154 / 172
敵に塩を売りつけてぼったくる
しおりを挟む
永禄十年、甲斐国。
武田は今川と断交し、駿河への侵攻を進めていた。その報復として駿河よりの交易路を遮断されていた。忍び衆を用いて密貿易をおこない、わずかながらでも何とか塩を買い集めるが、足元を見られ非常な高値を付けられる。
武田家として、塩の確保は死活問題であった。そんなとき、信濃北部より使者がやってきた。
「一徳斎よりの使者か。口上を述べよ」
「はっ、信濃の国境地帯より、越後商人が交易の許可を求めてまいりました」
「ほう? 何を積んでおる? まさか塩ではあるまいな?」
「そのまさかでございまして……」
「なんじゃと? 輝虎め血迷ったか!?」
「ひとまず通行の許可を出してよいでしょうか?」
「うむむ、良かろう。ただし諏訪まででとどめよ。甲斐国内への入国は禁ずる」
「はっ、承知いたしました」
そして商人一行が諏訪に入る。市で商品を広げ売り出した。その詳報を聞き晴信は激怒する。
「おのれ輝虎があああああああああああああああああああああああ!!」
塩が恐ろしいまでのぼったくり価格で販売されていたのである。商人一行が言い放つにはいやなら買わんで構わぬと。
結局、相手の言い値でそれなりの量を買い取り、領民に配給する羽目となった。しかもここまでの領内をつぶさに調べられている。金は毟られるは情報は漏れるわさんざんであった。
この時点で織田と武田は断絶しておらず、武田家の外交ルートはこちらへも及んでいた。そして秀隆のもたらした技術により、尾張では塩はかなり安価な物資となっていたのである。だがここで秀隆が取ったやり方はある意味悪辣であった。
上杉の売値を調べ、その半額とした。そして、徳川を経由して奥三河から信濃へ運ぶのだ。ちなみに半額であったとしても十分高い。当然価格の交渉が入る。そこで、徳川と武田の不可侵条約と、今川に対する共同戦線を結ぶことに成功した。
塩自体は尾張で作られており、非常に格安で入ってきている。徳川は武田に通常の相場で販売してもかなりの利潤があるのだ。そこを駿河と遠江を分け取りにするまでは、相場の倍で売りつけることに成功したのである。家康は笑いが止まらなかった。武田から巻き上げた金を用いて兵力の増強に成功し、遠江の制圧を急速に進めたのである。
ある意味一番の被害者は今川氏真だっただろう。塩を売らないことで武田の弱体化を図ったが、見事に邪魔をされ、結局自国の侵略を招いてしまった。しかしこのことをもって氏真を愚か者とするのはさすがに厳しいであろうか。彼の打った一手は確かに信玄を苦しめたのである。ただ状況の推移が彼の予想のはるか斜め上を行っただけであった。
「むう、織田信長、やるではないか」
どっかの大虎がつぶやいていた。この一連の謀略戦(?)がのちの上杉降伏につながったかどうかは定かではない。
武田は今川と断交し、駿河への侵攻を進めていた。その報復として駿河よりの交易路を遮断されていた。忍び衆を用いて密貿易をおこない、わずかながらでも何とか塩を買い集めるが、足元を見られ非常な高値を付けられる。
武田家として、塩の確保は死活問題であった。そんなとき、信濃北部より使者がやってきた。
「一徳斎よりの使者か。口上を述べよ」
「はっ、信濃の国境地帯より、越後商人が交易の許可を求めてまいりました」
「ほう? 何を積んでおる? まさか塩ではあるまいな?」
「そのまさかでございまして……」
「なんじゃと? 輝虎め血迷ったか!?」
「ひとまず通行の許可を出してよいでしょうか?」
「うむむ、良かろう。ただし諏訪まででとどめよ。甲斐国内への入国は禁ずる」
「はっ、承知いたしました」
そして商人一行が諏訪に入る。市で商品を広げ売り出した。その詳報を聞き晴信は激怒する。
「おのれ輝虎があああああああああああああああああああああああ!!」
塩が恐ろしいまでのぼったくり価格で販売されていたのである。商人一行が言い放つにはいやなら買わんで構わぬと。
結局、相手の言い値でそれなりの量を買い取り、領民に配給する羽目となった。しかもここまでの領内をつぶさに調べられている。金は毟られるは情報は漏れるわさんざんであった。
この時点で織田と武田は断絶しておらず、武田家の外交ルートはこちらへも及んでいた。そして秀隆のもたらした技術により、尾張では塩はかなり安価な物資となっていたのである。だがここで秀隆が取ったやり方はある意味悪辣であった。
上杉の売値を調べ、その半額とした。そして、徳川を経由して奥三河から信濃へ運ぶのだ。ちなみに半額であったとしても十分高い。当然価格の交渉が入る。そこで、徳川と武田の不可侵条約と、今川に対する共同戦線を結ぶことに成功した。
塩自体は尾張で作られており、非常に格安で入ってきている。徳川は武田に通常の相場で販売してもかなりの利潤があるのだ。そこを駿河と遠江を分け取りにするまでは、相場の倍で売りつけることに成功したのである。家康は笑いが止まらなかった。武田から巻き上げた金を用いて兵力の増強に成功し、遠江の制圧を急速に進めたのである。
ある意味一番の被害者は今川氏真だっただろう。塩を売らないことで武田の弱体化を図ったが、見事に邪魔をされ、結局自国の侵略を招いてしまった。しかしこのことをもって氏真を愚か者とするのはさすがに厳しいであろうか。彼の打った一手は確かに信玄を苦しめたのである。ただ状況の推移が彼の予想のはるか斜め上を行っただけであった。
「むう、織田信長、やるではないか」
どっかの大虎がつぶやいていた。この一連の謀略戦(?)がのちの上杉降伏につながったかどうかは定かではない。
10
お気に入りに追加
457
あなたにおすすめの小説
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
魔法武士・種子島時堯
克全
ファンタジー
100回以上の転生を繰り返す大魔導師が今回転生したのは、戦国時代の日本に限りなく近い多元宇宙だった。体内には無尽蔵の莫大な魔力が秘められているものの、この世界自体には極僅かな魔素しか存在せず、体外に魔法を発生させるのは難しかった。しかも空間魔法で莫大な量の物資を異世界間各所に蓄えていたが、今回はそこまで魔力が届かず利用することが出来ない。体内の魔力だけこの世界を征服できるのか、今また戦いが開始された。
【おんJ】 彡(゚)(゚)ファッ!?ワイが天下分け目の関ヶ原の戦いに!?
俊也
SF
これまた、かつて私がおーぷん2ちゃんねるに載せ、ご好評頂きました戦国架空戦記SSです。
この他、
「新訳 零戦戦記」
「総統戦記」もよろしくお願いします。
日本国転生
北乃大空
SF
女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。
或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。
ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。
その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。
ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。
その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。
銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児
潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。
その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。
日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。
主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。
史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。
大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑)
※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。
日本が危機に?第二次日露戦争
杏
歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。
なろう、カクヨムでも連載しています。
ファイナルアンサー、Mrガリレオ?
ちみあくた
SF
1582年4月、ピサ大学の学生としてミサに参加している若きガリレオ・ガリレイは、挑戦的に議論をふっかけてくるサグレドという奇妙な学生と出会った。
魔法に似た不思議な力で、いきなりピサの聖堂から連れ出されるガリレオ。
16世紀の科学レベルをはるかに超えるサグレドの知識に圧倒されつつ、時代も場所も特定できない奇妙な空間を旅する羽目に追い込まれるのだが……
最後まで傍観してはいられなかった。
サグレドの望みは、極めて深刻なある「質問」を、後に科学の父と呼ばれるガリレオへ投げかける事にあったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる