騎士と女盗賊

響 恭也

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刻一刻

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「卑怯者!」
 会議に出席していた豪族の一人が立ち上がって叫ぶ。
「どういう意味かな?」
「魔法などを使うとは何事だ! 神聖なる儀式をなんだと心得る!」
「ほう、では何をどうやっても届かぬ弓を持たせるのは卑怯ではないと?」
「それを何とかするのが技量であろうが!」
「そうだな、何とかして見せた。それに何が不満だ?」
「魔法を使ったことだ!」
「なれば貴殿は戦場で魔法を使ってこられたらなす術もなく討たれると?」
「どういう意味だ!?」
「そのままだが? 戦場において勝利こそが全てであろうが。敵がこちらより高性能な武器を使ったら卑怯と罵るのか? 魔法を使ったら? 奇襲を受けたら?」
「詭弁だ!」
「どっちがだ? そもそもその指定された弓を使う以外に私に制約はなかったはずだ。それは確認している」
 その時、クビラが立ち上がって声を上げた。
「もうよい。ジェド殿の技は示された。寄って我らは彼の話を聞かねばならぬ」
「「「はは!」」」
「して問おう。汝は我らに何を望む?」
「助力を」
「どのような形で?」
「戦場にて」
「敵は?」
「簒奪者バラス」
「期日は?」
「会戦の当日のみ」
「なっ!?」
 驚きがざわめきとなって会議場を支配する。
「さらに言うならば、我が采に従って一度のみ突撃を敢行していただきたい。その後は思うままに戦っていただいて結構。我らの旗幟危うしとみるなれば鉾を返すも自由」
「とんでもない要求だな……」
「まともではない戦いをしようとしている。それに勝たねば貴殿らに支払う報酬もない」
 ジェド様は肩をすくめて苦笑いを浮かべる。この状況でだ。その胆力にさらに驚愕が浮かぶ。
「ぐわっはっはっはっは。面白い。その一度きりの采、見せてもらおうではないか!」
「ああ、合図は一度だけだ。見落とさないようにな」
「草原を駆ける我らは天高き鳥をも射抜く。そのようなことはあり得ない!」
「頼もしいな。よろしく頼む」
「して、まずは先遣隊と戦うのか?」
「ああ、けど貴公らの出番は本体との戦いだ」
「なに?!」
「先ず力を示さねば貴公らはいかんのだろう?」
「く、くくくく、面白いな。いいだろう。ムカリ!」
「はは!」
「ジェド殿についてゆけ。連絡用に兵5人を預ける。場合によってはそのまま参戦せよ。連れてゆく兵の人選は任す」
「承知! スブタイ、ジェベ、チンベ、チラウン、ボロクル。行くぞ」
「「「はは!」」」
「へ? あの??」
「このムカリは我が配下でな、勇敢ながら思慮も持ち合わせておる。貴公の助けになろう」
「ならばありがたくお借りします」
「なに、わしもな、貴公がどれほどのものか見てみたくなったのだ。希代の英雄かそれとも詐欺師か、ほら吹きか」
「ただの愚か者かもしれませんよ?」
「だとすれば儂の目が曇っておっただけのことじゃ」
「ジェド様。馬を用意いたしました。こちらへ」
「おお、ムカリ殿。感謝する」
「ムカリと。私はあなたの配下となりました」
「そうか、短い間かもしれぬがよろしく頼む」
「はっ!」

 一方そのころ。バルク丘陵ではアルフ率いる冒険者たちと傭兵が拠点を築いていた。柵を連ね騎馬兵の突撃を阻むつくりである。頂上付近に建てられた陣屋は街道の監視と兵の収容、簡易防備施設を整えている。
 だが、ここに集った兵力は冒険者80名、傭兵100名、ラフェルからの兵が100名。寄せ集めもいいところであり、正規兵の騎馬500にとても対抗できるものではない。
「いいか、ジェド様が戻られる前に防備を整えるのだ!」
「「おおう!!」」
 幸いにして兵の士気は高い。てきぱきと作業をこなしてゆく。騎兵と歩兵の戦力比は5:1。敵の兵力は500で、こちらは300弱。戦力比は8倍近い。
 だが兵たちの顔に悲壮感はなかった。大公に認められたジェドならばなんとかするというよくわからない信頼感が兵の士気を支えていた。
 バラスの放った先遣隊は刻一刻と迫る。ここを抜かれれば物資集積基地が奪われ、ラフェル陥落は避けられない。
 決戦の時は迫っていた。
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