乾坤一擲

響 恭也

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敵に塩を売りつけてぼったくる

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永禄十年、甲斐国。
 武田は今川と断交し、駿河への侵攻を進めていた。その報復として駿河よりの交易路を遮断されていた。忍び衆を用いて密貿易をおこない、わずかながらでも何とか塩を買い集めるが、足元を見られ非常な高値を付けられる。
 武田家として、塩の確保は死活問題であった。そんなとき、信濃北部より使者がやってきた。

「一徳斎よりの使者か。口上を述べよ」
「はっ、信濃の国境地帯より、越後商人が交易の許可を求めてまいりました」
「ほう? 何を積んでおる? まさか塩ではあるまいな?」
「そのまさかでございまして……」
「なんじゃと? 輝虎め血迷ったか!?」
「ひとまず通行の許可を出してよいでしょうか?」
「うむむ、良かろう。ただし諏訪まででとどめよ。甲斐国内への入国は禁ずる」
「はっ、承知いたしました」

 そして商人一行が諏訪に入る。市で商品を広げ売り出した。その詳報を聞き晴信は激怒する。
「おのれ輝虎があああああああああああああああああああああああ!!」
 塩が恐ろしいまでのぼったくり価格で販売されていたのである。商人一行が言い放つにはいやなら買わんで構わぬと。
 結局、相手の言い値でそれなりの量を買い取り、領民に配給する羽目となった。しかもここまでの領内をつぶさに調べられている。金は毟られるは情報は漏れるわさんざんであった。

 この時点で織田と武田は断絶しておらず、武田家の外交ルートはこちらへも及んでいた。そして秀隆のもたらした技術により、尾張では塩はかなり安価な物資となっていたのである。だがここで秀隆が取ったやり方はある意味悪辣であった。
 上杉の売値を調べ、その半額とした。そして、徳川を経由して奥三河から信濃へ運ぶのだ。ちなみに半額であったとしても十分高い。当然価格の交渉が入る。そこで、徳川と武田の不可侵条約と、今川に対する共同戦線を結ぶことに成功した。
 塩自体は尾張で作られており、非常に格安で入ってきている。徳川は武田に通常の相場で販売してもかなりの利潤があるのだ。そこを駿河と遠江を分け取りにするまでは、相場の倍で売りつけることに成功したのである。家康は笑いが止まらなかった。武田から巻き上げた金を用いて兵力の増強に成功し、遠江の制圧を急速に進めたのである。
 ある意味一番の被害者は今川氏真だっただろう。塩を売らないことで武田の弱体化を図ったが、見事に邪魔をされ、結局自国の侵略を招いてしまった。しかしこのことをもって氏真を愚か者とするのはさすがに厳しいであろうか。彼の打った一手は確かに信玄を苦しめたのである。ただ状況の推移が彼の予想のはるか斜め上を行っただけであった。
「むう、織田信長、やるではないか」
 どっかの大虎がつぶやいていた。この一連の謀略戦(?)がのちの上杉降伏につながったかどうかは定かではない。
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