乾坤一擲

響 恭也

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東南アジア制圧

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 タイは当時アユタヤ王朝が栄えており、琉球とも交流があった。だが、マラッカを制圧したポルトガルの勢力が及んでおり、元亀年間を最後に琉球との交流は途絶える。そして薩摩沖海戦でスペインの大艦隊がみじめに敗北し、日本の勢力がルソン島に及び、また明国の混乱と相まって情勢が緊迫してきた。
 インドネシアやジャワ、スマトラなどの島々は香辛料の一大産地であり、欧州諸国の商人はここから多くの富を得ていた。もしマラッカが落ちればそこから東の海域の産物を遮断される。よしんば交易ができたとして、マラッカを押さえている勢力によって関税などが掛けられれば香辛料の値上がりは避けられない。それはイコール利益の低下でもある。
 香辛料は東南アジアの島々ではありふれたものであり、当然だが高い値はつかない。ヨーロッパから持ち込まれた産物ではあるが、事実上の収奪である。大砲などで現地住民を脅し、城砦を築いて支配を強めた。ヨーロッパの当時の繁栄はこうした海外からの富の収奪によって支えられていたのである。

 秀隆は現地住民を扇動してヨーロッパ人の総督に対して反乱を起こさせる手を打った。九州の海賊はある種の武装商船である。東南アジアにも進出している者はおり、一部は倭寇として中国の沿岸部を荒らしてもいた。そういった者に資金を援助し活動範囲を広げさせる。同時に現地に移住させ間者として活動させていた。
 実は秀隆のこういった活動は天下統一以前より行われていた。尾張熱田湊の改修拡大を行い、遠隔地まで行く商船を募り援助を行っていた。同時に東南アジアの産物を入手することで、新たな作物を入手したり、交易で莫大な利益を上げた。そこで得た利益が織田の天下統一の原動力となったのである。
 秀隆が統一後に東南アジアまでの進出を最初から見据えていたかは今となっては不明である。だが長期的な視野で事業を推進していたことは間違いなかった。

 ルソン島の港町、マニラより出港した船団はブルネイを経由してバレンバンに入る。スマトラ島を北上し、同時に欧州の戦力を駆逐してゆく。今までほぼ非武装で弓矢や刀剣しか持たない現地の民を虐げていた彼らは、逆に狩られる立場となった。ここに上陸した武士団は1000ほどであったが、まともに戦争をしたことのない兵など相手ではなかった。そしてスマトラ島の異変に気付いたときには遅かった。ベトナム経由でタイランド湾を渡った本隊がインドシナ半島を一気に南下し、マラッカの城塞を北から襲撃した。形勢不利を悟ったマラッカ総督は船で逃れようとしたが、バレンバンから北上してきた船団に阻まれ、突破できず北に逃れた。
 タイを治めるアユタヤ王朝は琉球との伝手を使用して友好条約を結ぶことに成功した。マラッカには日本の兵が入り、欧州諸国からの防衛と、通商条約を結んだ相手に対しては臨検を行うこととなる。
 投降してくるヨーロッパの兵たちにはインドまでの渡航を許した。またブルネイに総督府を置き、事実上政府と呼べる者がいなかった東南アジア諸島に部族代表や長老など、代表権を持つ人物を首長に据えていった。日ノ本の宗主権を認めさせたうえで、冊封体制を参考にした支配体制を敷いたのである。
 初代マラッカ太守には藤堂高虎が任じられた。これは大抜擢である。ルソン総督に長宗我部信親が、ブルネイには大谷吉継が入った。また実直な人柄を買われ、スマトラ島などの住民慰撫には石田三成が当たった。三成の傍らには筒井家のお家騒動で出奔した島左近がついていたという。
 外部からの人間に警戒心を抱くだけならともかく、実際に襲撃を受けることもあった。三成の護衛と兵力を背景にした威圧もする必要があったのだ。
 ちなみに左近を推挙したのは秀隆であった。余談である。
 こうして東南アジアからヨーロッパの勢力が駆逐されてゆく。幕府は大東亜共栄圏を提唱し、前述のとおり幕府直臣を代官、もしくは総督として送り込む。マラッカを窓口として香辛料の販売を行い、欧州の産物を入手する。そうして上がった利益は幕府にも入るが大部分はその東南アジア諸国への投資と軍備に振り向けられた。
 現地住民によってまずは自警団を立ち上げさせ、徐々に治安維持を担わせていく政策であった。その中で優秀なものを抜き出して軍を編成する見通しである。
 こうして支配圏に入ってゆく東南アジアを見物に回る隠居二人組の姿があった。一人は平然と船旅を楽しみ、もう一人は船酔いに苦しんでいたという…
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