33 / 33
進軍再開
しおりを挟む
「では、ここの守りは頼むぞ」
馬上からゴンザレスのオッサンが新たに配備された騎士に重々しく命じる。
「はっ!」
直立不動で敬礼するこんな僻地の守備を命じられた哀れな騎士……とか思っていたがそうでもないみたいだ。
なんでもリチャード陛下から直々に命じられたそうで、着任した時のあいさつでガチ泣きする結構いい歳の騎士に、正直こっちはドン引きしていた。
コンラルドの配下から中堅どころを数名選んでもらい、この騎士の補佐に付けることにした。
桟道自体は当面の修復を断念し、俺たちが掘った坑道を維持してもらう。
坑道の中央に詰め所を置き、簡易な関所機能を持たせた。帝都方面からの犯罪者の流入を抑制するためだ。
そういえば面白くもない情報があった。先日の襲撃で、襲ってきたのはすべてアンデッドだったというのだ。
翌朝、敵兵が敗走したと思われる方角で、数名の死体が見つかった。傷を負って死んだと思われていたが、傷一つない。
そして同行していたギルドの魔導士(ガチムチ)が闇のエーテルの残滓を発見した、というわけだ。
アンデッド自体は珍しくない。街道なんかでもたまに発生するし、ポピュラーな魔物である。
ただ、生きている人間並みの動きをするとなると相当な腕の死霊術師が関わっていたと考えるほかない。
マリオネットと呼ばれる術がある。自らのエーテルを糸状に放射し、物体を支配して動かすと言うものだ。
理論上はと前置きしたうえであるが、極めればただの死体を剣の達人のように動かすことができるだろう。
術式をいじって多数の死者を同時に動かせるようにすることも可能だろう。
「んー、常軌を逸したってやつね」
俺の仮説を聞いたローレットは少し顔をしかめながらそう断じた。
「だよなあ。ってか相当マッドなやつだぞ」
そしてそんなことができそうな名前で、二人とも同時に同じ名前が出てきた。
死霊術を極めると精気を出し入れすることができると聞く。例えば他者の精気を吸い取ることで身体に活力を戻したりできるというわけで、見た目上若返ったりする。
人族でありながら、すでに200年を生きると言われているもはや魔物の領域に半分以上踏み込んでいるかの魔導士、共和国最強にして最凶の怪人ドウマン。
「あー、もうね、初対面でエナジードレイン仕掛けてきたのよ」
「それ外交問題になりませんかねえ?」
過去になんかの交流会的で顔を合わせたことがあるらしい。
「そうねー、それが表ざたになってたら、少なくともお父様が剣を抜いたことは間違いないでしょうね」
「剣で済ませるんですね……」
「そこは理性がまだ残ってるんでしょ」
ちなみにリチャード陛下の最も得意とする武器は槍である。一振りで10を超える魔物を両断したとかエピソードには事欠かない。
「んで、どうやって対処したんです?」
「魔力の動きを感知してディスペルしただけ。たぶん向こうも簡単な術式しか使ってなかったから基本を知ってたら何とでもなったわ」
「えーっと、それ既に相当な離れ業なんですが」
きょとんと首をかしげるローレット。これだから天才の血筋は……。
「え? じゃあこれは?」
ローレットの魔力が動いた。エーテルを編み上げ不可視の魔法陣が構築される。
術式を解析し、核となる一点を見つけると、そこに自分のエーテルを逆波長でぶつける。
「ああ、そういうことですか」
「あんたもできるじゃない」
意外に難しくないのかもしれない。というか、この術式は「眠りの霧」と呼ばれるもので、相手のエーテルを不活性化させて眠らせる効果を持つ。
「というかですね。俺を眠らせてどうするおつもりで?」
「そうねえ……既成事実でも作ろうかしら」
と言った瞬間ローレットが首を横に振る。
ローレットの眉間があった位置を小石が通り抜けていった。
「いけません」
笑ってない笑顔を貼り付けてローリアがやってくる。
「ああ、準備ができたのか」
「はい、出立の時間です」
俺はローレットを促し立ち上がった。
先遣隊を引着ることになっているクリフは疲労から目からは光が消えていたので、ローリアに激励させた。
「クリフさん頑張ってくださいねー」
すっごい棒読みだったが、クリフの目はピンク色の光に満たされた。
「はいっ! ローリアさんのために頑張ります」
「ありがとーございますぅー」
いやいや感が半端ない。それでもクリフは気づかない。というか気づいているのかもしれないが、自分に都合よく変換しているようだ。
大きく手を振りながらクリフたち先遣隊は出発していったのが昨日のことだ。
事前情報でなここから先は特に難所はない。山岳地帯ゆえの水の確保などの難点はあるだろうが、これまでの苦労からすれば問題にならない程度だ。
先行きは不透明だが、ゴールは見えている。そう自分を奮い立たせて馬にまたがった。
「わあ……!」
坑道の先は下りになっている。山が連なって眼下に森を見下ろす雄大な光景だった。
道は上りと同じほどの幅で、谷間をなぞるように続いていた。
「うーん、場所によっては拡張と整備が必要だな」
「そうね、後続にわかるように印をつけておきましょう」
「ああ、しかし、やっとここまで来たか」
「この峡谷を抜けたらひたすら平地が広がってるみたいね」
「いくつか拠点を作ろう。魔物に襲われても対抗できるくらいにな」
「そう、ね。臣民を守るのは皇族の義務だし」
「ほう、珍しく殊勝だな」
「わたしだってまじめに考えてるわよ!」
「ああ、それがいい。皇女殿下を支えるのが俺の任務だしな」
「ふん! これからもどうぞよろしくお願いします!」
やや切り口上で返すローレットがむくれている。俺はそんな彼女がおかしく、ついつい吹き出してしまう。
部隊は峡谷を下り、翌日には大平原の端にたどり着いた。
馬上からゴンザレスのオッサンが新たに配備された騎士に重々しく命じる。
「はっ!」
直立不動で敬礼するこんな僻地の守備を命じられた哀れな騎士……とか思っていたがそうでもないみたいだ。
なんでもリチャード陛下から直々に命じられたそうで、着任した時のあいさつでガチ泣きする結構いい歳の騎士に、正直こっちはドン引きしていた。
コンラルドの配下から中堅どころを数名選んでもらい、この騎士の補佐に付けることにした。
桟道自体は当面の修復を断念し、俺たちが掘った坑道を維持してもらう。
坑道の中央に詰め所を置き、簡易な関所機能を持たせた。帝都方面からの犯罪者の流入を抑制するためだ。
そういえば面白くもない情報があった。先日の襲撃で、襲ってきたのはすべてアンデッドだったというのだ。
翌朝、敵兵が敗走したと思われる方角で、数名の死体が見つかった。傷を負って死んだと思われていたが、傷一つない。
そして同行していたギルドの魔導士(ガチムチ)が闇のエーテルの残滓を発見した、というわけだ。
アンデッド自体は珍しくない。街道なんかでもたまに発生するし、ポピュラーな魔物である。
ただ、生きている人間並みの動きをするとなると相当な腕の死霊術師が関わっていたと考えるほかない。
マリオネットと呼ばれる術がある。自らのエーテルを糸状に放射し、物体を支配して動かすと言うものだ。
理論上はと前置きしたうえであるが、極めればただの死体を剣の達人のように動かすことができるだろう。
術式をいじって多数の死者を同時に動かせるようにすることも可能だろう。
「んー、常軌を逸したってやつね」
俺の仮説を聞いたローレットは少し顔をしかめながらそう断じた。
「だよなあ。ってか相当マッドなやつだぞ」
そしてそんなことができそうな名前で、二人とも同時に同じ名前が出てきた。
死霊術を極めると精気を出し入れすることができると聞く。例えば他者の精気を吸い取ることで身体に活力を戻したりできるというわけで、見た目上若返ったりする。
人族でありながら、すでに200年を生きると言われているもはや魔物の領域に半分以上踏み込んでいるかの魔導士、共和国最強にして最凶の怪人ドウマン。
「あー、もうね、初対面でエナジードレイン仕掛けてきたのよ」
「それ外交問題になりませんかねえ?」
過去になんかの交流会的で顔を合わせたことがあるらしい。
「そうねー、それが表ざたになってたら、少なくともお父様が剣を抜いたことは間違いないでしょうね」
「剣で済ませるんですね……」
「そこは理性がまだ残ってるんでしょ」
ちなみにリチャード陛下の最も得意とする武器は槍である。一振りで10を超える魔物を両断したとかエピソードには事欠かない。
「んで、どうやって対処したんです?」
「魔力の動きを感知してディスペルしただけ。たぶん向こうも簡単な術式しか使ってなかったから基本を知ってたら何とでもなったわ」
「えーっと、それ既に相当な離れ業なんですが」
きょとんと首をかしげるローレット。これだから天才の血筋は……。
「え? じゃあこれは?」
ローレットの魔力が動いた。エーテルを編み上げ不可視の魔法陣が構築される。
術式を解析し、核となる一点を見つけると、そこに自分のエーテルを逆波長でぶつける。
「ああ、そういうことですか」
「あんたもできるじゃない」
意外に難しくないのかもしれない。というか、この術式は「眠りの霧」と呼ばれるもので、相手のエーテルを不活性化させて眠らせる効果を持つ。
「というかですね。俺を眠らせてどうするおつもりで?」
「そうねえ……既成事実でも作ろうかしら」
と言った瞬間ローレットが首を横に振る。
ローレットの眉間があった位置を小石が通り抜けていった。
「いけません」
笑ってない笑顔を貼り付けてローリアがやってくる。
「ああ、準備ができたのか」
「はい、出立の時間です」
俺はローレットを促し立ち上がった。
先遣隊を引着ることになっているクリフは疲労から目からは光が消えていたので、ローリアに激励させた。
「クリフさん頑張ってくださいねー」
すっごい棒読みだったが、クリフの目はピンク色の光に満たされた。
「はいっ! ローリアさんのために頑張ります」
「ありがとーございますぅー」
いやいや感が半端ない。それでもクリフは気づかない。というか気づいているのかもしれないが、自分に都合よく変換しているようだ。
大きく手を振りながらクリフたち先遣隊は出発していったのが昨日のことだ。
事前情報でなここから先は特に難所はない。山岳地帯ゆえの水の確保などの難点はあるだろうが、これまでの苦労からすれば問題にならない程度だ。
先行きは不透明だが、ゴールは見えている。そう自分を奮い立たせて馬にまたがった。
「わあ……!」
坑道の先は下りになっている。山が連なって眼下に森を見下ろす雄大な光景だった。
道は上りと同じほどの幅で、谷間をなぞるように続いていた。
「うーん、場所によっては拡張と整備が必要だな」
「そうね、後続にわかるように印をつけておきましょう」
「ああ、しかし、やっとここまで来たか」
「この峡谷を抜けたらひたすら平地が広がってるみたいね」
「いくつか拠点を作ろう。魔物に襲われても対抗できるくらいにな」
「そう、ね。臣民を守るのは皇族の義務だし」
「ほう、珍しく殊勝だな」
「わたしだってまじめに考えてるわよ!」
「ああ、それがいい。皇女殿下を支えるのが俺の任務だしな」
「ふん! これからもどうぞよろしくお願いします!」
やや切り口上で返すローレットがむくれている。俺はそんな彼女がおかしく、ついつい吹き出してしまう。
部隊は峡谷を下り、翌日には大平原の端にたどり着いた。
0
お気に入りに追加
40
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
魔導戦記マギ・トルーパー
イズミント(エセフォルネウス)
ファンタジー
ルキア・フィーブルは、魔神の破壊行為によって人がほぼいなくなり、大地が荒れ果てた黄昏の世界に生きていた魔女だった。
ある日、食料の調達に外に出ていた彼女は、突然足元に現れた謎の魔法陣から発する光に呑まれてしまう。
意識を取り戻したルキアが見た者は、魔法の力で動くロボットを使って、戦争を続けている世界だった。
元の世界に帰ることが出来ないルキアは、自分を保護してくれた国に協力をすることを選ぶ。
その際に、謎の声に導かれたルキアは、ある一つの封印された機体を発見し、声に導かれるままに彼女はその機体に乗り込むことになる。
人間同士の二つの勢力との戦いに、魔王軍と名乗る存在やルキアの世界の破滅に関わった存在も介入し混沌とするも、ルキアは諦めずに自分を選んでくれた機体や多くの仲間と共に駆け抜けていく。
※この作品は、ファンタジー世界でのロボット戦争ものです。
*異世界転移要素があります。
最弱ステータスのこの俺が、こんなに強いわけがない。
さこゼロ
ファンタジー
俺のステータスがこんなに強いわけがない。
大型モンスターがワンパン一発なのも、
魔法の威力が意味不明なのも、
全部、幼なじみが見つけてくれたチートアイテムがあるからなんだ!
だから…
俺のステータスがこんなに強いわけがないっ!
何者でもない僕は異世界で冒険者をはじめる
月風レイ
ファンタジー
あらゆることを人より器用にこなす事ができても、何の長所にもなくただ日々を過ごす自分。
周りの友人は世界を羽ばたくスターになるのにも関わらず、自分はただのサラリーマン。
そんな平凡で退屈な日々に、革命が起こる。
それは突如現れた一枚の手紙だった。
その手紙の内容には、『異世界に行きますか?』と書かれていた。
どうせ、誰かの悪ふざけだろうと思い、適当に異世界にでもいけたら良いもんだよと、考えたところ。
突如、異世界の大草原に召喚される。
元の世界にも戻れ、無限の魔力と絶対不死身な体を手に入れた冒険が今始まる。
大陸一の賢者による地属性の可能性追求運動 ―絶対的な物量を如何にして無益に浪費しつつ目的を達するか―
ぽへみやん
ファンタジー
魔王城への結界を維持する四天王を倒すべく、四属性の勇者が選ばれた。【地属性以外完全無効】の風の四天王に対抗すべき【地の勇者】ドリスは、空を飛び、高速で移動し、強化した物理攻撃も通用しない風の四天王に惨敗を喫した。このままでは絶対に勝てない、そう考えたドリスは、【大陸一の賢者】と呼ばれる男に教えを乞うことになる。
// 地属性のポテンシャルを引き出して、地属性でしか倒せない強敵(主観)を倒そう、と色々試行錯誤するお話です。
Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~
神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!!
皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました!
ありがとうございます!
VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。
山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・?
それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい!
毎週土曜日更新(偶に休み)
七人の愚か者 ー最難関のダンジョンで出会った小学生と暴走族が脱出するために最強を目指す!ー
ほむらさん
ファンタジー
異世界に勇者として召喚されたコテツ。
しかし本人も知らない所で女神の不興を買い、勇者を剥奪されS級ダンジョンに放り込まれる。
説明も何もない状態からのダンジョンスタート。
いきなり強敵に囲まれた状態から、とりあえずダンジョン脱出を目指すコテツであった。
―――これは、のちに白と黒と呼ばれ恐れられる二人の物語。
小学生+暴走族という異色のコンビが大活躍する正統派ファンタジー小説、ここに爆誕!
(※ガチャを引く回の熱い盛り上がりは必見です!ガチャは話の流れで比較的序盤に登場します。自信を持ってお届け出来る設定だと思いますので、どうかそれまでコテツにお付き合い下さい。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる