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伝説の戦士
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唖然とするローレットをキョトンとした顔で見るローリア。
「あー、ローリアはエルフだからな?」
「だからって……いくらなんでも若すぎるでしょ……?」
若いと言われたローリアはほほに手を当てて照れている。
「うふふ。そうですね。わたしちょっと普通のエルフじゃないので」
「ちょっと……? んがふっ!?」
ローリアの手刀が俺の首をしたたかに打った。
息が詰まり、むせることもできない。的確に急所を打ち抜く一撃だった。
「え、えーと……」
「はい?」
ローレットはものすごく挙動不審だ。本人曰く、おとぎ話に聞いていたあこがれの英雄が目の前にいるわけだ。
「さ、サインください!」
「いいですよ」
なんだこのやり取り。
ギルド制服の胸ポケットから取り出したペンでローレットが差し出したハンカチにさらさらと自分の名前を書き込む。
「え、えと、ローレットさんへって入れてもらっていいですか?」
「無論です」
さらにさらさらとペンを走らせる。
ローレットはじっとそのサインを眺めた。
「本物だ……」
「何を当たり前のことを?」
「いや、だって普通は信じないと思いますよ? わたしだって初代様の残した手紙を見てなかったら確信できませんでした」
「手紙……? ああ、あれですか」
「ええ、ローリア様が初代様にたたきつけた三行半です」
なんだそりゃ。初耳だ。
「だって仕方ないじゃないですか。わたしを第15夫人にするとか。バカにしてると思いません?」
エルフは基本一夫一妻制だ。
「んー、だとすると第一夫人だったら受け入れたってことですか?」
「第二がいる時点でないです。まったくもう」
ぷんすかとほほを膨らます顔は少女のものだ。それでも高々十数年しか生きていないローレットを見るまなざしは母のようでも姉のようでもあった。
「まあ、そう言ってやるな。帝国の安定のためには一番手っ取り早い手だったはずだぞ」
「む、もう復活したんですか。日に日に頑丈になりますね」
「人をガンドルフみたいに言うな」
「ふふ、わたしにしてみればギルさんはあの日ピーピー泣いていた子供のままですよ」
「その子供にガチに言い寄ってるのは誰だよ……」
「こんなに立派になって、よよよ」
ほぼ表情を変えずに泣き真似だけするという器用な姿にローレットが再びポカーンとする。
「えっと、いろいろ聞きたいんだけど……」
「はい、なんなりと」
「いいの!?」
「ま、本人がいいって言ってるんだし、いいんじゃね?」
というか俺も興味があった。帝国の臣民として最高の英雄とは、始祖たるエレスフォード陛下だ。
ちなみに、当代の皇帝はそれに次ぐと言われている。大きな魔物の領域をいくつも自ら陣頭に立って滅ぼしたのだから。
同時に、王国、共和国との盟約を更新し、人同士が相争うことを未然に防いだ。
それは皇帝の武勇によるものが大きいが、弱腰と国内の貴族に陰口をたたかれようが、融和姿勢をもって対し、見事盟約を結んだ。
そして帝国の最後の大きな戦いは、グラスターの戦いだ。俺はグラスターの戦災孤児だった。ローリエに拾われて帝都にたどり着き、孤児院に預けられたのだ。
「わたしと陛下の出会いは……」
「おい、そこのちっこいの。どうした?」
大きな馬にまたがった黒髪の偉丈夫が話しかけてくる。
里を魔物の群れが襲い、わたしは一人はぐれてしまったのだ。
「わからない……どうしたらいいのかな?」
「エルフの里の者か?」
「そう、だった」
「……っち、間に合わなかったか。シゲン、捜索隊を出してくれ」
「御意」
偉丈夫は苦々しい表情を浮かべ、隣にいた青年に命令を出している。
「おい、行くところがないなら俺のところに来るか?」
「……いいの?」
「ああ、もともと魔物の群れに襲われそうだって聞いてた里の救援だったんだ」
「長老が突っぱねてたやつ? なんで来たの?」
人間なんかに助けられてたまるかと激怒していた長老を思い出す。ばかな人だ。そんな役に立たないプライドで里を滅ぼしたのだから。
「あん? そりゃよ、泣く奴がいるのは嫌だろ?」
当たり前のようにばからしいことを言うそのバカがこの群れの大将だってあとで聞いた。
彼は皇帝エレスフォード1世と名乗った。
「どうだった?」
陛下が戻ってきた兵から報告を聞いている。
「それが……」
兵の表情から察したのだろう。ガンと拳を立ち木に叩きつけている。
見知らぬ者が死んでも何も思わない。他人が泣こうがわめこうが自分が生きるだけで精一杯だから。
常に魔物の影におびえて暮らしていたわたしにとって彼は異質だった。
「ウィル。荷駄はいつ着く?」
「はっ、明日には」
「そうか。オークのコロニーがある。叩くぞ」
「はっ!」
エルフの里の仇討というわけではないんだろう。ただ、魔物の巣は叩かないといけない。そう言うことらしい。
「弓、ある?」
ただの気まぐれだった。ただ、この風変わりな青年に力を貸そうと思った。見知らぬ他人のために力を振るう、命の恩人である彼に。
「ブモオオオオオオオオ!」
オークが50体。こっちの兵は100ほど。なんとか戦いになると言った感じだったけど、彼の力は圧倒的だった。
「ぬうううううあああああああああああああ!」
雄たけびとともに振るう大剣は、横薙ぎの一閃で3体のオークを叩き斬った。
兵も5人一組となって小隊陣形を取り、巧みに戦う。
「インペリアル・ウォール!」
シゲンと呼ばれていた青年が鳥の羽でできた扇を振る。
風の魔力を操って声が衰えずに戦場に響き渡った。
大盾持ちの兵が前に出て敵の攻撃を受け止め、両脇から軽歩兵が交互に攻撃を仕掛ける。
後列にいる魔法使いが呪文を唱え、詠唱時間を弓兵の援護射撃で稼ぐ。
そうやってオークたちを分断して倒していく。
わたしは陛下の親衛小隊にいた。
槍を持った女騎士がすさまじい勢いで槍を振るう。
片手剣と盾を持った騎士は構えた盾を巧みに使ってオークの拳を受け流し、その勢いを利用して切り伏せた。
そして最前線では陛下が群れのボスと向き合っている。
「へっ、来いよ」
「ぐるああああああああああああああ!!」
木を引き抜いて枝を払っただけの丸太を両手に抱えているオークは離れた位置にいるわたしの肌すら震わせるような咆哮を放った。
「うるさい」
そうつぶやいてわたしは弓を引き……放った。狙いは過たずオークの両目を射抜く。
隣で戦況を見ていたシゲンが後になってこう言っている。
「間違いなく減の音は一回しか聞こえませんでした」
わたしは里で一番の弓使いだ。このオークたちが里を襲ったわけじゃないけど、とりあえず私の八つ当たりを受けてもらうことにした。
「ほえ!?」
いきなり両目から矢を生やし、暴れだしたオークに間抜けな声を上げる陛下だが、すぐに気を取り直して大剣を袈裟懸けに振るった。
あとには上半身を真っ二つに断ち割られたオークが断末魔を上げる暇もなく息絶えていた。
「あー、ローリアはエルフだからな?」
「だからって……いくらなんでも若すぎるでしょ……?」
若いと言われたローリアはほほに手を当てて照れている。
「うふふ。そうですね。わたしちょっと普通のエルフじゃないので」
「ちょっと……? んがふっ!?」
ローリアの手刀が俺の首をしたたかに打った。
息が詰まり、むせることもできない。的確に急所を打ち抜く一撃だった。
「え、えーと……」
「はい?」
ローレットはものすごく挙動不審だ。本人曰く、おとぎ話に聞いていたあこがれの英雄が目の前にいるわけだ。
「さ、サインください!」
「いいですよ」
なんだこのやり取り。
ギルド制服の胸ポケットから取り出したペンでローレットが差し出したハンカチにさらさらと自分の名前を書き込む。
「え、えと、ローレットさんへって入れてもらっていいですか?」
「無論です」
さらにさらさらとペンを走らせる。
ローレットはじっとそのサインを眺めた。
「本物だ……」
「何を当たり前のことを?」
「いや、だって普通は信じないと思いますよ? わたしだって初代様の残した手紙を見てなかったら確信できませんでした」
「手紙……? ああ、あれですか」
「ええ、ローリア様が初代様にたたきつけた三行半です」
なんだそりゃ。初耳だ。
「だって仕方ないじゃないですか。わたしを第15夫人にするとか。バカにしてると思いません?」
エルフは基本一夫一妻制だ。
「んー、だとすると第一夫人だったら受け入れたってことですか?」
「第二がいる時点でないです。まったくもう」
ぷんすかとほほを膨らます顔は少女のものだ。それでも高々十数年しか生きていないローレットを見るまなざしは母のようでも姉のようでもあった。
「まあ、そう言ってやるな。帝国の安定のためには一番手っ取り早い手だったはずだぞ」
「む、もう復活したんですか。日に日に頑丈になりますね」
「人をガンドルフみたいに言うな」
「ふふ、わたしにしてみればギルさんはあの日ピーピー泣いていた子供のままですよ」
「その子供にガチに言い寄ってるのは誰だよ……」
「こんなに立派になって、よよよ」
ほぼ表情を変えずに泣き真似だけするという器用な姿にローレットが再びポカーンとする。
「えっと、いろいろ聞きたいんだけど……」
「はい、なんなりと」
「いいの!?」
「ま、本人がいいって言ってるんだし、いいんじゃね?」
というか俺も興味があった。帝国の臣民として最高の英雄とは、始祖たるエレスフォード陛下だ。
ちなみに、当代の皇帝はそれに次ぐと言われている。大きな魔物の領域をいくつも自ら陣頭に立って滅ぼしたのだから。
同時に、王国、共和国との盟約を更新し、人同士が相争うことを未然に防いだ。
それは皇帝の武勇によるものが大きいが、弱腰と国内の貴族に陰口をたたかれようが、融和姿勢をもって対し、見事盟約を結んだ。
そして帝国の最後の大きな戦いは、グラスターの戦いだ。俺はグラスターの戦災孤児だった。ローリエに拾われて帝都にたどり着き、孤児院に預けられたのだ。
「わたしと陛下の出会いは……」
「おい、そこのちっこいの。どうした?」
大きな馬にまたがった黒髪の偉丈夫が話しかけてくる。
里を魔物の群れが襲い、わたしは一人はぐれてしまったのだ。
「わからない……どうしたらいいのかな?」
「エルフの里の者か?」
「そう、だった」
「……っち、間に合わなかったか。シゲン、捜索隊を出してくれ」
「御意」
偉丈夫は苦々しい表情を浮かべ、隣にいた青年に命令を出している。
「おい、行くところがないなら俺のところに来るか?」
「……いいの?」
「ああ、もともと魔物の群れに襲われそうだって聞いてた里の救援だったんだ」
「長老が突っぱねてたやつ? なんで来たの?」
人間なんかに助けられてたまるかと激怒していた長老を思い出す。ばかな人だ。そんな役に立たないプライドで里を滅ぼしたのだから。
「あん? そりゃよ、泣く奴がいるのは嫌だろ?」
当たり前のようにばからしいことを言うそのバカがこの群れの大将だってあとで聞いた。
彼は皇帝エレスフォード1世と名乗った。
「どうだった?」
陛下が戻ってきた兵から報告を聞いている。
「それが……」
兵の表情から察したのだろう。ガンと拳を立ち木に叩きつけている。
見知らぬ者が死んでも何も思わない。他人が泣こうがわめこうが自分が生きるだけで精一杯だから。
常に魔物の影におびえて暮らしていたわたしにとって彼は異質だった。
「ウィル。荷駄はいつ着く?」
「はっ、明日には」
「そうか。オークのコロニーがある。叩くぞ」
「はっ!」
エルフの里の仇討というわけではないんだろう。ただ、魔物の巣は叩かないといけない。そう言うことらしい。
「弓、ある?」
ただの気まぐれだった。ただ、この風変わりな青年に力を貸そうと思った。見知らぬ他人のために力を振るう、命の恩人である彼に。
「ブモオオオオオオオオ!」
オークが50体。こっちの兵は100ほど。なんとか戦いになると言った感じだったけど、彼の力は圧倒的だった。
「ぬうううううあああああああああああああ!」
雄たけびとともに振るう大剣は、横薙ぎの一閃で3体のオークを叩き斬った。
兵も5人一組となって小隊陣形を取り、巧みに戦う。
「インペリアル・ウォール!」
シゲンと呼ばれていた青年が鳥の羽でできた扇を振る。
風の魔力を操って声が衰えずに戦場に響き渡った。
大盾持ちの兵が前に出て敵の攻撃を受け止め、両脇から軽歩兵が交互に攻撃を仕掛ける。
後列にいる魔法使いが呪文を唱え、詠唱時間を弓兵の援護射撃で稼ぐ。
そうやってオークたちを分断して倒していく。
わたしは陛下の親衛小隊にいた。
槍を持った女騎士がすさまじい勢いで槍を振るう。
片手剣と盾を持った騎士は構えた盾を巧みに使ってオークの拳を受け流し、その勢いを利用して切り伏せた。
そして最前線では陛下が群れのボスと向き合っている。
「へっ、来いよ」
「ぐるああああああああああああああ!!」
木を引き抜いて枝を払っただけの丸太を両手に抱えているオークは離れた位置にいるわたしの肌すら震わせるような咆哮を放った。
「うるさい」
そうつぶやいてわたしは弓を引き……放った。狙いは過たずオークの両目を射抜く。
隣で戦況を見ていたシゲンが後になってこう言っている。
「間違いなく減の音は一回しか聞こえませんでした」
わたしは里で一番の弓使いだ。このオークたちが里を襲ったわけじゃないけど、とりあえず私の八つ当たりを受けてもらうことにした。
「ほえ!?」
いきなり両目から矢を生やし、暴れだしたオークに間抜けな声を上げる陛下だが、すぐに気を取り直して大剣を袈裟懸けに振るった。
あとには上半身を真っ二つに断ち割られたオークが断末魔を上げる暇もなく息絶えていた。
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