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全ての終わりとはじまり(後)

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「相手の命を奪う必要はなかったよな?」

 俺がニヤリとと笑みを浮かべて問いかけると、我に返ったヴァレンシュタイン伯の手が上がる。



「勝負あり!」

 その宣言に、皇帝は玉座の上で頭を抱え、フレデリカは椅子の上で飛び跳ねている……あ、足を踏み外してすっころびやがった。



 皇帝派の貴族たちは顔色が真っ白で、今にも断頭台に送られそうな様子である。



「フレデリカ皇女。貴女の望みを」

 ヴァレンシュタイン伯が告げると、フレデリカ皇女は満面の笑みでこう告げた。

「和平を」



 和平といっても色々ある。詳しい話は後日ということになった。

 皇帝はまるで虜囚のような面持ちで椅子に座っている。



「う、ううう……」

 そこで気を失っていたガイウスが目覚めた。

 自らの身体を検め、五体満足で首がつながっていることに不思議がっていた。

「おい、アル。敵は必ず殺せって教えたよな」

「ああ、そうだな」

「というかだな、確かに俺も油断したが、お前相変わらずとんでもないな」

「そういうなって。そっちもナイフの一本くらい仕込んでただろ?」

「まあな。武器を取り出す、その一瞬意識がそっちに行った。そのわずかな分だけお前が先に行った。そういうことだろ」

「まいったか」

 俺がドヤ顔で告げると、ガイウスもいかつい顔をゆがめて笑みを浮かべる。

「ああ、負けたよ。完敗だ」

 そう言って手を差し出してくるが、俺はあえて手を取らない。

「そういうセリフは懐のナイフを出してからにしてくれ」

「ははは、ばれたか。今からでもお前を殺せば逆転の目はあると思ったんだがな」

「怖い怖い。ジョークじゃなくて本気で言ってるあたりが、な」

「残心は大事だ」

「ああ、そうだな」

 俺たちの会話にヴァレンシュタイン伯が肩をすくめていた。やれやれと言った風情だ。



「それで、これからどうするつもりだ?」

「そう、だな。旅にでも出るかね」

「はあ!? 命がけで戦って勝ち取ったんだろうが。何考えてやがる!?」

「んー、王様とか無理。軍人も向いてない」

「うおい、俺はお前に勝つためにいろいろと……」

「ああ、そこそこ、そこを聞きたい。なんで俺に在んな突っかかってきた?」

 突っかかて来たっていうがやってることは戦争だ。まあ、相応の人間が死んでいる。

 そんな一言で終わらすような問題じゃあない。



「夢を見た。そこでは……」

 ガイウスの話を要約すると、夢の中で俺と同じ士官学校に通っていたそうだ。そういやいたな。毎回俺の次席にいたやつ。

 そしてこの世界で学んだ理論や技術を利用してのし上がったという。

 ついに、というところで俺がこの世界に現れた。それは、俺に対して勝利をおさめろというお告げかなんかだと思ったということらしい。



「望むこと、なあ……」

「それこそこの国の帝位すら望めるだろうよ。お前はそれだけの武勲を上げた」

「いらん。無理」

「お前はそういうやつ、だよなあ」

「とりあえず、押しかけ女房だけは勘弁な」

 ガイウスの表情が固まった。そしてすすすと俺から距離を取る。



 さっきを感じた俺は真横に飛んだ。俺が立っていた場所に頭上から飛んできた矢が突き刺さる。

「にゅふふふふふ、用済みになったからニャーは捨てられるのかニャ?」

「白き光、縛鎖となりて彼のものをつなぎ留めよ グレイプニル!」

 さらに飛びのくと、白魔法最高位の封印魔法が着弾する。

「うふ、ふふふふふふふふふふ。逃がしませんわ」

 ハイライトが消えた目でこちらを見るフレデリカ。さらに雷をまとう人身となったヌエ。



「アル、男はな」

「なんだ?」

「年貢の納め時ってもんがあるんだよ」

「わかる、言いたいことはわかる。けど……」

「あきらめろ」

 ガイウスのその一言をきっかけとして、3人は俺に飛びついてきた。



 さて、講和の話は結構あっさりと付いた。まず、皇子二人はガイウスが閉じ込めていただけだった。

 後継者は長子がそのまま後継者に指名された。直後、フレデリカの暗躍で彼は立派にケモミミ萌えに改造させていた。

 皇妃に獣人族がなるなど前代未聞だが、この国の騒乱をおさめた皇女のたっての望みとあって受け入れられることになるだろう。

 国を割った責任を取るという名目で、自らは皇位継承者から退く。同時に辺境の地の開拓に名乗り出た。

 そしてその責任を丸ごと俺におっかぶせてきた。



「よろしくね。アリタ辺境伯」

 フレデリカの笑顔に、俺はもはや何も言うまいと言葉を飲み込んだ。たぶんこれが一番楽なルートなのだろう。

 皇帝陛下にはならなくて済んだが、貴族として名を連ねることからは逃れられなかった。ガイウスと別れ、身を寄せていた辺境領で開拓にいそしむことになった。

 辺境伯といえば聞こえはいいが、亜人や魔物が跳梁するまさに人外魔境である。ただ、シーマ率いる獣人族と、辺境伯軍の指揮官に収まったケネスがにらみを利かせる。

 アントニオはもともと商家の出身だったので、帝都との交易ルートを開拓してもうけを出している。

 そうこうしているうちに数年の時が過ぎた。



「父上!」

 書類仕事をしている俺の部屋に、黒髪の少年が飛び込んできた。

「ん? どうしたノブカツ」

「シーマ母上が呼んでます」

「ん、おう。わかったぞ」

 屋敷の前庭に行くと、巨大な魔物が横たわっていた。眉間には矢が根元まで突き刺さっている。

「にゅーふー!」

 ふんぞり返るシーマ。その足元には猫耳の少女がまとわりついている。



「北西の森の主を討ち取ったニャ!」

 俺は無言でシーマの耳をモフってやる。なお、シーマの足元にいた少女。リーナが俺の背中をよじ登る。

「ぱぱー!」



「よし、ケネス! 手勢を率いてキャンプを構築なさい!」

 フレデリカが帳面を片手にケネスに命令を下していた。

「はっ!」

 我がアリタ領は順調にその領域を広げている。子供たちも生まれ、にぎやかになってきた。

 旅に出ようかとも思っていたが、そもそも目の前の森がすでにダンジョンである。

 なんだかんだで充実した毎日を過ごしていることができるのは幸せなことなんだろうと思った。



「閣下! 帝都よりご使者が」

「おお、ガイウス卿。今日はいかに?」

「うむ、アリタ辺境伯に置かれましてはご機嫌麗しゅう」

「前置きはいい、俺とお前の間柄だ」

「じゃあ、改めて。皇帝陛下は貴殿の功績をお認めになり、大公位を賜らんとの御意である」

「まて、また俺に面倒ごとを押し付けるのか!?」

「はっはっは。こうやって外堀っていうのは埋まっていくのだよ」

 大笑いするガイウスにとびかかる俺を見て、フレデリカは苦笑をうかべている。



 ああ、なんだかんだで幸せな日常なんだろう。たぶん。
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