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地の底に眠るもの

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「あ、あとどれくらいですか?」

 エルフの魔法使いが息も絶え絶えに聞いてきた。

「そう、だな。そろそろ枝道が見えてこないとおかしいんだが」

「……崩れてるかもニャ」

「なぜわかるのじゃ?」

「音がおかしい。ほんとならわき道に流れる風の音が聞こえるはずニャ」

 弓使いの探知能力は俺たちの中でも群を抜いている。そんな彼女が言うのなら間違いはないのだろう。

「行き止まりなのか?」

「風は流れてるニャ。ただ、このまま進むと……」

「どうなる?」

「……最深部かニャ」

 少し口ごもったことが気になった。そこに何があるというのだろうか?

 ふと気になって地図を確認したが、坑道の先は記されていなかった。

「この先は行き止まりになってるんだが……?」

「そもそもこのダンジョンがどうやって見つかったか考えてみるんじゃ」

「……地震があって坑道が崩れて未知の通路が見つかった、か」

「じゃろ? ならば、行き止まりの先ができているのかもしれん。そして、そんな大発見を持ち帰れば……?」

「ああ、報酬はでかいな!」

「生きて帰れれば、ですけどね」

 俺とドワーフが盛り上がりかけたところで、エルフの男がツッコミを入れる。

 だが彼の意見は正しい。冒険者は生還してなんぼ、なのだ。情報を持ち帰らなければどんな大発見も意味がない。



 弓使いの言うことは正しかった。地図では行き止まりになっているはずの坑道に、先があったのだ。



「……なんか、すげー嫌な感じだよな」

「ああ、貴方もそう思いますか」

「うーむ、ワシの力量では見通せんが、土属性のエーテルが溢れかえっておるな」

「なるほど、だからか!」

 石が宙に浮きあがると、きらりと光った石を中心にいびつな人型を形作る。

「ちっ! 自然発生型のゴーレムか!」

 魔物の中でもゴーレムは非常に厄介だ。耐久力が高いし、力も強い。

「ぐぬっ!」

 大盾を構え、その後ろに利き腕を差し込んで全力でゴーレムの拳を受け止める。

 そして、亀裂の入っているところや石同士の隙間を槍の穂先でえぐる。



「風よ!」

 エルフの攻撃魔法も当たるが、いかんせん硬い。

「ふぅっ!」

 普段より長めに息を吐いて放った矢は、俺たちの攻撃で若干大きくなっていた石同士の隙間を貫き、胸部のコアを射抜いた。

 それにより、ゴーレムを形成していたエーテルの流れが切れて元の土砂になる。



「いてててて」

 重戦士の左腕が大きくはれ上がっていた。

「む、これはいけません」

 魔法使いは水筒から水を負傷部に垂らし、呪文を唱えた。

「清らかなる水の流れよ、清冽なる恵みを今ここにもたらしたまえ……」

 鉱山の中で地下水脈を掘りぬいて坑道が水没なんてのはたまに聞く話だ。だから大量の水はタブーにされている。

 むしろわずか数滴の水を触媒に骨まで行っていた負傷を治してのけるあたり、かなりの腕利きだ。



「すまんな」

「いえ、貴方が盾を構えてくれないと、私もおちおち呪文を唱えられませんので」

「違いない」

 互いにニッと笑顔を交わす。

 ピンチの後でこうやって互いにきずなが深まるのは良いことだ。これがひどいのになると互いの行動や役割にケチをつけ始めて空中分解なんてのも、実はよくある話だったりする。

 誇りとかプライドって大事だよ? けど時と場合を選ぼうぜ?



「行こうか」

 俺の言葉に仲間は頷きを返す。

 重苦しいエーテルをかき分けるように、俺たちは最深部と思われる坑道に足を踏み入れて行った。



***********************************************************************************



「どう?」

 僕の問いにレギンが渋い顔で答えた。

「厳しいですな。大地のエーテルが暴走しておる」

「原因はわかる?」

「……鉱山の奥に強大な何かがいるようじゃ」

「なるほどね。冒険者たちの救助は?」

「彼らが最深部に向かっていなければあるいは、ですじゃ」

「じゃあ、行こう」

 僕の宣言にアルバートは笑みを浮かべ、どんっと胸を叩いた。

「俺にお任せあれ! 殿の御身、守りぬいて見せますぞ!」

「ともに行きましょう!」

 アリエルも笑みを浮かべて頷く。

「こうなってはワシも腹をくくりますぞ」

 レギンは崩落した入口に向け手をかざす。

 その手からエーテルが放射されると、まるで逆回しのように崩れた岩が宙に浮きあがって元通りの通路に復旧した。

「ふう」

 レギンが生産以外で活躍したのは初めてじゃないだろうか?

「む、ワシをただの飲んだくれと思っていなさったか?」

「いや、そこまでは……」

「まあ、よい。ワシの真価をここで見せて進ぜましょう」

 ふんすとドヤ顔でふんぞり返るレギン。



 別にレギンを軽んじていたつもりはないし、戦いのスキルを求めていなかっただけだ。ただ、彼の意外なスキルに驚いたというところが正しい。

 ドワーフたちは天才的な鉱山技師だ。

 土のエーテルを操るすべに長けている。ということは、鉱山型ダンジョンでは無類の適性を誇るということでもあった。

 普段はあり得るかアルバートが先頭に立つけど、今回はレギンがすいすいと歩いている。

「ほいっ!」

 無造作に入り込んだ部屋で待ち構えていたゴーレムを、手に持ったハンマーの一撃で粉砕した。

「……レギン。いったい何をどうやったらストーンゴーレムを片手で粉砕できるんだ?」

「ん? 何、ちょっとしたコツがあってじゃな」

「ぜひご教授願いたい」

 アルバートの言葉に、アリエルもこくこくと頷いている。

「石には目があるんじゃ。その目を読んでじゃな、芯を見極めてそれを叩けば……目に従って石は割れるんじゃな」

「……え?」

「ほれ、ここに線があるじゃろ?」

「……はい?」

 うん、アルバートもアリエルもきょとんとしている。

 おそらくレギンが言いたいことは、エーテルの流れのことだろう。そのエーテルが集約している点を叩くと言いたいのだろうか。

 ただ、土属性のエーテルによほど深い造詣がないと、そもそもそんな細かな違いなど見えないだろう。

 アリエルは高位の魔法使いでもあるが、彼女の属性は風と水だ。アルバートも火属性のエーテルを操るが、彼の場合は自身の強化に使っている。



 ゴーレムの類は即座にレギンが粉砕し、それ以外の魔物はアルバートとアリエルが蹴散らした。

「灼熱斬バーニングブレード!」

 アルバートが振るった剣が、ゴブリンたちを両断する。



「むう」

 レギンが渋い表情をしている。

 再び崩落している通路を通れるようにした。するとその先からぶわっと濃密なエーテルが吹きつけてくる。



「これは……」

 アリエルも吹き付けてくるエーテルにぶるっと身震いした。

 かなり強大な存在がこの先にいる。鉱山のエーテルの流れを捻じ曲げ、矢位に染めた相手だ。



「殿、足跡です」

 数人分の足跡が通路の先に続いていた。

 僕たちは彼らを追って歩き出した。
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