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ミツキの忠告

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 鬼人文明世界に近づくと彼女はポロスに話しかけた。
「ねえ ミツキの家に寄ってくれない?」
「別にいいけど 用事でもあんの?」

 ミツキは外出していた。家の人に聞いた話では、
修練にいっているとのことだった。
 教えられた場所に行くと大人に交じり、
刀や槍の訓練をしていた。訓練が終わるまで待ち、彼女はミツキに話しかけた。
「また 来たのか 今日は遊んでやれないからな」
「いや ちょっと遠くに行くから会いに来たの」
「ふーん 引っ越すんだな」
「違うよ 吸血鬼文明世界に行くの」
ミツキは険しい顔になった。
「聖童子…いったいどこからここに来たんだ?」
「エルフ文明世界」
はー
ミツキはため息をつくと彼女に言った。
「死ぬぞ チサト
ここから先の世界にまともな生き物なんていない」
「?どうして知ってるの?異文明世界には普通の人はいけないんでしょ?」
「文明世界に属さない生き物は移動できるんだよ
吸血鬼文明世界から迷い込む生き物は化け物しかいない
こどもが生きて帰れる世界じゃない」
 鬼人文明世界の要塞や訓練は、吸血鬼文明世界から
迷い込む化け物を討伐するためのものだとミツキは彼女に説明した。
「じゃあ 帰ってこれたら吸血鬼文明世界にどんな生き物がいるか
教えてあげるね」
ミツキは頭を抱えた。

「わかった 見せてやるよ」
ミツキは要塞のある山へ彼女を連れて行った。
 
 要塞を近くで見るといろんな所に傷があった。
血の跡のようなものもある。
要塞の城門前で大人と話をしていたミツキが
彼女のところまで戻り説明した。
「少しの時間だけど許可が出た
捕獲した化け物をその目で見ろ」

 要塞の中に入ると、防具を付けて武器を持った大人の鬼人が
大勢いた。
 そして檻に入れられた猛獣がいた。
化け物と呼ぶだけあって異形の姿をしている。
「こんなのがいるところに行ったら
お前みたいなチビはすぐに食い殺されるんだからな」
 彼女は黙って檻の中で唸っている生き物を見ていた。
「もうわかっただろ?こどもが見ていて楽しいものでもないし
帰ろう」
 ミツキは彼女が怖がっているのだろうと思い、気を利かせたつもりだったが
しかし、彼女の心の中にあったのは好奇心だった。

「ねえミツキ?この子たちに吉備団子は効くの?」
「は?いや 効果を高めたものを与えても
効かないそうだけど」
「ふーん じゃああれを使てみたら 何か変化があるかもしれない」
そう言うと彼女は荷物から、
吉備パン粉とエルフの薬とスリングショットを出した。
「おいこんなところで 遊んでたらどやされるぞ」
 ミツキは周りの大人に気が付かれないように声を抑えて
彼女に言った。
「遊びじゃなくて実験だよ」
 彼女は吉備パン粉とエルフの薬を混ぜて
だんごを作り、檻の前で生き物を興奮させる動きをして、
吠えさせると、スリングショットで口の中にだんごを放った。
 飲み込んでしまった猛獣はおとなしくなり
うずくまってしまった。
「勝手に毒食わせたらまずいって」
ミツキは焦っていたが小声だった。
「違うよ薬」
 はぁ?呆れたミツキは生き物の様子を注意深く確かめた。
?さっきと何かが違う。さっきより生き物の体が小さくなった気がする。
姿にも変化があり、さっき見た禍々しさがない。
正常な獣といった印象を受ける。
獣は置きあがると彼女の前で尻尾を振り、クゥーンと甘えるように鳴いたのだ。

「お座り!ふせ!」
さっきまで禍々しい姿をしていた生き物は
飼いならされた犬のように彼女の指示に従った。
「なんだそれ?」
ミツキは目を丸くしたまま固まった。
「エルフの薬が効いたみたい 吉備パン粉の効果もちゃんと出てるね」
 おそらくエルフの薬が異形を治し、
吉備パン粉で操れる状態になったのだろう。

 化け物への対処方法が分かってしまったので、
ミツキは彼女を止める理由を無くしてしまった。

「どうしても行くって言うんなら これはつけて行けよ」
ミツキは家の蔵からこども用の防具を出して、彼女に渡した。
「きやすめみたいなもんだけど」
彼女は素直に貰った防具をミツキに手伝ってもらって身に着けた。
「ありがとう」
「いいよ エルフの薬は本当に貰ってもいいのか?」
「それだけしか持ってないわけじゃないから
気にしないで 戻ってきたらまた分けてあげられると思う」
「じゃあこれは持ってけ」 
彼女はミツキから袋に入れられたお土産を受け取った。
「ありがとう」
 ミツキは顔に手を当てて、はぁとため息をつくと
顔を上げ、
「死ぬなよ」
そう言って彼女を送り出した。
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