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長城の戦い
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「かかれえええええええええいいい!」
ヌルハチの号令が轟く。長城の上には明軍が陣取り、弓や弩を構えて待ち構えた。望楼の上には大型の据え付け型の弩も配備されている。
軍を3つに分けまずは右翼に展開した1万が梯子と盾を構えて城壁に取りつく。さらに後方から伊達勢の鉄砲隊が援護射撃を行う。そして明軍の指揮官は攻め寄せた第一手に兵を集中した。
「いまだ、左翼かかれ!」
右翼の兵が退き左翼が前進する。片方の軍に兵力を振り向けていたので、手薄になった瞬間を狙われた。右翼軍を退けたので、そちらに兵を向かわせる。そしてある程度兵力が移動したところで再度右翼軍が攻勢を開始する。
明軍は長城の上を左右に振り回される形となった。長城と言えど高低差もあり、場所によっては傾斜も大きい。そんな中を武装した兵が武具をもって走り回ったのである。この構成を数度繰り返すと、身動きが取れない兵が出始める。
「頃合いじゃな」
「はっ! 義父上の策、見事にはまりましたな」
「ふふん、まあ、あれだ。出所はうちの弟だがな」
「義叔父上の策ですと?」
「大昔、お主らの祖先チンギスハンが用いた策じゃと」
「なるほど…というかそんなことまでご存知とは一体…?」
「うむ、あ奴のおかげでわしは天下を取れたと思っておるよ。当人には言わんがな」
「一度教えを乞いたいものです」
「ふふ、今はちとへこんでおるが、また気力を取り戻したら引き合わせてやろうぞ」
「よろしくお願いいたします…っと、準備が整ったようですな」
「ふむ、では行くか」
「全軍騎乗! 突撃じゃ、儂に続け!!」
「「「「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」
ヌルハチ直下の精鋭が攻勢をかけていた城壁のちょうど中間に攻め寄せた。鳥をも射落とす腕の騎兵が騎射を仕掛け、城壁上の兵を射抜く。そこに盾を構えた歩兵が一直線に城壁に迫る。
「鉄砲隊前へ…撃て!」
信長の指揮で敵兵が反撃をしようと顔を出した瞬間を狙って一斉射撃が叩きつけられる。機を逃さず徒武者が城門に向け丸太を叩きつける。別の一手は梯子をかけ先を争って駆けあがろうとする。その一糸乱れぬ兵の働きにヌルハチが感嘆のため息を漏らす。
「義父上の兵は素晴らしいな」
「長年戦が続いたからの、兵が強いということはある意味悲しい事じゃ」
「そう…ですな。戦などない方がよい」
「それがわかっておればそなたは良き王になれるだろうて」
「わが父も祖父も明に奪われた。だが次の世代にはそうならぬようにしないとならん、そういうことですな」
「答えはすでにそなたの中にある。それを大切にな」
「はっ!」
そうこうしているうちに各所で城壁を突破され、城門は中から開け放たれた。長城を乗り越えることに成功したのである。だがヌルハチは兵をここにとどめ、砦の修復や民の慰撫に勤めた。長らく国境沿いに住まうものは国境警備の軍から収奪を受け、とても貧しい。まずここで地盤を整えておかないと遠征もおぼつかないと考えたためであった。
そして李成梁は近隣の兵をかき集め5万の兵を整えた。北京からも援軍が来ているが士気は低い。ここを破られれば首都が抜かれると必死に鼓舞しているがなかなか効果は上がらない。そもそも明では、何にもなれなかったごろつき未満のものが兵になると言われ、その地位は低い。手柄をたてても上官に横取りされるのが常で、これでやる気を出せと言われても無理である。
ヌルハチはすぐに侵攻をしてくるものと考えていたが、むしろ防備を整えていると聞き、さらに懸念は膨れ上がっている。ここで攻めてきてくれれば有利な地形に誘い込むなど迎え撃つ手立ては考えていた。また戦闘で疲労しているところを討つことで不利を帳消しにしようとの思惑もあった。だがどっしりと構えているヌルハチを見てどんどんと不安が湧き上がる。
李成梁は兵をさらにかき集めた。大兵力を整えるのが戦に勝つ第一歩である。しかし上層部は足を止めたヌルハチを侮り、いまに支えきれなくなって北に逃げ帰ると考えているようである。だが現実には着々と領土化が進んでゆくのを見守るしか術がなかったのである。
そうこうしているうちに北京は業を煮やした。長城は明の領内であり、敵軍が居座っているのは外聞が悪い。また治安などにも影響が出始めている。朝廷は李成梁の尻を叩くことを決めた。
「勅使である。李成梁将軍は直ちに兵を出し、兇徒ヌルハチを討ち取り、北辺の安寧をもたらさんことを」
(無茶言うんじゃない、3万と言えどもこっちの兵よりよほど強いのだぞ?)
などという内心を言えるはずもなく、李成梁はうなずくことしかできなかった。
「はは、陛下の宸襟を脅かす兇徒どもを討ち取って御覧に入れましょうぞ!」
「うむ、期待しておる」
やむなく李成梁は5万を率いて北上した。槍を持たせた重装歩兵を前面に出し、騎兵突撃を防ぐことしか手が打てなかった。分断されずに陣列を保てれば負けはしない。騎兵は瞬発力に優れるが長期戦には向かない。今まで女真族と戦った経験を頼りに戦術を考える。だが基本的に壁を挟んでの戦いであり、遮るもののない平地での野戦はほとんどない。そしてその少ない経験は敗北に彩られていた。
明軍の北上を知ったヌルハチも迎撃の準備を整えさせる。近隣の地形の把握は十分にされた。長城の南十里ほどの地でヌルハチ率いる後金軍3万と、李成梁の明軍5万が対峙することとなったのである。
ヌルハチの号令が轟く。長城の上には明軍が陣取り、弓や弩を構えて待ち構えた。望楼の上には大型の据え付け型の弩も配備されている。
軍を3つに分けまずは右翼に展開した1万が梯子と盾を構えて城壁に取りつく。さらに後方から伊達勢の鉄砲隊が援護射撃を行う。そして明軍の指揮官は攻め寄せた第一手に兵を集中した。
「いまだ、左翼かかれ!」
右翼の兵が退き左翼が前進する。片方の軍に兵力を振り向けていたので、手薄になった瞬間を狙われた。右翼軍を退けたので、そちらに兵を向かわせる。そしてある程度兵力が移動したところで再度右翼軍が攻勢を開始する。
明軍は長城の上を左右に振り回される形となった。長城と言えど高低差もあり、場所によっては傾斜も大きい。そんな中を武装した兵が武具をもって走り回ったのである。この構成を数度繰り返すと、身動きが取れない兵が出始める。
「頃合いじゃな」
「はっ! 義父上の策、見事にはまりましたな」
「ふふん、まあ、あれだ。出所はうちの弟だがな」
「義叔父上の策ですと?」
「大昔、お主らの祖先チンギスハンが用いた策じゃと」
「なるほど…というかそんなことまでご存知とは一体…?」
「うむ、あ奴のおかげでわしは天下を取れたと思っておるよ。当人には言わんがな」
「一度教えを乞いたいものです」
「ふふ、今はちとへこんでおるが、また気力を取り戻したら引き合わせてやろうぞ」
「よろしくお願いいたします…っと、準備が整ったようですな」
「ふむ、では行くか」
「全軍騎乗! 突撃じゃ、儂に続け!!」
「「「「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」
ヌルハチ直下の精鋭が攻勢をかけていた城壁のちょうど中間に攻め寄せた。鳥をも射落とす腕の騎兵が騎射を仕掛け、城壁上の兵を射抜く。そこに盾を構えた歩兵が一直線に城壁に迫る。
「鉄砲隊前へ…撃て!」
信長の指揮で敵兵が反撃をしようと顔を出した瞬間を狙って一斉射撃が叩きつけられる。機を逃さず徒武者が城門に向け丸太を叩きつける。別の一手は梯子をかけ先を争って駆けあがろうとする。その一糸乱れぬ兵の働きにヌルハチが感嘆のため息を漏らす。
「義父上の兵は素晴らしいな」
「長年戦が続いたからの、兵が強いということはある意味悲しい事じゃ」
「そう…ですな。戦などない方がよい」
「それがわかっておればそなたは良き王になれるだろうて」
「わが父も祖父も明に奪われた。だが次の世代にはそうならぬようにしないとならん、そういうことですな」
「答えはすでにそなたの中にある。それを大切にな」
「はっ!」
そうこうしているうちに各所で城壁を突破され、城門は中から開け放たれた。長城を乗り越えることに成功したのである。だがヌルハチは兵をここにとどめ、砦の修復や民の慰撫に勤めた。長らく国境沿いに住まうものは国境警備の軍から収奪を受け、とても貧しい。まずここで地盤を整えておかないと遠征もおぼつかないと考えたためであった。
そして李成梁は近隣の兵をかき集め5万の兵を整えた。北京からも援軍が来ているが士気は低い。ここを破られれば首都が抜かれると必死に鼓舞しているがなかなか効果は上がらない。そもそも明では、何にもなれなかったごろつき未満のものが兵になると言われ、その地位は低い。手柄をたてても上官に横取りされるのが常で、これでやる気を出せと言われても無理である。
ヌルハチはすぐに侵攻をしてくるものと考えていたが、むしろ防備を整えていると聞き、さらに懸念は膨れ上がっている。ここで攻めてきてくれれば有利な地形に誘い込むなど迎え撃つ手立ては考えていた。また戦闘で疲労しているところを討つことで不利を帳消しにしようとの思惑もあった。だがどっしりと構えているヌルハチを見てどんどんと不安が湧き上がる。
李成梁は兵をさらにかき集めた。大兵力を整えるのが戦に勝つ第一歩である。しかし上層部は足を止めたヌルハチを侮り、いまに支えきれなくなって北に逃げ帰ると考えているようである。だが現実には着々と領土化が進んでゆくのを見守るしか術がなかったのである。
そうこうしているうちに北京は業を煮やした。長城は明の領内であり、敵軍が居座っているのは外聞が悪い。また治安などにも影響が出始めている。朝廷は李成梁の尻を叩くことを決めた。
「勅使である。李成梁将軍は直ちに兵を出し、兇徒ヌルハチを討ち取り、北辺の安寧をもたらさんことを」
(無茶言うんじゃない、3万と言えどもこっちの兵よりよほど強いのだぞ?)
などという内心を言えるはずもなく、李成梁はうなずくことしかできなかった。
「はは、陛下の宸襟を脅かす兇徒どもを討ち取って御覧に入れましょうぞ!」
「うむ、期待しておる」
やむなく李成梁は5万を率いて北上した。槍を持たせた重装歩兵を前面に出し、騎兵突撃を防ぐことしか手が打てなかった。分断されずに陣列を保てれば負けはしない。騎兵は瞬発力に優れるが長期戦には向かない。今まで女真族と戦った経験を頼りに戦術を考える。だが基本的に壁を挟んでの戦いであり、遮るもののない平地での野戦はほとんどない。そしてその少ない経験は敗北に彩られていた。
明軍の北上を知ったヌルハチも迎撃の準備を整えさせる。近隣の地形の把握は十分にされた。長城の南十里ほどの地でヌルハチ率いる後金軍3万と、李成梁の明軍5万が対峙することとなったのである。
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