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ひま☆やん

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第四部【No.0】

序章 《彼女》

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 彼女はとても美しい。優雅に水槽の中を泳ぐ姿に、彼は一目で魅了された。人魚。上半身は人間とそう変わらないが、下半身は魚の様に尾鰭が付き、足ではなく鱗に覆われた尻尾になっている。
「君は誰?」
 彼は彼女に問い掛けた。彼女は水面から顔を出し、笑いながら、ガラス越しに答える。
「私はAqua。貴方はZeroでしょう?」
 彼は彼女の問い掛けに答える。
「うん。皆んな僕をZeroと呼んでいた。でも、何故分かったの?」
 彼は不思議に思った。何故彼女は僕の呼び名を知っているのだろう?
「Zero、私達は初めましてじゃないわよ?覚えていないの?」
 彼女がそう言うが、彼は返答に困ってしまった。この場所に来たのは初めての筈だ。水槽を泳ぐ彼女を見たのも初めての筈。そこへ、
「Zero、やっぱり此処に居たのね。探したわよ」
 背後から、聞き覚えのある女性の声がした。白衣を着て背が高く、髪はショートボブ。キリッと引き締まった顔つきをしている年配の女性だ。ハイヒールの音を響かせながら歩み寄って来た。この人は誰だろう?
「覚えていないかもしれないけど、貴方はよく此処に来て、彼女と会話しているわ。さぁ、行きましょうZero。貴方には検査を受けてもらわないと」
 白衣の人はそう言って、彼の手を引いた。どうやら、彼に選択権を与えてはくれないようだ。
「ちょっと待って。貴女は誰?検査って何の?それに、僕が覚えていないっていうのはどういう事なの?」
 彼は戸惑いながら質問した。自分が置かれている状況が、まるで分からない。すると、白衣の人は深く溜息をついて、彼に説明した。
「私はエマ。貴方の担当医よ。ドクターとでも呼んでちょうだい。Zero、貴方は脳に損傷を受けたのよ。こうして生きているのが不思議なレベルでね。自律行動出来る位には回復したみたいだけど、記憶を失っているのが何よりの証拠。他にも異常が無いか、キチンと精密検査を受けてもらうわよ」
 そう言われたけど、今一つピンと来なかった。脳に損傷を受けたって?思わず自分の頭をまさぐってみたが、特に傷痕の様な感触も痛みも無かった。
 記憶を失う程に、脳を損傷した?何をやってそんな事になったのだろう?疑問は尽きないけれど、何も思い出せないのだから、ドクターの言ってる事は正しいのかもしれない。スッキリしないけど、大人しく従っておこうと彼は思った。
「Zero!」
 この場を立ち去ろうとしたが、背後からAquaに呼びかけられて振り向いた。
「また来てね。私、貴方のお話好きよ」
 彼女はそう言って、ニッコリと微笑み手を振った。
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