろん、晴れて斑目暁と恋人同士になってからは、何度も彼に抱きついた。斑目は背が高くがっしりとした体格のため、ハグのしがいがある。だからこそ、不満なのだ。
「……たまには、暁くんの方からハグして欲しいな」
須応宅でまったりしていると、ふと須応の口からそのような言葉が漏れた。
「ハグ……ですか」
「うん。何と言えばいいんだろう、君はいつも受け身というか、控えめだから」
そう言われて、斑目は自身の両手を見つめる。
父を殴った、自身の手。
「……怖いんです」
「怖い?」
「はい。あなたを、傷付けてしまいそうで……」
感情任せで怒鳴る、父の姿を見てきた。考えるよりも先に、手が出る様も。
いつか、自分もああなるかもしれない。大切だったはずの人を、傷付けてしまう日が来るかもしれない。だから、自分からは触れないようにしてきた。ただでさえ、自分は力が強いのだから。
表情がかげる斑目を静かに見つめ、須応は何を思ったのか、彼の手を握った。
「真人さん……?」
「君の手は、暖かいね」
戸惑いを隠せない斑目に、微笑みを向ける。
「僕は、君の手が好きだ。暖かくて、優しくて、力強い」
「……──」
「君は、僕の好きなものを否定するの?」
そう、こてんと首をかしげられたら、何も言えなくなる。
手を離した須応は、そのまま両腕を大きく広げた。
「ほら。僕の身体は君に比べれば華奢だけど、それなりに頑丈だから。暁くんが心配してるようなことは、絶対起きないから。ね?」
「……痛かったら、言ってくれますか?」
「うん! 約束するよ」
そこまで言うなら……と、斑目は自身の両腕を須応の背にそっと回した。割れ物を扱うかのように、力を加えないように──。
「もっと、強く」
「は、はいっ」
不満げに要求する須応のために、斑目は徐々に抱き締める力を強くしていった。
「もっと……もっと……うん、それぐらい」
これ以上力を加えると須応を潰してしまうのではといった頃合いで、ストップがかかる。
須応は、ここでようやく斑目に腕を回すと、わずかに空いていた隙間を埋めるように、身体を密着させた。
「ふふふ、幸せだぁ……」
斑目の胸に頭を寄せて、呟かれた言葉。
ふわふわと柔らかい髪が、何度も斑目の手を受け入れる。
──こんなに喜んでくれるのなら、もっとはやく……。
「真人さん」
「ん? どうしたの?」
ひょこりと顔をあげた須応に、笑みをこぼす。
「背伸びしてくれますか?」
「うん」
斑目の言う通り、つま先立ちする須応。
顔が、より近くなった。
斑目は、須応の頬に手を当てて、その顔を少し持ち上げる。今、須応の顔は晒されていて、己が彼にとって信頼できる存在になれたと嬉しくなった。
「あの、真人さん」
「はい」
じっと見つめられると、急に恥ずかしくなってきて、このあとの台詞が出てこなくなった。
そんな斑目の様子に耐えられなくなったのか、須応は唇を尖らせ、ぐいっと斑目の頭を引き寄せる。
「暁くん。たぶん、僕も同じ気持ちだ」
そう呟かれた言葉が、斑目の背中を押した。
目を閉じて待つ彼の唇を──かすかに震えている唇を、奪った。
数秒後。離れていく熱。
名残惜しそうな表情を浮かべる須応の身体を、斑目は包み込むように抱き締めた。
「今のは、どうですか?」
「最高……」
互いに速まる鼓動を感じ取りながら、満足げに笑いあうのだった。
そうなったきっかけは、母だろう。まだ彼女が生きていた頃、須応はよく母から抱きつかれていた。母がいなくなった後は、妹が愚図る度にそっと抱き締めてやった。
もちろん、晴れて斑目暁と恋人同士になってからは、何度も彼に抱きついた。斑目は背が高くがっしりとした体格のため、ハグのしがいがある。だからこそ、不満なのだ。
「……たまには、暁くんの方からハグして欲しいな」
須応宅でまったりしていると、ふと須応の口からそのような言葉が漏れた。
「ハグ……ですか」
「うん。何と言えばいいんだろう、君はいつも受け身というか、控えめだから」
そう言われて、斑目は自身の両手を見つめる。
父を殴った、自身の手。
「……怖いんです」
「怖い?」
「はい。あなたを、傷付けてしまいそうで……」
感情任せで怒鳴る、父の姿を見てきた。考えるよりも先に、手が出る様も。
いつか、自分もああなるかもしれない。大切だったはずの人を、傷付けてしまう日が来るかもしれない。だから、自分からは触れないようにしてきた。ただでさえ、自分は力が強いのだから。
表情がかげる斑目を静かに見つめ、須応は何を思ったのか、彼の手を握った。
「真人さん……?」
「君の手は、暖かいね」
戸惑いを隠せない斑目に、微笑みを向ける。
「僕は、君の手が好きだ。暖かくて、優しくて、力強い」
「……──」
「君は、僕の好きなものを否定するの?」
そう、こてんと首をかしげられたら、何も言えなくなる。
手を離した須応は、そのまま両腕を大きく広げた。
「ほら。僕の身体は君に比べれば華奢だけど、それなりに頑丈だから。暁くんが心配してるようなことは、絶対起きないから。ね?」
「……痛かったら、言ってくれますか?」
「うん! 約束するよ」
そこまで言うなら……と、斑目は自身の両腕を須応の背にそっと回した。割れ物を扱うかのように、力を加えないように──。
「もっと、強く」
「は、はいっ」
不満げに要求する須応のために、斑目は徐々に抱き締める力を強くしていった。
「もっと……もっと……うん、それぐらい」
これ以上力を加えると須応を潰してしまうのではといった頃合いで、ストップがかかる。
須応は、ここでようやく斑目に腕を回すと、わずかに空いていた隙間を埋めるように、身体を密着させた。
「ふふふ、幸せだぁ……」
斑目の胸に頭を寄せて、呟かれた言葉。
ふわふわと柔らかい髪が、何度も斑目の手を受け入れる。
──こんなに喜んでくれるのなら、もっとはやく……。
「真人さん」
「ん? どうしたの?」
ひょこりと顔をあげた須応に、笑みをこぼす。
「背伸びしてくれますか?」
「うん」
斑目の言う通り、つま先立ちする須応。
顔が、より近くなった。
斑目は、須応の頬に手を当てて、その顔を少し持ち上げる。今、須応の顔は晒されていて、己が彼にとって信頼できる存在になれたと嬉しくなった。
「あの、真人さん」
「はい」
じっと見つめられると、急に恥ずかしくなってきて、このあとの台詞が出てこなくなった。
そんな斑目の様子に耐えられなくなったのか、須応は唇を尖らせ、ぐいっと斑目の頭を引き寄せる。
「暁くん。たぶん、僕も同じ気持ちだ」
そう呟かれた言葉が、斑目の背中を押した。
目を閉じて待つ彼の唇を──かすかに震えている唇を、奪った。
数秒後。離れていく熱。
名残惜しそうな表情を浮かべる須応の身体を、斑目は包み込むように抱き締めた。
「今のは、どうですか?」
「最高……」
互いに速まる鼓動を感じ取りながら、満足げに笑いあうのだった。
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