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第一章
第12話
しおりを挟む翌朝、寮の自室の扉を開けて
隣のガンドの部屋の扉をノックする。
ー コンコンコンッ
「…………寝てるのか?」
いつもなら騒がしい音をたてながら
急いで出てくるのに、部屋からは
何も音がしない。
ー コンコンコンッ
「……ガンド?起きないと遅刻だぞ??」
……やはり、返事がない。
もう起きて行ったのだろうか?
一応、ADXでコールしたが
部屋から音は聞こえなかった。
「…珍しいな。何かあったのか?」
俺は首を傾げつつ外へと出る。
校舎の玄関へと入っていくと、
何やら廊下が騒がしい。
「……で、…………な。」
「まじで!?」
「ちょっと……ヤバくない?」
「……君と…………だっけ?」
「……と……か、先生……。」
…一体、何があったんだ?
とりあえず、誰かに事情を……。
「……あッ!!レ、レウッ!!」
廊下に綺麗な声が響いた。
名前を呼ばれて振り返ると、
走り回ったのか息を切らしながら
額から汗がつっと流れるのを
気にせず俺をを見つめるのは
銀髪の少女…ヒスティエだった。
「…ヒスティエ?どうかしたのか??」
俺はヒスティエに近づきながら、
ポケットからハンカチを取り出して
彼女に差し出す。
「え、あっ、ありがとう…。」
ヒスティエはおどおどしながら
ハンカチを受け取って
少し遠慮がちに汗を拭く。
「…それで、何かあったのか?」
「あッ!え、えっと、が、ガンド君がっ!!」
「ヒスティエ、落ち着いて。…ゆっくりでいいから。」
俺がそう言うとヒスティエは
少し息を整えて口を開く。
「……あ、のね。レウくn……が休んでる間にね?ザウル君って子が、レウ君の事を悪く言ってたの。それを今日の朝、たまたま知ったガンド君がザウル君に怒って問い詰めたらしいの。そしたら、ザウル君がガンド君に決闘を申し出て…。」
「……受けたのか。」
「……うん。」
ガンド……悪口なんか受け流せば良いのに。
まあ、正義感の人一倍強い奴だから
放っておけなかったのだろう。
「……ふぅ。それで、ガンド達は今何処に?」
「えっと……第3訓練場だよ。」
「ありがとう、教えてくれて。」
そう言うや否や、廊下を走る。
最近学校にいなかった俺が
凄い勢いで廊下を走っているので
すれ違う生徒は驚いた顔をしている。
…しかし、おかしいな。
ザウルに、恨まれるような事は
していないはずだが…。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「…準備は出来たか?屑よ。」
「あァんッ!?お前をぶちのめすのに、準備なんていらねぇよ、態度デカいだけのお坊ちゃまがッ!!」
「何だと!?お前みたいな下賎な馬鹿が、僕にそんな口をきいたら社会で生きられないぞ!?」
「はァアッ!?なーんでテメーなんかの許可がいるんだ、この薔薇野郎!!お前、薔薇臭せーんだよ!頭から香水、これでもかってくらいかけてんの!?」
「な、なんだとォ~!!」
……なんだこれは。
急いでここまで来たのだが、
中に入ると、ガンドとザウルが
ひたすら言い争っていた。
ガンドとザウルの周りの人を
かき分けてガンドに話しかける。
「……ガンド、何をやってるんだ?」
ため息混じりにガンドに問う。
「ハッ!!図星か~?……って、あれ?レウ??…本物?」
ぺたぺたと俺の顔を触るガンド。
…本物だって。
「ああ。ヒスティエに、お前とザウルが決闘をしていると聞いて来たんだが…どうやら違ったようだな。」
「やっと登校したか、レウ・オールディス!!」
ザウスが俺を指差しながら
ハッと笑う。
「…ザウス・モーソン?」
「今まで何をしておった、この害悪が。」
「……どういう意味だ?」
害悪?…何かしたか、俺。
「惚けおって。父上から聞けば、裏でコソコソと良からぬ事をしておるのだろう?」
「…良からぬ事?」
「…ハッ、まだ惚けるつもりか!証拠はあるんだぞ!!お前が王城に出入りしているのを目撃した者がいる!!」
王城に出入り…はしていたな。
仕事関係で。
「何か言ったらどうだ!!」
俺が黙っているので、
ザウスは更に険悪な顔になる。
「…確かに王城には出入りはしたが…国王陛下に呼ばれたからには行くしかないだろう?」
「は?こ、国王陛下だと!?…う、嘘をつけ!!」
「嘘かどうかは、国王陛下にお伺いすれば分かる。」
「な、何でお前なんかが…。」
ふむ。理由か…。
何か良い理由は……
あったな、そういえば。
「…婿に来ないかという件だ。」
「「「む、婿ぉぉぉ!?」」」
俺以外のその場にいた者達の
声が部屋に反響する。
ザウスは金魚のように
パクパクと口を開け閉めしている。
「…つまり、良からぬ事とかいうのは嘘だという事だ。…そろそろ、授業が始まるだろう?ガンド、行くぞ。」
「え?あ、あぁ?」
部屋から出ようと歩き出す。
「ま、待てッ!!」
…まだ、何か用があるのか?
「……………しろ。」
ザウスが何かボソリと呟いたが
小さすぎて聞こえない。
「は?」
「…ッ、僕と勝負しろッ!!」
…何故そうなる。
「…どちらが王女殿下に相応しいか、勝負だ!!」
「…いや、相応しいも何も決めるのは王女殿下では?」
俺の言葉に顔を真っ赤に染めるザウス。
歯をギリッと噛み締めて俺を睨む。
「う、煩い!!良いからさっさと勝負しろッ!!」
…しょうがない。やるか。
「待てッ!!」
俺がため息を吐くと同時に
静止の声がかかる。
「勝負は俺が受ける!!レウは病み上がりなんだ!!」
ガンドが俺の前に出る。
「…まさか、病み上がりの奴を相手にするなんて事はないよなー?おぼっちゃまよ。」
「ぐっ…!!な、ならお前と勝負だ!!」
…いや、別に出来るんだが。
「ランダム乱射の的で、3分間に多く撃った方の勝ちだ!!」
「ハッ!!よゆーだぜ!!」
ガンドが腰のホルダーから
青い魔銃を取り出して構える。
ザウスも鼻で笑いながら
取り巻きが持っていた豪華な装飾の
ついたケースから金色の魔銃を
取り出す。
「…レ、レウ!!」
…この声は。
「ヒスティエ。」
ヒスティエはレウの元に
駆けてきて横に並び立つ。
「い、今から?」
「ああ、そうだ。…終わったらすぐに教室行かないと、遅刻だな。」
「え?…あ、ほんとだ。」
壁に掛かっている時計を
見ると着席のチャイムまで
残り15分程だ。
「レウ!!画面のスタートをタッチしてくれ!!」
「了解。」
ガンドとザウスが集中し、
それぞれ魔銃を構え直す。
ー ピッ
『5秒前…4…3…2…1…スタート。』
ー ビーッ!!
スタートと共に5つの的が
発射される。
ー パンパンパンッ!!
ー パンパンッ!!
「チッ!!」
ガンドが3つの的を撃ち抜く。
その事実に、ザウスは忌々しげに
舌打ちをした。
次はリズムカルに次々と的が
発射されていく。
ー パンッ!!
ー パンパンッ!!
ガンドは的のど真ん中に
ピッタリと当てている。
「…凄い集中力だな。」
「ガンド君、凄い…。」
ヒスティエはポツリと
驚嘆の声を漏らした。
一方、ザウスはガンド程の
正確さはないが、なんとかガンドの
スピードについていた。
ー パンパンッ!!
ー パンッ!!
ひたすら魔銃の起動音と
発砲音が鳴り響く。
今のところ2人とも良い勝負だ。
『残り30秒です。』
無機質な声が響く。
決着まであと少し…。
ー パンッ!!
「ッ…!!」
ザウスがミスをした。
1発的に当たらなかったのだ。
「クソクソクソッ!!」
ザウスはデタラメに5発撃った。
ー パンパンッ!!
「…ッ。」
「う……そ……っ!!」
ー ビーッ。
『終了です。結果を表示します。』
終了の合図が鳴った。
勝負の結果が画面に表示される。
…どうやらガンドが勝ったようだ。
「しゃあッ!!レウッ!!俺が勝ったぜ!!」
ガンドは笑顔で俺のいる方を
振り返る。
「………ぇ?」
…が、俺を見た瞬間に
驚愕の表情で固まった。
「れ、レウ君ッ。」
「…大丈夫だ。心配するな。」
安心させるために
ヒスティエの頭を撫でる。
「で、でもッ!!」
ヒスティエは泣きそうな顔で
俺を見る。
「…な、なんで、レウ…お前ッ…!!」
ガンドが駆け寄って来て叫ぶ。
「何で撃たれてるんだよ!?」
俺の腹と左腕からは
血がボタりと流れ落ちていた。
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