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行軍訓練
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先日の鉱山開放で都市のグレードが1段上がった。それに伴って施設のレベルも上げることができたため、兵の募集をしたところ……想定以上に集まってしまった。
冒険者優遇政策がうまく行ったという意味でもあるだろう。
要するに、冒険者でこれだけの待遇を受けられるなら、兵になれば定職だ。アルバートのように戦士になれば、もっと高い給料をもらえる。そういうことらしい。
入隊試験は熾烈を極めた……なんてことはなく、最低限の面接と、ギルドから回ってきた履歴書だ。
さすがにあまりにもひどいのは弾いた。そのうえで、例えば討伐依頼をこなしていないような者でもキャンプには参加させた。
そして……キャンプは地獄絵図だったそうだ。
ひたすら走らせる。背後からは教官の罵声付きだ。ぶっ倒れても治癒魔法とポーションが降ってくる。
休むことなく丸1日走らされてボロボロになって、宿舎に帰れるかと思うとそのまま食事だ。
はっきり言って疲れすぎると食事なんて喉を通るわけがない。それでも残すことは許されず、腹いっぱい食う羽目になった。
もちろん教官が周囲を巡回し、罵声もセットだ。
うん、ひどい。けども場合によっては命を落とす危険を顧みず戦ってもらうことになる。そう考えると、正気じゃやってられないんだなと思う。
さて、こうやって過酷な訓練を耐え抜いた精兵たち。その数なんと1500。
これまでの兵数の一気に3倍だ。
それに伴って戦士も増やした。アルバートは戦士長として軍のトップに立ってもらう体制はそのまま、上級戦士の階級を作り、レギンを工房長と兼任。アリエルとセリアを任命した。
セリアは冒険者上がりの兵に人気だ。彼女の副官を募集したところ応募が殺到した。
結局パーティメンバーだったケイオスを戦士に任命し、彼女の副官を任せた。
ケイオスの槍の腕前はアルバートが目をかけるほどで、普通の戦士ではすでに1,2を争う腕前だ。
さて、前置きが長くなった。これまで兵が足りずに回数をこなせなかった巡回を増やす。同時にある程度大きな魔物の巣をつぶそうというわけだ。
新兵たちには実戦があるとは伝えていない。突発的な実戦でどの程度戦えるか見るというのが目的の一つだったりする。
「こっちの森に最近ゴブリンとコボルトが増えてるのよね」
「ふーむ、現地の警備兵からは報告が上がってきてないぞ?」
「たぶんこっちの負担になるのを恐れて現場で何とかしようとしているんじゃない? 無茶よねえ」
「うーん、気を使わせてしまってるのは申し訳ないね」
あーでもない、こうでもないと経路について検討を重ねる。レギンは今回新しく開発した荷車のテストをしたいと言ってきた。
「街道の改良も必要じゃがとりあえず耐久性をあげた。破損や不具合の情報が欲しいんじゃ」
訓練から脱落した人も、希望者は軍で雇うことにした。ドワーフ工兵隊の補助だったり荷運びだったりと、なんだかんだで人は足りてない。
近愛の遠征で後方支援をしてもらうことにした。
「出発!」
アルバートが手を上げ、前方に振り下ろす。先頭はセリアの部隊だ。獣人族の兵を多く配備し、斥候を担う。
そういえば斥候を馬鹿にした兵がいたが、目隠しをしてフルボッコにしたら改心してくれたとアリエルが笑顔で話してくれた。
怖かった。
行軍は脱落する者もおらず、列も乱れはない。足音すら同時に聞こえると錯覚するほど整然としていた。
「報告! 前方にゴブリンの小集団あり。数は150ほどです」
「戦士2名を繰り出せ。セリアには後詰を」
「はい!」
報告に来た戦士、ケイオスはピシッとした動作で敬礼を返して走り去った。
「彼がアルバートが目にかけてる人?」
「あ、ああ! そうです。実によい腕をしていましてな」
「ふうん、覚えとくよ」
「はっ!」
前衛の部隊は特に問題なくゴブリンを蹴散らしたそうだ。
そのあとも散発的な戦闘はあったけど、そもそもこちらの方が数が多いので、襲撃などはなかったようだ。
そうして予定地点で野営に入って前衛部隊の戦闘についての報告を聞いていた。
「ちょっと浮足立ったけど、ケイオスが活を入れたらなんとかなったニャ」
「なるほど。よくやってくれたね」
「はっ! 恐縮です!」
「ケイオス、旦那は怖くないニャ。いい人ニャ」
「いえ、その、あの」
がちがちになってなんかプルプルしている。
「食事でもどうかな?」
「は、はっ! 光栄です!」
食事と言っても野戦食なので、領主だろうが戦士だろうが、兵士だろうがみんな同じメニューだ。
ケイオスからパーティ結成の話を聞き、残りの二人の行き先を聞いた。
それぞれレギンとアリエルの部下に収まったらしい。戦士に任命されたとのことで、ケイオス曰く「大出世ですよ」とのこと。
さて、ここで夜襲の模擬戦のはずだが……?
「マスター。困ったことになったの」
「へ?」
チコがガチの困り顔で僕にこっそりと話しかけてきた。
「模擬戦じゃなくて本格的に戦闘になりそうなの」
「……敵の規模は?」
「ゴブリンが主力だけど、コボルトとワーウルフがいるっぽいの。こっちより多いから2000ほどかな」
「厄介だな。とりあえずみんなを起こして」
そうチコに言った直後、僕のテントに近づいてくる足跡があった。
「旦那、西から敵襲ニャ」
「わかった。警戒態勢を」
「アルバートのオッサンには伝えてあるニャ」
「仕事が早いね。ありがとう」
「ふふん、地獄のキャンプを生き延びて初陣で死ぬとかあほらしいですからニャ」
そうチコはへにゃっとした笑みを浮かべた。
冒険者優遇政策がうまく行ったという意味でもあるだろう。
要するに、冒険者でこれだけの待遇を受けられるなら、兵になれば定職だ。アルバートのように戦士になれば、もっと高い給料をもらえる。そういうことらしい。
入隊試験は熾烈を極めた……なんてことはなく、最低限の面接と、ギルドから回ってきた履歴書だ。
さすがにあまりにもひどいのは弾いた。そのうえで、例えば討伐依頼をこなしていないような者でもキャンプには参加させた。
そして……キャンプは地獄絵図だったそうだ。
ひたすら走らせる。背後からは教官の罵声付きだ。ぶっ倒れても治癒魔法とポーションが降ってくる。
休むことなく丸1日走らされてボロボロになって、宿舎に帰れるかと思うとそのまま食事だ。
はっきり言って疲れすぎると食事なんて喉を通るわけがない。それでも残すことは許されず、腹いっぱい食う羽目になった。
もちろん教官が周囲を巡回し、罵声もセットだ。
うん、ひどい。けども場合によっては命を落とす危険を顧みず戦ってもらうことになる。そう考えると、正気じゃやってられないんだなと思う。
さて、こうやって過酷な訓練を耐え抜いた精兵たち。その数なんと1500。
これまでの兵数の一気に3倍だ。
それに伴って戦士も増やした。アルバートは戦士長として軍のトップに立ってもらう体制はそのまま、上級戦士の階級を作り、レギンを工房長と兼任。アリエルとセリアを任命した。
セリアは冒険者上がりの兵に人気だ。彼女の副官を募集したところ応募が殺到した。
結局パーティメンバーだったケイオスを戦士に任命し、彼女の副官を任せた。
ケイオスの槍の腕前はアルバートが目をかけるほどで、普通の戦士ではすでに1,2を争う腕前だ。
さて、前置きが長くなった。これまで兵が足りずに回数をこなせなかった巡回を増やす。同時にある程度大きな魔物の巣をつぶそうというわけだ。
新兵たちには実戦があるとは伝えていない。突発的な実戦でどの程度戦えるか見るというのが目的の一つだったりする。
「こっちの森に最近ゴブリンとコボルトが増えてるのよね」
「ふーむ、現地の警備兵からは報告が上がってきてないぞ?」
「たぶんこっちの負担になるのを恐れて現場で何とかしようとしているんじゃない? 無茶よねえ」
「うーん、気を使わせてしまってるのは申し訳ないね」
あーでもない、こうでもないと経路について検討を重ねる。レギンは今回新しく開発した荷車のテストをしたいと言ってきた。
「街道の改良も必要じゃがとりあえず耐久性をあげた。破損や不具合の情報が欲しいんじゃ」
訓練から脱落した人も、希望者は軍で雇うことにした。ドワーフ工兵隊の補助だったり荷運びだったりと、なんだかんだで人は足りてない。
近愛の遠征で後方支援をしてもらうことにした。
「出発!」
アルバートが手を上げ、前方に振り下ろす。先頭はセリアの部隊だ。獣人族の兵を多く配備し、斥候を担う。
そういえば斥候を馬鹿にした兵がいたが、目隠しをしてフルボッコにしたら改心してくれたとアリエルが笑顔で話してくれた。
怖かった。
行軍は脱落する者もおらず、列も乱れはない。足音すら同時に聞こえると錯覚するほど整然としていた。
「報告! 前方にゴブリンの小集団あり。数は150ほどです」
「戦士2名を繰り出せ。セリアには後詰を」
「はい!」
報告に来た戦士、ケイオスはピシッとした動作で敬礼を返して走り去った。
「彼がアルバートが目にかけてる人?」
「あ、ああ! そうです。実によい腕をしていましてな」
「ふうん、覚えとくよ」
「はっ!」
前衛の部隊は特に問題なくゴブリンを蹴散らしたそうだ。
そのあとも散発的な戦闘はあったけど、そもそもこちらの方が数が多いので、襲撃などはなかったようだ。
そうして予定地点で野営に入って前衛部隊の戦闘についての報告を聞いていた。
「ちょっと浮足立ったけど、ケイオスが活を入れたらなんとかなったニャ」
「なるほど。よくやってくれたね」
「はっ! 恐縮です!」
「ケイオス、旦那は怖くないニャ。いい人ニャ」
「いえ、その、あの」
がちがちになってなんかプルプルしている。
「食事でもどうかな?」
「は、はっ! 光栄です!」
食事と言っても野戦食なので、領主だろうが戦士だろうが、兵士だろうがみんな同じメニューだ。
ケイオスからパーティ結成の話を聞き、残りの二人の行き先を聞いた。
それぞれレギンとアリエルの部下に収まったらしい。戦士に任命されたとのことで、ケイオス曰く「大出世ですよ」とのこと。
さて、ここで夜襲の模擬戦のはずだが……?
「マスター。困ったことになったの」
「へ?」
チコがガチの困り顔で僕にこっそりと話しかけてきた。
「模擬戦じゃなくて本格的に戦闘になりそうなの」
「……敵の規模は?」
「ゴブリンが主力だけど、コボルトとワーウルフがいるっぽいの。こっちより多いから2000ほどかな」
「厄介だな。とりあえずみんなを起こして」
そうチコに言った直後、僕のテントに近づいてくる足跡があった。
「旦那、西から敵襲ニャ」
「わかった。警戒態勢を」
「アルバートのオッサンには伝えてあるニャ」
「仕事が早いね。ありがとう」
「ふふん、地獄のキャンプを生き延びて初陣で死ぬとかあほらしいですからニャ」
そうチコはへにゃっとした笑みを浮かべた。
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