乾坤一擲

響 恭也

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文禄大地震

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 信長不予。激震が日ノ本を襲った。各地の大名諸侯は信忠の権力基盤がいまだ脆弱であることを予見し、混乱が起きるのではないかと周囲を探り出す。幕府のもとに忠誠を誓ったという建前になっているが、勝ち組がいれば当然負け組がいる。没落した諸侯は旧領を取り戻さんと不穏な動きを現していた。
 そして日本を大地震が襲う。若狭湾から三河湾にまで及ぶ広大な地域に被害が及んだ。飛騨では集落ががけ崩れで丸ごと埋まり、内ケ島氏がほぼ全滅した。美濃では大垣城が崩落し、竈の火から大火事となった。金山では集落の家屋が一瞬で崩壊し、液状化によって泥濘地となり、のちに池となったという。
 伊勢湾では津波が襲い、沿岸の集落を飲み込んだ。尾張蟹江城は、崩壊した後で津波が襲い、城が跡形もなくなったという。三河湾も津波の被害が相次ぎ、徳川信康は直ちに兵を派遣し、被害状況の確認と陣屋を建設して家を失った民への手当てを行った。また炊き出しを行ったという。
 日本海側では越中が甚大な被害を受けていた。城が崩落し、城主浅井正之が行方不明などの被害があった。弟が行方不明となった長政は非常に落胆し、のちに死亡が確認された時にはしばらく立ち直れなかったそうである。
 幕府の動きも速かった。各地の被害状況をまとめさせ、即座に軍を派遣し被害地域の把握と救助、そして陣屋を用いての仮設住宅の提供、食糧支援が行われた。同様のことは徳川家がすでに実施しているが、中央政体である幕府は更にそれを大規模に行ったのである。

「叔父上、先日制定した災害対策法に従い軍を各地へ派遣した。また現地の領主が機能していない場合は幕府代官がその任を代行することを改めて付け加えた」
「はい、迅速な対応、お見事です」
「ほかにするべきことはないか?」
「被害のなかった地域から食料、物資などを買い付け被害地域に輸送させるのです」
「ふむ、米、味噌、塩ほか、薪や炭、陣屋の資材などか」
「現地で財産を失った者もおりましょう。まずは与えましょう。そして生活を再建してから税を取るのです」
「そうか、年貢については何も配慮がなかった。各地に大名に触れを出そう。年貢の減免を行うのじゃ」
「ただしそれですと大名が干上がります。幕府から被害のあった家に見舞金を贈りましょう」
「なるほど…ふむ、ではこういうのはどうか?」
「どのような?」
「被害のあった領民に銭を貸し付ける。利息は3年以内ならばなしじゃ。そしてその元手の銭を幕府から領主に貸し付ける。条件は3年以内ならばそのままでよいとする」
「なるほど。良きことかと」
「大名は領民から人気が取れるし、幕府は大名どもに貸しができる」
「将軍様は政が巧みになられた」
「父と叔父上の薫陶にござるよ」
「はっはっは」

 被害の多寡に応じて税を減免し、再建のための資材の援助も実施した。幕府主導の復興は早急に効果を現し、また、税の減免により、幕府、及び将軍信忠への領民の人気は大きく上がった。
 この騒動により一つ問題が発生した。信忠は幕府親藩を中央にまとめていたが、今回の地震の被害地域とほぼ重なっていた。結果論であるが幕府の力がそがれた格好になってしまったのである。中央の結束は強まったが、地方はこの騒動で資金力を強化した。それを内政などに投資すればよかったが、さらに不穏な動きをする諸侯も出てしまったのである。こうして文禄2年は更けていった。
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