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武術大会ー閉幕ーそして
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大会3日目。最終日である。
鉄砲の的当て競技が行われていた。そこで文若の徒扱いされていた明智光慶が魅せた。早合を使った連射で15の的全て中央を撃ち抜いて見せたのである。同じく参加していた信長も舌を巻く腕前であった。彼の父は世に知れた鉄砲の名手ではあったが、鉄砲隊の指揮官としての名のほうが広がっていた。射線を構築し、高低差を付けた砦で、敵に最大の出血を強いる野戦築城技術は右に出るものなしともいわれていた。
実は一人の射手としても天才的で、光秀の指導により明智家には鉄砲の名手が多い。そのことをいまさらながら思い知らされた格好である。
光慶自身は戦の采配は苦手である。だがそれを補える家臣がいる。そして自身も武威を示して見せた。これにより光慶自身の評価も変わってゆくことになる。
そもそも鉄砲稽古には金がかかる。弾薬もただではないし、ある程度国内生産も始まっているとはいえまだまだ高価である。精鋭の鉄砲隊を維持するには膨大な経済力が必要で、それを支えうる明智家の強さを否応なく知らされたのであった。
100対100の試し合戦の会場は異様な盛り上がりを見せていた。柴田の名を継ぐ勝長と、武田の嫡子信勝の対戦であった。上野と甲斐にて共に尚武の家である。えりすぐりの精鋭を率いてきていた。
信勝は祖父信玄に似ていると言われ、若年に見えぬ落ち着きを見せている。勝長は義父勝家の薫陶を受け、勇猛果敢であるとの評判であった。
「試し合戦を始める…はじめ!」
審判は両者に縁の深い武藤昌幸が勤めた。
「かかれ! かかれ! かかれ!」
勝長が突撃の命を下す。一丸となって魚鱗の備えで突っ込んだ。対する信勝は落ち着き払って采を振るう。両翼が広がって鶴翼の構えであった。
勝長は魚鱗の中央にあって、采を振るう。同数で鶴翼を敷けば必ず手薄になる部位ができる。そこに小隊を投入して包囲する翼の動きを妨げた。そして兵を叱咤し、前へ進ませる。まさにかかれ柴田の後継であった。
「ふむ、なかなかにやる。だが猪突だけでは戦はできぬと知れ」
自身の手勢を左翼に移し、中央をあえて突破させる。そして分断された陣がそのまま敵の左右より挟撃する布陣となった。
「横槍か。だがそうはいかぬ。いったん前に突き抜けよ! そのあとで二つに分かれ相手を背後包み込むのだ!」
兵を一気に前進させ、そのまま敵の背面の位置で横陣に展開しなおし、さらに両翼を伸ばして半包囲を試みた。
「っく、いかん。方陣じゃ!」
巧みに陣形を変形させ方陣を敷いて守りを固める。だがじわじわと両翼から兵力を削られる情勢に信勝は冷静に陣を後退させ、突出した先陣を逆にたたくことで構成を退けた。
「深追いはするな。ありゃあ信玄坊主の再来じゃ」
「何たる剛勇。お爺様が謙信と戦った時もかような心持であったか」
そのあとは互いに攻勢と防御を繰り返したが決定打は与えられなかった。互いの精鋭は大将の下知に従い巧みに立ち回り、ついにお互いに付け入る隙を与えなかったのである。
「引き分け!」
武藤昌幸の宣言にもお互い異を唱えることはなかった。むしろ互いに認め合う結果となり、以後両家は交流を深めてゆくのである。
次の対戦も注目された。徳川信康と、島津家久である。ともに円熟の域に達した将であり武名は天下に知れていた。
前日から陣地構築などが行われ、兵力も互いに500と先ほどより大規模であった。柵や土塁など、徳川本陣には防御施設が作られている。半面島津の本陣は策のみであり、土木作業で体力を使うくらいなら突撃する体力を温存するという、ある意味「らしい」方針であった。
「これより勝負を始める…はじめ!」
号令を下したのは長尾不識庵である。武の頂点を極めた、これまた「らしい」人選であった。
「隼人どもよ、我が鉾矢形は無敵じゃ! よか首ば取っておいに見せてくだしゃんせ!」
「「「ちぇえええええええええええええええええええええい!」」」
袁叫とともに島津の精鋭が気勢を上げる。先日の丸目蔵人や、東郷重位の人間離れした武勇を見ていた観客はあの光景を見て引きつっていた。
「人間いつかは息切れをする。儂が作り上げた陣を用いて守れば勝機は必ず来る。三河魂じゃ!」
「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおう!!!」」」」
兵の士気は負けていない。少なくとも三河武士の武名も薩摩隼人に負けてはいない。
島津は得意の鉾矢形の陣形で突破を図る。中央の最も陣列が分厚いところに突っ込んでいった。なぜにそこかというと、敵本陣に至る最短の道である。土塁や柵に守られているが、完全に遮断はできない。虎口を突破すればあとはわずかな旗本だけである。最も効率的かつ恐ろしい手を取ったわけである。
先陣は先日の演武で名をはせた東郷重位であった。いっそ壮絶な気合を上げて真一文字に斬り込んでくる。
「迎え撃つぞ!」
先陣を率いるのは信康の弟である秀康であった。尾張より伝わった三間半の槍を一斉に振り下ろす。
「ぐわああああああ!!」
重位は刀を振るう間合いに入る前に槍に押しつぶされた。
「東郷さああああああああ!?」
薩摩兵の悲鳴が響く。ある意味切り札が一兵をも討つことなくやられたのだ。
「重位の仇を討つのじゃ。者ども進め! 進め!」
「「「チェエエエエエエエエエエエエエエィ!!!!」」」
すかさず家久のかけた叱咤で兵が立ち直る。その姿を見て秀康は兵と指揮官の間の厚い信頼関係に舌打ちしたい気分であった。あれほどの精鋭、そう簡単に崩れてはくれない。
鬼のような形相で斬り込んでくる敵兵を秀康は自ら槍を振るい迎え撃つ。だがじりじりと追い込まれ、徐々に陣を下げる。家久の副将格である嫡子豊久がすさまじい勢いで自らの手勢を率いて突貫してくる。この勢いをさばききれず、秀康率いる前衛部隊はついに突破を許す。
「ここじゃ! かかれえええええ!」
豊久が先陣を鼓舞し、真一文字に本陣へ向けて突撃し…唐突に姿を消した。
「かかりよった、殲滅せよ!」
信康が本陣詰めの兵に下知を下す。待ち構えていた兵は弓を連射し、斬り込んでゆく。
「なんじゃと!? 落とし穴か!?」
豊久の手勢は大混乱に陥っている。そこに左右から分断された秀康の部隊が包囲を試みる。
「っく、我らが釣り野伏せを仕掛けられるとは」
包囲された島津勢はさらに混乱に陥る。鉾矢形はすべての戦力を前方に集約するため、横槍には極めてもろい。
「父上、一旦退いて体制を整えるでごわす。儂が食い止める!」
「わかった、任せたぞ!」
豊久の手勢が恐ろしい勢いで荒れ狂う。半ば偶発的ではあるが、秀康が落馬し、それによって攻勢が緩む。家久の手勢の一部がそこに攻撃を仕掛け、押し戻した隙に何とか後退を果たす。
そこに太鼓の音が響いた。
「そこまで!」
試し合戦の戦死判定は、兜に付けられた札を奪われることで判定される。
そして互いの戦死者の数は…ともに300近かった。通常1割が戦死すればまずその軍は崩壊する。半数以上が死傷した状態で士気を崩壊させず、渡り合ったことは畏怖の念を抱かせた。
日ノ本最狂の島津相手に渡り合い、相手のお株を奪う釣り野伏せを仕掛け、大損害を与えた。半面島津もあれほどの窮地から陣を立て直し、離脱に成功した。
実際のところ、島津も徳川も頭おかしいというのが正直な評価であったことは当事者には伏せられたのがいいのか悪いのか…?
こうして3日に渡る催事は終了し、将軍信忠のあいさつによって大盛況のうちに幕を閉じた。
そしてその3日後、信長のすべての公職からの引退と、隠棲が公表された。日ノ本に激震が走った…ということもなく、一連の合戦演習や、武術大会などの大規模な催事をこなし、時代の変遷を印象付けたことで、幕府の体制は盤石であると印象付けたのが大きかった。
信長の創世は終わりを告げ、治世が始まるのである。
鉄砲の的当て競技が行われていた。そこで文若の徒扱いされていた明智光慶が魅せた。早合を使った連射で15の的全て中央を撃ち抜いて見せたのである。同じく参加していた信長も舌を巻く腕前であった。彼の父は世に知れた鉄砲の名手ではあったが、鉄砲隊の指揮官としての名のほうが広がっていた。射線を構築し、高低差を付けた砦で、敵に最大の出血を強いる野戦築城技術は右に出るものなしともいわれていた。
実は一人の射手としても天才的で、光秀の指導により明智家には鉄砲の名手が多い。そのことをいまさらながら思い知らされた格好である。
光慶自身は戦の采配は苦手である。だがそれを補える家臣がいる。そして自身も武威を示して見せた。これにより光慶自身の評価も変わってゆくことになる。
そもそも鉄砲稽古には金がかかる。弾薬もただではないし、ある程度国内生産も始まっているとはいえまだまだ高価である。精鋭の鉄砲隊を維持するには膨大な経済力が必要で、それを支えうる明智家の強さを否応なく知らされたのであった。
100対100の試し合戦の会場は異様な盛り上がりを見せていた。柴田の名を継ぐ勝長と、武田の嫡子信勝の対戦であった。上野と甲斐にて共に尚武の家である。えりすぐりの精鋭を率いてきていた。
信勝は祖父信玄に似ていると言われ、若年に見えぬ落ち着きを見せている。勝長は義父勝家の薫陶を受け、勇猛果敢であるとの評判であった。
「試し合戦を始める…はじめ!」
審判は両者に縁の深い武藤昌幸が勤めた。
「かかれ! かかれ! かかれ!」
勝長が突撃の命を下す。一丸となって魚鱗の備えで突っ込んだ。対する信勝は落ち着き払って采を振るう。両翼が広がって鶴翼の構えであった。
勝長は魚鱗の中央にあって、采を振るう。同数で鶴翼を敷けば必ず手薄になる部位ができる。そこに小隊を投入して包囲する翼の動きを妨げた。そして兵を叱咤し、前へ進ませる。まさにかかれ柴田の後継であった。
「ふむ、なかなかにやる。だが猪突だけでは戦はできぬと知れ」
自身の手勢を左翼に移し、中央をあえて突破させる。そして分断された陣がそのまま敵の左右より挟撃する布陣となった。
「横槍か。だがそうはいかぬ。いったん前に突き抜けよ! そのあとで二つに分かれ相手を背後包み込むのだ!」
兵を一気に前進させ、そのまま敵の背面の位置で横陣に展開しなおし、さらに両翼を伸ばして半包囲を試みた。
「っく、いかん。方陣じゃ!」
巧みに陣形を変形させ方陣を敷いて守りを固める。だがじわじわと両翼から兵力を削られる情勢に信勝は冷静に陣を後退させ、突出した先陣を逆にたたくことで構成を退けた。
「深追いはするな。ありゃあ信玄坊主の再来じゃ」
「何たる剛勇。お爺様が謙信と戦った時もかような心持であったか」
そのあとは互いに攻勢と防御を繰り返したが決定打は与えられなかった。互いの精鋭は大将の下知に従い巧みに立ち回り、ついにお互いに付け入る隙を与えなかったのである。
「引き分け!」
武藤昌幸の宣言にもお互い異を唱えることはなかった。むしろ互いに認め合う結果となり、以後両家は交流を深めてゆくのである。
次の対戦も注目された。徳川信康と、島津家久である。ともに円熟の域に達した将であり武名は天下に知れていた。
前日から陣地構築などが行われ、兵力も互いに500と先ほどより大規模であった。柵や土塁など、徳川本陣には防御施設が作られている。半面島津の本陣は策のみであり、土木作業で体力を使うくらいなら突撃する体力を温存するという、ある意味「らしい」方針であった。
「これより勝負を始める…はじめ!」
号令を下したのは長尾不識庵である。武の頂点を極めた、これまた「らしい」人選であった。
「隼人どもよ、我が鉾矢形は無敵じゃ! よか首ば取っておいに見せてくだしゃんせ!」
「「「ちぇえええええええええええええええええええええい!」」」
袁叫とともに島津の精鋭が気勢を上げる。先日の丸目蔵人や、東郷重位の人間離れした武勇を見ていた観客はあの光景を見て引きつっていた。
「人間いつかは息切れをする。儂が作り上げた陣を用いて守れば勝機は必ず来る。三河魂じゃ!」
「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおう!!!」」」」
兵の士気は負けていない。少なくとも三河武士の武名も薩摩隼人に負けてはいない。
島津は得意の鉾矢形の陣形で突破を図る。中央の最も陣列が分厚いところに突っ込んでいった。なぜにそこかというと、敵本陣に至る最短の道である。土塁や柵に守られているが、完全に遮断はできない。虎口を突破すればあとはわずかな旗本だけである。最も効率的かつ恐ろしい手を取ったわけである。
先陣は先日の演武で名をはせた東郷重位であった。いっそ壮絶な気合を上げて真一文字に斬り込んでくる。
「迎え撃つぞ!」
先陣を率いるのは信康の弟である秀康であった。尾張より伝わった三間半の槍を一斉に振り下ろす。
「ぐわああああああ!!」
重位は刀を振るう間合いに入る前に槍に押しつぶされた。
「東郷さああああああああ!?」
薩摩兵の悲鳴が響く。ある意味切り札が一兵をも討つことなくやられたのだ。
「重位の仇を討つのじゃ。者ども進め! 進め!」
「「「チェエエエエエエエエエエエエエエィ!!!!」」」
すかさず家久のかけた叱咤で兵が立ち直る。その姿を見て秀康は兵と指揮官の間の厚い信頼関係に舌打ちしたい気分であった。あれほどの精鋭、そう簡単に崩れてはくれない。
鬼のような形相で斬り込んでくる敵兵を秀康は自ら槍を振るい迎え撃つ。だがじりじりと追い込まれ、徐々に陣を下げる。家久の副将格である嫡子豊久がすさまじい勢いで自らの手勢を率いて突貫してくる。この勢いをさばききれず、秀康率いる前衛部隊はついに突破を許す。
「ここじゃ! かかれえええええ!」
豊久が先陣を鼓舞し、真一文字に本陣へ向けて突撃し…唐突に姿を消した。
「かかりよった、殲滅せよ!」
信康が本陣詰めの兵に下知を下す。待ち構えていた兵は弓を連射し、斬り込んでゆく。
「なんじゃと!? 落とし穴か!?」
豊久の手勢は大混乱に陥っている。そこに左右から分断された秀康の部隊が包囲を試みる。
「っく、我らが釣り野伏せを仕掛けられるとは」
包囲された島津勢はさらに混乱に陥る。鉾矢形はすべての戦力を前方に集約するため、横槍には極めてもろい。
「父上、一旦退いて体制を整えるでごわす。儂が食い止める!」
「わかった、任せたぞ!」
豊久の手勢が恐ろしい勢いで荒れ狂う。半ば偶発的ではあるが、秀康が落馬し、それによって攻勢が緩む。家久の手勢の一部がそこに攻撃を仕掛け、押し戻した隙に何とか後退を果たす。
そこに太鼓の音が響いた。
「そこまで!」
試し合戦の戦死判定は、兜に付けられた札を奪われることで判定される。
そして互いの戦死者の数は…ともに300近かった。通常1割が戦死すればまずその軍は崩壊する。半数以上が死傷した状態で士気を崩壊させず、渡り合ったことは畏怖の念を抱かせた。
日ノ本最狂の島津相手に渡り合い、相手のお株を奪う釣り野伏せを仕掛け、大損害を与えた。半面島津もあれほどの窮地から陣を立て直し、離脱に成功した。
実際のところ、島津も徳川も頭おかしいというのが正直な評価であったことは当事者には伏せられたのがいいのか悪いのか…?
こうして3日に渡る催事は終了し、将軍信忠のあいさつによって大盛況のうちに幕を閉じた。
そしてその3日後、信長のすべての公職からの引退と、隠棲が公表された。日ノ本に激震が走った…ということもなく、一連の合戦演習や、武術大会などの大規模な催事をこなし、時代の変遷を印象付けたことで、幕府の体制は盤石であると印象付けたのが大きかった。
信長の創世は終わりを告げ、治世が始まるのである。
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なろう、カクヨムでも連載しています。
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