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富国強兵
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永禄6年はこともなく暮れてゆき、永禄7年を迎えた。織田家には慶事が相次いでいた。まず、信長正室の帰蝶が男児を生んだこと。そして、秀隆のもとにも桔梗が男児とあさひが女児を生んでいた。幼名六郎と、ひなたとした。立派な親バカとなり、嫁たちにがっつり説教された。
木下家には藤吉郎と寧々の間に男児が生まれた。日吉と名付け、溺愛しているようだ。史実では晩婚であった小一郎も妻を娶り、先日妊娠が分かったとき喜びのあまり町を駆け回ったのは語り草になっている。
柴田権六のもとに信秀の末娘のおつや殿が嫁いだ。先日娘が生まれたと聞く。先年の秀隆の結婚から織田家中は結婚と出産ラッシュになっており、喜びに満ちていた。
先年から出ている新田を開いた者にはその田を与え、3年は税を免ずるとの触書は尾張の人口を増大させた。食料が不足すればいくら銭を積んでも買うことすらできない。景気が良いと評判が広がれば人が集まる。ただ無秩序な状態になれば治安は悪化し人は離散する。
秀隆の行った対策は人別帖を付け、どこどこの村に某が移住した。何々村の壮丁は何名、うち兵はどれだけといったように把握できるようにした。他国からの間者も当然紛れ込む。それを素性を明らかにし、身元引受を寺や庄屋に責を負わせ監視することで動きを封じたのである。
織田家が管理する街道を公道とし、すべての民、商人の通行を自由とした。むろん軍を動かす時はそれが優先される。ただ、街道そのものを直轄化し、各地の領主が勝手に税をとることを禁じた。それに伴い物流が活性化し、城下の市もにぎわう。農民は余剰の生産を銭に変え、市場の物資を買い付け生活を豊かにした。
民衆が豊かになれば税も取りやすくなる。織田本家を中心として流れ込んできた傭兵や、農家の土地を継げない男を中心に常時雇いの兵を増やしていった。これは活動時期を選ばないため、例えば農繁期に動員するだけで敵国の生産や経済に負担を与えられる。欠点は銭がやたらかかることだ。
武装の見直しも行った。集団戦となれば個人的な武勇はあまり発揮できない。指揮官と兵の信頼関係などで士気や持久力が変わったりはあるが、尾張の兵は弱兵で知られている。それはひとえに不利となると逃げ散ってしまう腰の据わらなさにある。
信長と秀隆は兵の心理を考え、敵より遠くから一方的に攻撃できるようにしたら少しは持ちこたえるのではないかと考えた。まずは槍の柄を伸ばした。この時代の槍隊の戦い方は突くのではなく叩きあうのだ。垂直に立てた槍をそのまま前に倒す。そしてまた槍を持ち上げて垂直に立てる。基本はその繰り返しである。
まずは竹槍で実験してみた。3間に切った槍と、3間半の槍。半間の差であるが、1撃でも一方的に殴れることで、兵が持ちこたえられる時間が伸びた。
「兄上、これは採用いたしましょう」
「そうじゃの、だが儂の直属軍からだな。金がかかりすぎるわ」
「ですなあ」
二人のボヤキはそのまま空に消えていった。実際問題として織田家の税収は右肩上がりに上がっているが再投資で湯水のように消えている。正直蓄財はあまりない。
知多半島においては漁労のみでは発展に限りがあるので製塩を立ち上げた。流下式塩田を作ったことで揚げ浜式に比べ生産量が飛躍的に伸び、また薪代が減ったため安価に生産できるようになったことも大きく、安く質の良い尾張の塩は行商人に人気の商品となってゆく。
この時代に限らないが塩は戦略物資である。特に山国である美濃はひそかに買い付けに来ており、あえて高値で売りつけた。まあ、それでも今までに比べれば安価ではあったが。この取引で美濃の財貨が尾張に流れ込むこととなる。
こうして尾張の経済力は飛躍的に増してゆき、織田本家の兵力もかなり増大させることができた。その象徴として、鉄砲隊500を編成したことがあげられる。正直かなり無理をしてはいるが、500の一斉掃射で敵の先陣を突き崩すことができるし、陣列に穴を開けることができる。鉄砲に慣れていない軍であればそれだけで潰走することもあり得る。
火縄銃の一般的な欠点としては連射が出来ないことだ。ここで秀隆が提案したのは原始的な薬莢である早合(弾丸と発射薬を紙の筒にまとめておき、筒先からそれを入れるだけで発射ができる)と縦の陣列で、分業した三段撃ちであった。
これ自体は史実で信長のオリジナルというわけでなく、雑賀や根来当たりではよく用いられていた戦術である。
そこに秀隆が試作させ、信長に没収された複合弓が加わる。和弓は三層構造の竹弓が主流だが、木材と動物の腱などを使用して、短いが威力の高い矢を放つことができる短弓を作った。材料の調達の関係上あまり多くは配備できていないが、鉄砲と矢継ぎ早の射撃で、間断ない遠距離攻撃を浴びせることができる。
兵力に余力ができてきたことで、特殊兵科の編制にも手を付けていた。黒鋤隊と呼ばれる工兵部隊を編制した。それまでは身分が低く、雑用が中心であったが、秀隆の直下という扱いにして米俵を使用した土嚢による陣地構築と、高性能工具による塹壕掘削など上洛以降の織田軍で多用された野戦築城技術を専門に訓練された部隊を作り上げていったのである。
前線を支える後方支援部隊の地位を向上させることで軍の継戦能力の底上げを図ったのである。
同時に荷駄隊の器具を開発した。金属で軸受けを作り荷車の強度の向上。柱の先に金属製のカバーを付け、地面に打ち込みやすくしたことで陣屋の建築を早急に行えるようにした。遠征軍の疲労蓄積を緩和する処置である。
大鍋での大量調理で温かい汁ものなどを出せるようにした。食事がまずいと士気が落ちる。うまいものをしきりに食べたがる信長はこの意見には一も二もなくうなずいた。ここで塩の価格が下がり通常の軍より多めに配備できるため、野戦食の味は飛躍的に向上している。
生産の向上による軍備の増強と、軍そのものの質を向上させる改革により、天下一の弱兵と揶揄された尾張兵は徐々に精強さを増してゆくのだった。
木下家には藤吉郎と寧々の間に男児が生まれた。日吉と名付け、溺愛しているようだ。史実では晩婚であった小一郎も妻を娶り、先日妊娠が分かったとき喜びのあまり町を駆け回ったのは語り草になっている。
柴田権六のもとに信秀の末娘のおつや殿が嫁いだ。先日娘が生まれたと聞く。先年の秀隆の結婚から織田家中は結婚と出産ラッシュになっており、喜びに満ちていた。
先年から出ている新田を開いた者にはその田を与え、3年は税を免ずるとの触書は尾張の人口を増大させた。食料が不足すればいくら銭を積んでも買うことすらできない。景気が良いと評判が広がれば人が集まる。ただ無秩序な状態になれば治安は悪化し人は離散する。
秀隆の行った対策は人別帖を付け、どこどこの村に某が移住した。何々村の壮丁は何名、うち兵はどれだけといったように把握できるようにした。他国からの間者も当然紛れ込む。それを素性を明らかにし、身元引受を寺や庄屋に責を負わせ監視することで動きを封じたのである。
織田家が管理する街道を公道とし、すべての民、商人の通行を自由とした。むろん軍を動かす時はそれが優先される。ただ、街道そのものを直轄化し、各地の領主が勝手に税をとることを禁じた。それに伴い物流が活性化し、城下の市もにぎわう。農民は余剰の生産を銭に変え、市場の物資を買い付け生活を豊かにした。
民衆が豊かになれば税も取りやすくなる。織田本家を中心として流れ込んできた傭兵や、農家の土地を継げない男を中心に常時雇いの兵を増やしていった。これは活動時期を選ばないため、例えば農繁期に動員するだけで敵国の生産や経済に負担を与えられる。欠点は銭がやたらかかることだ。
武装の見直しも行った。集団戦となれば個人的な武勇はあまり発揮できない。指揮官と兵の信頼関係などで士気や持久力が変わったりはあるが、尾張の兵は弱兵で知られている。それはひとえに不利となると逃げ散ってしまう腰の据わらなさにある。
信長と秀隆は兵の心理を考え、敵より遠くから一方的に攻撃できるようにしたら少しは持ちこたえるのではないかと考えた。まずは槍の柄を伸ばした。この時代の槍隊の戦い方は突くのではなく叩きあうのだ。垂直に立てた槍をそのまま前に倒す。そしてまた槍を持ち上げて垂直に立てる。基本はその繰り返しである。
まずは竹槍で実験してみた。3間に切った槍と、3間半の槍。半間の差であるが、1撃でも一方的に殴れることで、兵が持ちこたえられる時間が伸びた。
「兄上、これは採用いたしましょう」
「そうじゃの、だが儂の直属軍からだな。金がかかりすぎるわ」
「ですなあ」
二人のボヤキはそのまま空に消えていった。実際問題として織田家の税収は右肩上がりに上がっているが再投資で湯水のように消えている。正直蓄財はあまりない。
知多半島においては漁労のみでは発展に限りがあるので製塩を立ち上げた。流下式塩田を作ったことで揚げ浜式に比べ生産量が飛躍的に伸び、また薪代が減ったため安価に生産できるようになったことも大きく、安く質の良い尾張の塩は行商人に人気の商品となってゆく。
この時代に限らないが塩は戦略物資である。特に山国である美濃はひそかに買い付けに来ており、あえて高値で売りつけた。まあ、それでも今までに比べれば安価ではあったが。この取引で美濃の財貨が尾張に流れ込むこととなる。
こうして尾張の経済力は飛躍的に増してゆき、織田本家の兵力もかなり増大させることができた。その象徴として、鉄砲隊500を編成したことがあげられる。正直かなり無理をしてはいるが、500の一斉掃射で敵の先陣を突き崩すことができるし、陣列に穴を開けることができる。鉄砲に慣れていない軍であればそれだけで潰走することもあり得る。
火縄銃の一般的な欠点としては連射が出来ないことだ。ここで秀隆が提案したのは原始的な薬莢である早合(弾丸と発射薬を紙の筒にまとめておき、筒先からそれを入れるだけで発射ができる)と縦の陣列で、分業した三段撃ちであった。
これ自体は史実で信長のオリジナルというわけでなく、雑賀や根来当たりではよく用いられていた戦術である。
そこに秀隆が試作させ、信長に没収された複合弓が加わる。和弓は三層構造の竹弓が主流だが、木材と動物の腱などを使用して、短いが威力の高い矢を放つことができる短弓を作った。材料の調達の関係上あまり多くは配備できていないが、鉄砲と矢継ぎ早の射撃で、間断ない遠距離攻撃を浴びせることができる。
兵力に余力ができてきたことで、特殊兵科の編制にも手を付けていた。黒鋤隊と呼ばれる工兵部隊を編制した。それまでは身分が低く、雑用が中心であったが、秀隆の直下という扱いにして米俵を使用した土嚢による陣地構築と、高性能工具による塹壕掘削など上洛以降の織田軍で多用された野戦築城技術を専門に訓練された部隊を作り上げていったのである。
前線を支える後方支援部隊の地位を向上させることで軍の継戦能力の底上げを図ったのである。
同時に荷駄隊の器具を開発した。金属で軸受けを作り荷車の強度の向上。柱の先に金属製のカバーを付け、地面に打ち込みやすくしたことで陣屋の建築を早急に行えるようにした。遠征軍の疲労蓄積を緩和する処置である。
大鍋での大量調理で温かい汁ものなどを出せるようにした。食事がまずいと士気が落ちる。うまいものをしきりに食べたがる信長はこの意見には一も二もなくうなずいた。ここで塩の価格が下がり通常の軍より多めに配備できるため、野戦食の味は飛躍的に向上している。
生産の向上による軍備の増強と、軍そのものの質を向上させる改革により、天下一の弱兵と揶揄された尾張兵は徐々に精強さを増してゆくのだった。
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