たとえばこんな恋模様

響 恭也

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ハッピーバースデー

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 病院、佳代さんと一緒に定期検診に来た。おじさんはしばらく前に退院し、仕事に復帰している。孫のために頑張って働くと元気を取り戻してくれた。
 さて、俺たちの子供だが双子ということが分かった。あまり思い出したくないが、最初の子供が障害を持って生まれたことが佳代さんの不安になっている。あまり口に出して言うことではないが、どんな子供が生まれてきても受け入れて愛して育てようと決心している。ただまあ、自分が生むわけでもないのでいろいろとから回っていることは否めないが、彼女が理解してくれているならばいいのだ。うん。

「名前どうしようかな?」
「そうだね、性別ってわかったの?」
「ん~、聞いてないの」
「そっか、んじゃ、男の子と女の子で各二人分考えないとだね」
「そうだね。どうしよ?」
「まあ、いくつか候補考えて、後で選ぶことにしよっか」
「うん、そうしようか」

 うちの両親は二人で決めなさいと干渉しないことを早々と言ってきた。おじさんも同じで、名前は親が最初に我が子に送るプレゼントだから、といういい言葉をいただいた。人の子の親になるということの実感はまだ薄いけれど、人が生まれてくることはとても大変なことだということは実感として感じられたのだった。

 それから時間がたって、佳代さんのお腹では双子がすくすくと育っていった。検診も順調で、お医者さんも健康ですとにっこり笑って告げてくれた。予定日は年末で、順調だと聞いて、ほっと胸をなでおろした。
 子供の名前はいくつか候補が決まり、後は生まれた子供の顔を見て決めようというところでまとまっていた。
 そういえば、佳代さんの家に一足早く新しい家族が加わった。知人から譲ってもらった豆柴と、ほぼ同時期に迷い込んできた子猫だ。子猫は迷い猫の張り紙などをしたが飼い主は現れず、そのまま飼うことになったらしい。名前は何のひねりもなく、ポチとタマとつけた。問題は、こいつらが名前を勘違いしたことだ。

「ポチー、お散歩行くよー」
「にゃーん!」
「タマ、なんでここで爪研いだの!」
「きゅーん・・・」
 あれおかしいな、こんなつもりじゃ…ってちょっとしょんぼりしている佳代さんがかわいくてちょっと萌えた。そして新しい家族は最初俺にやたら敵意を示したが、佳代さんがくっついてくると何かを察したのか、猫が背中をよじ登り、わんこは膝の上で丸くなった。とても・・・もふもふです。

 さらに時は流れて、年の瀬、早めの休暇をもらって帰省した。ポチとタマは順調に育ち、佳代さんのしつけの甲斐があってとても良い子に育っていた。しかももふもふだ。大事なことなのでもう一度、もふもふだ。
 そして12月23日。破水した。もともとの打ち合わせに従ってタクシーを呼ぶ。母が行きつけの病院に連絡し、受け入れ態勢を整えてもらった。祝日だったが主治医の先生が当直で病院にいたことも幸いし、双方の父とともに病院に向かう。分娩室の前で落ち着かずうろうろする。うろうろする。おじさんが出かける前にポチ(猫)とタマ(柴)にご飯をあげてくれたようだ。座って時計を見る。なかなか進まない。と思ったらいつの間にか30分ほどが経過していた。親たちは、母はさすがに経験者だからかどっしりと構えていた。お互いの父は俺と似たり寄ったりでうろうろしたり座ったりを繰り返している。うん、親子だ。などと現実逃避していると、唐突に産声が響き渡った。うちの両親が飛び上がって抱き合っている。おじさんは座り込んで涙をこぼす。けれどまだ扉があかない。じりじりしているともう一つ産声が響く。あ、そういや双子だった。俺どんだけ頭回ってないんだ。しばらくしてドアが開いて主治医の先生が出てきた。
「おめでとうございます。元気な男の子と女の子です」
「ありがとうございます。本当にありがとうございます」

 中に入る。元気な鳴き声が聞こえる。佳代さんはぐったりしていたが、それでも子供に微笑みを向けていた。顔をくしゃくしゃにして声をあげているたった今生を受けた子供たち。すごい愛おしさがこみ上げる。

「ゆーくん、わたし頑張ったよ」
「そうだね、お疲れ様。ありがとう」
「うん、かわいいね、赤ちゃん」
「そうだね、佳代さんも休まないとね」
「うん、ゆーくん、泣いてるの?」
「あれ、おかしいな、うれしいのにね。こんなにうれしいのになんでかな?」
「うれしい時も人間泣けるんだよ。わたしも最近知ったけど」
「ああ、そうなんだ。うん、うれしくて幸せで、胸が熱いんだ」

 いつの間にか日付は変わっていて、子供たちの誕生日は24日になっていた。クリスマスに1日早い、最高のプレゼントだったのだ。
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