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第五部【Re:Create】
序章 《Designs》
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研究室で一仕事終えた彼女は、少し疲労が溜まっていた。ここ数日は睡眠時間を削って対処しているが、それでもタスクは山積みされているのが現状だ。
席を立ち、軽くストレッチを行った。仕事に没頭すると、何時間もデスクで過ごしてしまうので、慢性的な肩こりになっている。
彼女の名はカレン・東郷。組織の『本部』で『適合者』の製造に携わる研究者の1人だ。上からの指示で新世代の戦闘型『適合者』を造らなければならないのだが、具体的なイメージすら未だ固まっていない。
第4世代迄の『適合者』から吸い上げたデータは全てチェックしている。彼女の目には十分な戦力として映っているが、上の者達は満足していないらしい。これ以上、何を強化すれば良いのか、彼女は悩んでいた。
「カレン、コーヒー淹れたけど飲む?」
同僚のヒルダ・ヤーノルドがそう言って、淹れたてのコーヒーを差し出した。
「ありがとうヒルダ。グッドタイミングね」
彼女はそう言って、差し出されたコーヒーを笑顔で受け取る。ヒルダも『本部』で『適合者』の製造に携わっている研究者で、このラボでの付き合いは長い。
組織の『本部』では国籍や性別、年齢も問わず、各分野で優秀な人材が世界中から集められている。彼女達も若くしてその一角であり、本来なら世界のトップ企業や大学の研究所に勤めていてもおかしくないレベルの人材なのだが、破格の高待遇でスカウトされたのだ。
組織の『本部』に勤めるという事は、表舞台から姿を消すという事でもある。そういった事を踏まえて考えても良いと判断出来るだけの高待遇で雇われている。
此処には世界に類を見ない最新鋭の設備が揃っているし、一般社会の研究者達がタブー視している、生命の創造を研究してもいる。彼女達研究者にとって、知的探究心を満たすには最適の環境と言えるだろう。
「カレン、最近仕事で行き詰まっているんじゃないの?私で良ければ相談に乗るよ?」
ヒルダがそう言うが、図星であった。第1世代から第4世代迄、30年以上前から様々な『能力』を与えた『適合者』が、このラボの研究者達の手で製造されている。だが、上層部が求めているのは『新世代の適合者』だ。
具体的な指示は出されていない。自由にやって良いと言われている。しかし、その自由にというのが雲を掴むような話なのだ。せめて方向性ぐらいは示してもらいたい、というのが彼女の本音である。
「ありがとう。正直言って、どうするのが正解なのか分からなくなっちゃってね・・・。ベースはBeastタイプにしようかと思っているのだけど、何か新しい要素をって考えるとねぇ・・・」
彼女はそう言って溜息を吐いた。
「そうねぇ・・・、Beastタイプってのはイケてると思うよ。アレ、強いし。後は新しい要素かぁ~・・・。今迄製造された『適合者』のスペックは、もうチェックしているんだよね?何か適当に、キャラが被らないのを考えるしかないかなぁ~?」
ヒルダはそう、いつも通りの軽いノリで言う。
「う~~~ん・・・。でもねぇ、過去に造られた『適合者』と被らなくて、尚且つ戦力になるモノをってなると、既に粗方出尽くしてるような気がするのよねぇ・・・」
彼女はそう言って、また溜め息を吐く。
今迄に組織で造られた『適合者』は、様々な『能力』を与えられている。戦闘型にしろ環境型にしろ、それぞれが持つ『能力』はバラエティに富んだモノだ。
特に、『戦闘型』というように目的がハッキリしているタイプだと、既にあらゆる局面に特化したタイプが造られているので、新たな方向性を打ち出すのも難しいだろう。
「カレン、悩んだ時は考える前に手を動かすのよ。直感に頼れば閃きがあるかもでしょ?私なんかはいつも、フィーリングでパパ~っとやっちゃうから」
ヒルダはそう言ってウィンクをして見せた。彼女と違ってヒルダは、直感に冴えた研究者だ。その直感で過去に何度も難しい問題を解決しており、これは最早才能と呼ぶべきだろう。だが、だからといって、ヒルダと同じ事が彼女にも出来るとは限らない。
しかし、いくら思考を巡らせても堂々巡りになっている現状では、ヒルダの言うように直感に賭けてみるのもアリかもしれない。
「ありがとう、ヒルダ。ものは試しって言うし、何事もチャレンジしてみないと分からないものね。私の直感で、ユニークな『適合者』を造ってみせるわ」
ヒルダの言葉に背中を押され、彼女は少し気が楽になった。理屈で凝り固まってしまっては何も生み出せないだろう。ヒルダとの会話が、良い気分転換になった。
「カレン、頑張れ~。何だっけ?日本のアレ、神風精神ってヤツ?とにかく、今のカレンには勢いが必要な訳よ。もしかしたらボスが造るみたいに、トンデモ兵器が出来るかもよ?んじゃ、私は仮眠室行くから」
ヒルダは欠伸を噛み殺しながらそう言って、研究室を出て行った。睡眠時間を削っているのは彼女だけではないのだ。
しかし、思わず苦笑してしまったが、ヒルダの口から『神風精神』なんて言葉を聞くとは思わなかった。戦時中に日本で言われていた言葉。今時誰も言わないだろう。
祖国を離れて組織に入り、既に5年経っている。故郷に未練が無い訳ではない。家族や友人の事を時折り思い出す。
だが、彼女は研究者としての道を選んだ。それも、組織の『本部』での研究だ。此処で得た実験結果がどれ程革新的だろうと、表舞台の学会で知られる事は無い。全ては組織の為に利用されるだけだ。
彼女は、それでも構わないと思っている。研究者の本能である知的探究心、此処ではそれに一切制限が無い。それだけでも彼女は十分満足していた。
「さてと、私もヒルダみたいに、フィーリングでパパっとやっちゃおうかな~?」
彼女は端末に向かい、軽く手指をほぐした。『適合者』を製造する際に使用するDNAデザインの専用端末だ。この端末でデザインしたDNAパターンが、ダイレクトに培養カプセルの中で形成されるようになっている。
「新世代の戦闘型『適合者』・・・、戦闘に特化したタイプ・・・。それなら、『ヒト』の形である必要もないのじゃないかしら?第1世代にも肉体の一部が『ヒト』とはかけ離れた『適合者』がいたけど、もっと強靭な肉体で、戦う為だけの身体つきにしても構わないわよね・・・?」
彼女は端末のキーボードを打鍵し始める。頭の中に大まかなイメージが浮かび上がってきた。
DNAは本来、あらゆる生命体が過去より受け継ぎしモノ。このラボではソレに人為的な手を加えて異質なモノへと変化させている。培養カプセルの中では、今まさに新たな『命』が生み出されようとしていた・・・。
席を立ち、軽くストレッチを行った。仕事に没頭すると、何時間もデスクで過ごしてしまうので、慢性的な肩こりになっている。
彼女の名はカレン・東郷。組織の『本部』で『適合者』の製造に携わる研究者の1人だ。上からの指示で新世代の戦闘型『適合者』を造らなければならないのだが、具体的なイメージすら未だ固まっていない。
第4世代迄の『適合者』から吸い上げたデータは全てチェックしている。彼女の目には十分な戦力として映っているが、上の者達は満足していないらしい。これ以上、何を強化すれば良いのか、彼女は悩んでいた。
「カレン、コーヒー淹れたけど飲む?」
同僚のヒルダ・ヤーノルドがそう言って、淹れたてのコーヒーを差し出した。
「ありがとうヒルダ。グッドタイミングね」
彼女はそう言って、差し出されたコーヒーを笑顔で受け取る。ヒルダも『本部』で『適合者』の製造に携わっている研究者で、このラボでの付き合いは長い。
組織の『本部』では国籍や性別、年齢も問わず、各分野で優秀な人材が世界中から集められている。彼女達も若くしてその一角であり、本来なら世界のトップ企業や大学の研究所に勤めていてもおかしくないレベルの人材なのだが、破格の高待遇でスカウトされたのだ。
組織の『本部』に勤めるという事は、表舞台から姿を消すという事でもある。そういった事を踏まえて考えても良いと判断出来るだけの高待遇で雇われている。
此処には世界に類を見ない最新鋭の設備が揃っているし、一般社会の研究者達がタブー視している、生命の創造を研究してもいる。彼女達研究者にとって、知的探究心を満たすには最適の環境と言えるだろう。
「カレン、最近仕事で行き詰まっているんじゃないの?私で良ければ相談に乗るよ?」
ヒルダがそう言うが、図星であった。第1世代から第4世代迄、30年以上前から様々な『能力』を与えた『適合者』が、このラボの研究者達の手で製造されている。だが、上層部が求めているのは『新世代の適合者』だ。
具体的な指示は出されていない。自由にやって良いと言われている。しかし、その自由にというのが雲を掴むような話なのだ。せめて方向性ぐらいは示してもらいたい、というのが彼女の本音である。
「ありがとう。正直言って、どうするのが正解なのか分からなくなっちゃってね・・・。ベースはBeastタイプにしようかと思っているのだけど、何か新しい要素をって考えるとねぇ・・・」
彼女はそう言って溜息を吐いた。
「そうねぇ・・・、Beastタイプってのはイケてると思うよ。アレ、強いし。後は新しい要素かぁ~・・・。今迄製造された『適合者』のスペックは、もうチェックしているんだよね?何か適当に、キャラが被らないのを考えるしかないかなぁ~?」
ヒルダはそう、いつも通りの軽いノリで言う。
「う~~~ん・・・。でもねぇ、過去に造られた『適合者』と被らなくて、尚且つ戦力になるモノをってなると、既に粗方出尽くしてるような気がするのよねぇ・・・」
彼女はそう言って、また溜め息を吐く。
今迄に組織で造られた『適合者』は、様々な『能力』を与えられている。戦闘型にしろ環境型にしろ、それぞれが持つ『能力』はバラエティに富んだモノだ。
特に、『戦闘型』というように目的がハッキリしているタイプだと、既にあらゆる局面に特化したタイプが造られているので、新たな方向性を打ち出すのも難しいだろう。
「カレン、悩んだ時は考える前に手を動かすのよ。直感に頼れば閃きがあるかもでしょ?私なんかはいつも、フィーリングでパパ~っとやっちゃうから」
ヒルダはそう言ってウィンクをして見せた。彼女と違ってヒルダは、直感に冴えた研究者だ。その直感で過去に何度も難しい問題を解決しており、これは最早才能と呼ぶべきだろう。だが、だからといって、ヒルダと同じ事が彼女にも出来るとは限らない。
しかし、いくら思考を巡らせても堂々巡りになっている現状では、ヒルダの言うように直感に賭けてみるのもアリかもしれない。
「ありがとう、ヒルダ。ものは試しって言うし、何事もチャレンジしてみないと分からないものね。私の直感で、ユニークな『適合者』を造ってみせるわ」
ヒルダの言葉に背中を押され、彼女は少し気が楽になった。理屈で凝り固まってしまっては何も生み出せないだろう。ヒルダとの会話が、良い気分転換になった。
「カレン、頑張れ~。何だっけ?日本のアレ、神風精神ってヤツ?とにかく、今のカレンには勢いが必要な訳よ。もしかしたらボスが造るみたいに、トンデモ兵器が出来るかもよ?んじゃ、私は仮眠室行くから」
ヒルダは欠伸を噛み殺しながらそう言って、研究室を出て行った。睡眠時間を削っているのは彼女だけではないのだ。
しかし、思わず苦笑してしまったが、ヒルダの口から『神風精神』なんて言葉を聞くとは思わなかった。戦時中に日本で言われていた言葉。今時誰も言わないだろう。
祖国を離れて組織に入り、既に5年経っている。故郷に未練が無い訳ではない。家族や友人の事を時折り思い出す。
だが、彼女は研究者としての道を選んだ。それも、組織の『本部』での研究だ。此処で得た実験結果がどれ程革新的だろうと、表舞台の学会で知られる事は無い。全ては組織の為に利用されるだけだ。
彼女は、それでも構わないと思っている。研究者の本能である知的探究心、此処ではそれに一切制限が無い。それだけでも彼女は十分満足していた。
「さてと、私もヒルダみたいに、フィーリングでパパっとやっちゃおうかな~?」
彼女は端末に向かい、軽く手指をほぐした。『適合者』を製造する際に使用するDNAデザインの専用端末だ。この端末でデザインしたDNAパターンが、ダイレクトに培養カプセルの中で形成されるようになっている。
「新世代の戦闘型『適合者』・・・、戦闘に特化したタイプ・・・。それなら、『ヒト』の形である必要もないのじゃないかしら?第1世代にも肉体の一部が『ヒト』とはかけ離れた『適合者』がいたけど、もっと強靭な肉体で、戦う為だけの身体つきにしても構わないわよね・・・?」
彼女は端末のキーボードを打鍵し始める。頭の中に大まかなイメージが浮かび上がってきた。
DNAは本来、あらゆる生命体が過去より受け継ぎしモノ。このラボではソレに人為的な手を加えて異質なモノへと変化させている。培養カプセルの中では、今まさに新たな『命』が生み出されようとしていた・・・。
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