上 下
12 / 33

未熟

しおりを挟む
 ここまで徒歩で移動してきたことを後悔した。それでも脚力を魔力で強化し、風を操って速度を上げる。
 普段なら魔力効率が悪いからこんなことはしない。けど非常事態なら仕方ない。
 倦怠感を感じると、腰のポーチからマナポーションの丸薬を口に放り込む。

「うえええええええええ……」
 マズい。まずすぎる。思わずあふれる涙をぬぐって、前だけを見据えて走る。

 道をふさぐ岩の大きさはわからない。ただ、大きな岩というだけならわたしのオリジナル魔法で何とかできるかもしれない。
 たまに鉱物を含む岩とかの場合、魔力の伝導率が変わってしまうために威力が軽減されてしまう。

 いろいろごちゃごちゃ考えながらも魔法の制御が途切れなかったのはまさに日ごろの鍛錬のおかげなんだろう。
 街道のわきに馬車が並び、復旧のめどがつくかを見極めている商人たちの姿があった。
 ここから見える先には大きな岩がいくつか落下していて、さらに先日からの大雨の影響か、斜面のところどころから水が噴き出していた。岩なんかフッ飛ばしてやろうと先に進もうとしたところ、止められた。

「この先は危険です。今通行は許可できません」
 なんとか隙間を抜けようとした冒険者が再度崩れた土砂に生き埋めになりかけたらしい。
「いいから通しなさい! わたしの魔法で吹き飛ばしてあげるわ!」
「危険です!」
「わたしはこの先のダンジョンに行かないといけないのよ!」
 押し問答をしていると、後ろから魔法使いと思しき気配が近づいてくる。
 ギルド職員? まさか? わたしでも全力で加速してきたのに……?

「あー、すんません。取り込み中失礼します」
 なんかさえない男がやってきた。
「はっ!」
 兵士がこっちを振り向く。あからさまにほっとした顔をしているのはわからくもないけどちょっと失礼じゃない?
「なによ! いまわたしが話してるんだから邪魔しないで!」
「ああ、お待ちかねのギルド職員だ。第三部所属魔導士のギルバートだ」
 兵士の表情がパッと明るくなる。
「お待ちしていました!」
「やっと来たの? 早くあの岩を何とかして頂戴」
 普段ならこういう言い方はしない。それに、がけ崩れが起きてすぐ帝都を発ったなら、すごい速度できたことは間違いない。
 何をどうやったかはわからないけど、凄腕ではあるんだろう。

「まずは調査が必要です。無論お急ぎの事情は分かりますが、まずは安全を確保しないといけない。ご理解いただけますか、お嬢様」
「……どれくらいかかるの?」
「そうですね……1~2日は」
 その間に彼のお母さまに何かあったらどうするんだ。思わず口をついて出かけた言葉を飲み込む。ただ、頭に上った血は降りてくれない。
「そんなに待てないって言ってるでしょう!」
 また口をついていやな言葉が出てくる。
「……事情をお聞きしても?」
「うるさいわね! あんたにそんなこと関係ないでしょう!」
 肩をすくめる男は何かあるんだろうと察してくれたようだ。
「安全を確保が最優先です。そこは譲れません」
 仏頂面でそう告げる男にまず魔法を打ち込みたくなった。
「ああもう、御託は良いから早くしなさい!」
 違う、彼を引き留めていたのはわたしだ。いらだちをぶつけてしまって時間を浪費させてしまった。
 先生の教えはこういうことか、とストンと腑に落ちる。

 少し冷静になれたが、一刻を争う。だから彼についていくことにした。
「……なんでついてくるんですかね?」
 ジトッとこっちを見る目つきはやはり好きになれそうもなかった。

 会話を交わしつつ、現場へと向かう。そして彼が口にした見積もりはひと月以上。とても待てたもんじゃない。

 全身の魔力を全力で励起させる。ティルフィングを抜き放ち逆手に構えた。
「馬鹿、待て!」
 静止の声が聞こえたが待っていられない。
「凍てつきし吐息よ、白銀に輝く流れよ、我が指先の指し示す方に流れよ。フリージング・ブレス!」
 凍らせて固めればすぐには崩れない。
 そこ考えがすごく浅はかだったことを知るのは直後だったけど、その時は早くしなきゃということしか見えてなかった。

「わが呼び声に応えよ風の精 我かざすは無影の刃 打ち振るいしは風の聖剣 エクスカリバー!」
 半分の魔力を刃に変換し、一気に放つ。放たれた刃は狙い通りに道をふさぐ岩を両断する。
 そして残りの魔力を暴風として放った。
 もともとそれほど強度の高くなかった岩は砕けて、大き目の石が残っているので馬車などは厳しいだろうけど、歩きなら何とか向こうにいけそうな感じだった。
 視野狭窄。まさにその状態でわたしは走り出した。ギルド職員の再度の制止を振り切って駆け出し……再度の崩落に巻き込まれた。

「きゃああああああああああああああああ!!」
「森羅万象の息吹よ、集いて堅牢なる城壁となれ フォートレス!」
 瞬時に距離を詰め、二節の短縮詠唱で人間二人分を覆う結界を展開した。
 その堅牢さは、普通これほどの重量がかかれば即崩壊してもおかしくない。それでも追加の魔力を注ぎ込むことなく維持されている。
 叫びは途中から恐怖ではなく、驚きの方が大きくなっていたくらいだ。

 唐突に口をふさがれた。静かにするよう言われたので頷く。
 光源の魔法を使うが、なぜか指先を光らせていた。普通ならば魔力の球を浮かべるものなんだけど……けどこれほどの結界を瞬時に編み上げる力量からするとやたらアンバランスだ。

 魔導士としての力量は、たぶんわたしの上を行く。 
 第二階梯を授与されたと言ってもわたしはまだまだ駆け出しだ。だからこそ、先輩の力量を見極めようと思ったのだ。
 
 それは自らの未熟さを痛感し、さらに上を目指そうという決意でもあった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

俺だけ成長限界を突破して強くなる~『成長率鈍化』は外れスキルだと馬鹿にされてきたけど、実は成長限界を突破できるチートスキルでした~

つくも
ファンタジー
Fランク冒険者エルクは外れスキルと言われる固有スキル『成長率鈍化』を持っていた。 このスキルはレベルもスキルレベルも成長効率が鈍化してしまう、ただの外れスキルだと馬鹿にされてきた。 しかし、このスキルには可能性があったのだ。成長効率が悪い代わりに、上限とされてきたレベル『99』スキルレベル『50』の上限を超える事ができた。 地道に剣技のスキルを鍛え続けてきたエルクが、上限である『50』を突破した時。 今まで馬鹿にされてきたエルクの快進撃が始まるのであった。

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...