上 下
87 / 90
学園編 § 学校生活編

第87話 リストの家系

しおりを挟む
 「うん。だけど、あそこには本当に霊孤が住んでるって聞いた。強い神やその眷属の力を借りる方が本当に願いが叶うんだって。」
 「誰がそんなことを言ってたんだ?」
 「彼女は僕と違ってちゃんとした霊能者だからね。僕が霊力がないことをずっと心配していろいろ考えたり、方法をずっと探してくれてた良いやつさ。ティッシュだってあの子がくれたんだ。」
 「だから、それは誰だ?」
 「あれ?飛鳥も彼女から聞いたんだろ?魔法陣のこと。それはもちろん麻朝、生島麻朝だよ。」

 麻朝が、千暮にあの魔法陣のサイトとの接点であるティッシュを渡し、それだけでなく、あの妖孤に導いた?
 あの、大人しそうな、不安げな瞳の、あの少女が?

 実は、この件に関わっているかもしれないリストにはなかったが、協力者かもしれない家として生島の名があったんだ。
 生島以外にも、それはないんじゃないか?と思える家名もあったし、なんというか、AAOを2分した勢力を分けてるだけじゃないか?と思えるようなラインナップだった。
 僕がそんな風に疑問を言ったところ、淳平も同意していた。タカ派とハト派って感じかねぇ、なんて、いつもの調子で流してたし、大して気にしてはいなかったんだけど。

 麻朝だけじゃなく、あの場でその父親にも会った。
 物腰の柔らかい、そして、件の霊孤の無事を心から喜んでいるような様子に、そして、千暮をくい止めた我々に感謝する様子に、偽りがあるように見えなかった。
 正直、僕は、人の機微に疎い。
 こんな世界で家長をやるような人の腹芸が見破れるなんて、思ってない。
 けど、あの場には、ノリもいた。
 あのさとりの化け物の後継と考えられているノリだ。
 そのノリに腹芸が分からないとは思えない。
 それとも、ノリの力をかいくぐる、何か技でも持っているのか?


 僕は、そんなことを考えつつ、養老の家を後にしたんだ。


 そのまま、僕は寮に戻ると、淳平の部屋に行った。
 そこには蓮華もいて、なにやら結界まで張って、話し合っている様子だった。

 「養老に行ったんだって?」
 「千暮に会ってきた。当主もいたよ。」
 「で?」
 相変わらずの蓮華の質問。
 「正直、分かんなくなってきた。」
 「はぁ?なにいっちょまえなこと言ってるわけ?あんたが分かってたためしあったっけ?で?」
 「で?って・・・」
 「だ・か・ら!何があったのか報告!」
 はぁ。
 1つ大きなため息をつき、僕は、さっきの話をできうる限り詳細に話す。



 「なるほどね。」
 腕組みをして聞いていた蓮華は、ひとり納得したように頷いた。
 何が、なるほど、なんだろうか。
 「あんた、本当に分かんないの?いい?生島家は元華族。幸楽に繋がる人心掌握のプロ集団よ。」
 「幸楽に繋がる・・・」
 「あのねぇ。忘れた?娘と逢い引きした言い訳に、親戚って使ったじゃない?田口の遠縁だって意味だとはいえ、そもそも幸楽の伝手でしょうが。」
 そういえば、あのときノリとも遠縁扱いだな、って思ったっけ。
 え?でも・・・
 「その顔は、さとりの後継にたぶらかされた?家でもAAOでもなくあんたの味方だ~とでも言われてほだされた?」
 「・・・・」

 「まぁまぁ蓮華ちゃん。こういううぶなところも飛鳥ちゃんの持ち味なんだからさぁ。」
 「あんたが、ちゃんと指導しなさいよ。」
 「いやいや、そこまで責任持てないっしょ。」
 「とにかく!その麻朝って子、父親ともども黒で決まりね。」
 「ちょっと待ってよ。決まりって、そんな一方的な!」
 「あのね、飛鳥。飛鳥に魔法陣のヒント持ってきたの誰よ?」
 「それは・・・」
 「ったく、ちょっと可愛くて若いってだけで、気を許すんだから、これだから男は!」
 「ちょいちょい蓮華さんや。別に可愛いとか若いとか、関係ないっしょ。」
 「あんたも含めて言ってるの。」
 「アハハハ、まさかの飛び火?一応言い訳させて貰うと、可愛いとか言われてもわたくし、この目でございますから、ヒヒヒ。」
 「若い、は、否定しないのね。」
 「蓮華姉さんもぴちぴちの永遠の20代じゃありませんか、ねぇ、飛鳥?」
 「え、でも、ほぼ30・・・」
 「あーすーかー!」
 「いや、その、蓮華は美人だと思う。うん怒らなければ・・・その・・・」
 「はぁ、もういいわよ。」
 なんだって、こんなことで疲れなきゃならないんだろう?
 僕は淳平を睨むけど、どこ吹く風。

 「飛鳥。今日は部屋に帰らず、ここに泊まりなさい。ううん。私が許可するまで、ここにいて二人とは接触しないように。特にさとりの方は絶対よ。」
 「なんで?」
 「あんたがダダ漏れだからでしょうが。ただでさえ顔に出るのに、さとりに情報を与えるのは、今は感心しないわ。いいわね、淳平。あんたが飛鳥のフォローをしなさい。それと、飛鳥。生島の娘と話がしたいわ。セッティングよろしく。」

 蓮華は、そのあとすぐに用ができた、と去って行った。

 「まぁ、蓮華の命令じゃ、聞くしかないわな。」
 しばらくして、淳平が言う。
 そして、ここで大人しくしていろ、そう言うと、淳平も出ていった。

 約1時間ほど経った頃。
 淳平は、僕の荷物を下から取ってきたようだ。と、言ってもちょっとした服と学校の教科書程度。もともと大して荷物なんてない。

 「どうやら鞍馬の娘とあいつらが接触したらしい。一緒だったんだってな?」
 僕に荷物を放り投げつつ、淳平はそう言ってきた。
 どうやら、ノリとゼンに話を聞きに行ったらしい。
 というより、荷物を持ち出すために話をした、というところか?

 「倉間葵が同行するって昨日言わなかったっけ?」
 「ああ、生徒会、か。それで・・・まぁ、いい。あいつら、生島のこと、怪しんでたぞ、こっちが言う前に。」
 「それって淳平の心を読んで・・・」
 「はぁ?お前じゃあるまいし、あのガキ程度に心を読ませません!鞍馬の方が怪しいとしてリストアップしてきたらしい。養老は鞍馬と組んでそうだ。」
 そういうややこしい関係は、僕は分かんないよ。
 「まぁ、養老はそもそも女系の占い師だし、鞍馬との協力関係は古いんだよ。縁戚関係も強いしな。」

 帝に占いでアドバイスし、それに基づいて鞍馬が戦う、そんな関係が平安の昔から築かれていたのだ、という。
 養老は、そもそもが女性が占いに秀で、それに婿入りした男が名目上の当主となり、妻に仕えるのだという。現し世の些末なことは僕たる婿の仕事、実質男尊女卑ならぬ女尊男卑と言おうか。あくまでナンバーワンは妻であり、当主はナンバーツーという家柄らしい。
 現状、そのナンバーワンが亡くなってしまい、その娘がきちんと継げるまで、家を守っている形の養老であるが、男はナンバーワンを含め占いを行う巫女たちを守るために強くあれ、という家でもあって、戦闘能力は業界でも高い、とされる。
 その高い戦闘能力を維持するためにも、取り入れていたのが鞍馬の血でもあるということだ。

 淳平からのそんな講義を聴きつつ、あそこに倉間葵の姿があったのも、実は鞍馬の意志があるのか、と、ため息をつきたくなった。
 家、家、家・・・
 まったく、家がなんだってんだろう。
 けど、日本でだけじゃなく、AAOで世界中に派遣されても、この家という枷はどこまでもついて回るようだ。

 僕は1981年に産まれた。
 そして中学まで普通に生きてきた。
 むしろ、親戚もなく、母ですら不在の僕だ。家族というのは父のみで、家だなんだと言われても、さっぱり分からない。
 平安時代から続く家が云々・・・
 だから何?って感じ。
 この手の講義は、主に淳平から何度も聞いたし、他にもいろんな人に語られた。
 だけど・・・・

 麻朝は、家のために、魔法陣のことを僕や千暮に語ったのか?
 その父は、家のために、幼い頃から側にいる妖孤をダシに使って、?ここは何がやりたかったんだろうか?
 さっぱり分かんない。

 「なぁ、飛鳥。考えるにはピースが足りないって、分かってるか?下手な考え休むに似たりってな。考える前に動く。明日からは、おれっちと動くべ?」
 相変わらず意味不明なふざけた物言いをしてくる淳平。
 が、その目は、ずっとリストから動いていなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小児科医、姪を引き取ることになりました。

sao miyui
キャラ文芸
おひさまこどもクリニックで働く小児科医の深沢太陽はある日事故死してしまった妹夫婦の小学1年生の娘日菜を引き取る事になった。 慣れない子育てだけど必死に向き合う太陽となかなか心を開こうとしない日菜の毎日の奮闘を描いたハートフルストーリー。

【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした

仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」  夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。  結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。  それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。  結婚式は、お互いの親戚のみ。  なぜならお互い再婚だから。  そして、結婚式が終わり、新居へ……?  一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?

処理中です...