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学園編 § 学校生活編
第67話 社会見学
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月曜日。
初めての学校行事、という奴だ。
なんでも有名な和菓子屋に見学に行くとか。
家内工業がでかくなったプチ工場で和菓子が作られる様子をガラス越しに見学。
そして、和菓子作り体験、とかで、練り切りとかいう方法の菓子を作って食べる、というのが一連の流れらしい。
先週のうちに6人1組のグループを作られている。
僕のグループは男女比同じの3人ずつ。
転校生といっても、2年の最初から組み込まれている僕を含めて出席番号でグループ分け。幸い、というか当然、というか、男は聖也とルカが同じだった。そもそも、オリエンテーリングの部屋分けが出席番号順だったようだから、被って当然なわけだ。・・・・鈴木太朗、田口飛鳥、田嶋聖也、辻野瑠珂・・・こういう並びってわけ。
女性陣は、一人は委員長。後はまだほとんど話したこともない子だった。
聖也に耳打ちされたところによれば、めがねをかけたお下げの子が斉藤奈緒、背の低いおかっぱ頭の子が中尾紫暮だそうだ。当然、手にしているデータで彼女たちのことを頭に入れてきたけれど・・・
二人とも、というか委員長を含めて、霊能者の家系ではない、というのは確かだ。そもそもこのクラスでは関係者は二人だけ、のはずだった。そこに太朗みたいなのも現れるし、絵本のこともある。単純に手持ちのデータだけで判断するのもどうか、というのが目下の心配ではある。
別にどんな出自だろうと、深く関わり合うつもりはないけど、そう改めて思い直し、僕は、黙って彼らと和菓子が大きな機械で練られる様子をぼんやりと、眺めていた。
「失礼。」
ぼうっとグルグル回る機械を眺めていると、後ろからおだやかな声がかけられて、ビクッとしてしまった。
慌てて、振り返る。
「委員長さんのグループでしょうか。」
その男は、委員長に対して声をかけていたようだ。
自意識過剰だな、と、一瞬緊張してしまった自分に苦笑する。
「浪速さん、ですよね。」
「ああ、麻朝さんの!ご無沙汰してます。」
麻朝?
僕は、その名を聞いて少し警戒度を強めた。
彼女は、2人のうちの1人。もう一人と比べたら問題ないとはいえ、このタイミングで彼女の関係者が?
「いつも娘がお世話になっています。」
「いえ、こちらこそ、今日はありがとうございます。」
なんだ?
「みんな、この方、生島麻朝さんのお父さん。ここの会社の親会社の社長さんでもあるんよ。」
そういや、いくつかの食品関係のオーナーだと言ってたっけ?
「こんにちは。委員長さんのグループの方ですね、お名前をうかがっても?」
ニコニコと話してくるが、それがかえって胡散臭い。考えてみたらあの幸楽の親戚筋だったか。
そう考えていると、みんなが次々に名乗って挨拶していく。さすがに無視、ってわけにもいかないか。
「田口です。」
僕はぼそっと言った。
「ハハハ、なんだよ、それ。ハハハ。」
なんか笑いながら、聖也がバンバン背中を叩いてくる。なんだよ、痛いなぁ。
「そうだよ飛鳥ちゃん。すっごい他人行儀ぃ!飛鳥ちゃん、生島さんと親戚なんでしょ。もう、笑っちゃう。」
ルカもそう言って笑うけど・・・
あ、そうか。
確かそんな設定だったっけ・・・
生島麻朝と二人で喫茶店に行ったことがバレて、面倒だから親戚ということにしたんだった。
「ハハハ、飛鳥君久しぶり。大きくなったねぇ。麻朝に聞いてるよ。同じクラスなんだって?」
チッ。ちゃんと僕のことを認識済みか。ていうか、何が大きくなったねぇ、だ。あんたが産まれる前から、こっちはとっくに成長が止まってるよ。
「あ、私の日本語は難しいかな?英語がいい?」
僕の設定も認識済み、ね。で、なんで接触してきたんだ?
「あ、大丈夫。日本語で大丈夫です。」
「そう。あ、そうだ。ここの工場の奥なんだけどね、昔ながらの庭園があってね。良かったら、見ていくかい?」
「庭園、ですか?」
「昔は井戸水で作っていたからね。今は衛生法だなんだで、使えなくなったけど、その井戸を中心にちょっとした日本庭園を造っているんだ。旧工場跡地、ともいうんだけどね。時間があれば見ていくといい。門を開けておくよ。他の子たちにも、委員長さん、伝えてくれるかい。」
「はい、よろこんで!ありがとうございます!」
気がつくと、クラスの他の子や、担任である淳平も、こちらの様子をうかがっていた。何人かは麻朝に何か言っている。
どうやらも麻朝も、その庭園を知らない、ということをしゃべっているようだ。そもそも、親の会社の子会社、という扱い。麻朝が知るのもおかしな話か。
淳平の視線を感じて僕は頷いた。
わざわざ、生島家当主が姿を現して、何もない、はずがない。
庭園に何かあるのか、それとも別のことか。
そんな風に考えていたら、少し離れた所で、怒鳴るような声が聞こえた。
そして、その辺りからパタパタと走り去る複数の足音。
「しょうもないやつ。」
吐き捨てるように聖也が言った。
「何?」
「養老だよ。なんか知らんけど、途中抜けしていったみたいだな。」
ああ、そういえば、さっきの怒鳴り声って養老千暮か。
「まったく、生徒会役員のくせに何やってるんだろうねぇ。ちょっと見てくるわ。」
委員長が呆れたように言って、追いかけようとした。
「あ、ちょっと待って!」
思わず僕は呼び止めた。
何をする気か知らないけど、養老というのはちょっとばかりややこしい。
能力者かどうかもちゃんと調べなかった、そのことに、少しばかり後悔する。
僕はチラッと再び淳平を見た。
追いかけろ、と言うのか、顎で養老の去った方をしゃくり上げている。
ハァ。
なにがあるのか知らないけど、何か起こされるのも、起こるのも、面倒だ。
「僕が行くよ。」
「田口君が?あんまり仲良くないでしょ?いいわよ。委員長の仕事だし。」
「いや、別に大丈夫だから。それより委員長はみんなをまとめる必要あるでしょ?」
「そうだけど。でも・・・」
「あ、委員長。俺が飛鳥に付き添うから!」
逡巡する委員長に、後ろの方から声がかかる。
太朗だ。
「だったら、俺も。」
聖也も、そして、言葉は出さないけどルカも、委員長の目の前でコクコクと頷いている。
「いや、お前らは見学続けろよ。班から1人ずつぐらい抜けても問題ないだろうから、ここは別班の俺にまかせなさいって。」
ヒヒヒと笑いながら太朗が言った。
「そうね。班の人数が極端に減るのは良くないわね。田口君、鈴木君お願いするわ。あとは見学を続けましょう。」
委員長の鶴の一声で、人員が決まる。ぶうぶう文句言う者も、たとえばルカとか聖也とか、がいたが、そこは淳平もやってきて、見学コースへと追い立てていく。
そんな様子を見る僕の頭をグイグイっと撫でるように動かすと、太朗は、「行くで!」と関西弁で言い、ニカッと笑った。
初めての学校行事、という奴だ。
なんでも有名な和菓子屋に見学に行くとか。
家内工業がでかくなったプチ工場で和菓子が作られる様子をガラス越しに見学。
そして、和菓子作り体験、とかで、練り切りとかいう方法の菓子を作って食べる、というのが一連の流れらしい。
先週のうちに6人1組のグループを作られている。
僕のグループは男女比同じの3人ずつ。
転校生といっても、2年の最初から組み込まれている僕を含めて出席番号でグループ分け。幸い、というか当然、というか、男は聖也とルカが同じだった。そもそも、オリエンテーリングの部屋分けが出席番号順だったようだから、被って当然なわけだ。・・・・鈴木太朗、田口飛鳥、田嶋聖也、辻野瑠珂・・・こういう並びってわけ。
女性陣は、一人は委員長。後はまだほとんど話したこともない子だった。
聖也に耳打ちされたところによれば、めがねをかけたお下げの子が斉藤奈緒、背の低いおかっぱ頭の子が中尾紫暮だそうだ。当然、手にしているデータで彼女たちのことを頭に入れてきたけれど・・・
二人とも、というか委員長を含めて、霊能者の家系ではない、というのは確かだ。そもそもこのクラスでは関係者は二人だけ、のはずだった。そこに太朗みたいなのも現れるし、絵本のこともある。単純に手持ちのデータだけで判断するのもどうか、というのが目下の心配ではある。
別にどんな出自だろうと、深く関わり合うつもりはないけど、そう改めて思い直し、僕は、黙って彼らと和菓子が大きな機械で練られる様子をぼんやりと、眺めていた。
「失礼。」
ぼうっとグルグル回る機械を眺めていると、後ろからおだやかな声がかけられて、ビクッとしてしまった。
慌てて、振り返る。
「委員長さんのグループでしょうか。」
その男は、委員長に対して声をかけていたようだ。
自意識過剰だな、と、一瞬緊張してしまった自分に苦笑する。
「浪速さん、ですよね。」
「ああ、麻朝さんの!ご無沙汰してます。」
麻朝?
僕は、その名を聞いて少し警戒度を強めた。
彼女は、2人のうちの1人。もう一人と比べたら問題ないとはいえ、このタイミングで彼女の関係者が?
「いつも娘がお世話になっています。」
「いえ、こちらこそ、今日はありがとうございます。」
なんだ?
「みんな、この方、生島麻朝さんのお父さん。ここの会社の親会社の社長さんでもあるんよ。」
そういや、いくつかの食品関係のオーナーだと言ってたっけ?
「こんにちは。委員長さんのグループの方ですね、お名前をうかがっても?」
ニコニコと話してくるが、それがかえって胡散臭い。考えてみたらあの幸楽の親戚筋だったか。
そう考えていると、みんなが次々に名乗って挨拶していく。さすがに無視、ってわけにもいかないか。
「田口です。」
僕はぼそっと言った。
「ハハハ、なんだよ、それ。ハハハ。」
なんか笑いながら、聖也がバンバン背中を叩いてくる。なんだよ、痛いなぁ。
「そうだよ飛鳥ちゃん。すっごい他人行儀ぃ!飛鳥ちゃん、生島さんと親戚なんでしょ。もう、笑っちゃう。」
ルカもそう言って笑うけど・・・
あ、そうか。
確かそんな設定だったっけ・・・
生島麻朝と二人で喫茶店に行ったことがバレて、面倒だから親戚ということにしたんだった。
「ハハハ、飛鳥君久しぶり。大きくなったねぇ。麻朝に聞いてるよ。同じクラスなんだって?」
チッ。ちゃんと僕のことを認識済みか。ていうか、何が大きくなったねぇ、だ。あんたが産まれる前から、こっちはとっくに成長が止まってるよ。
「あ、私の日本語は難しいかな?英語がいい?」
僕の設定も認識済み、ね。で、なんで接触してきたんだ?
「あ、大丈夫。日本語で大丈夫です。」
「そう。あ、そうだ。ここの工場の奥なんだけどね、昔ながらの庭園があってね。良かったら、見ていくかい?」
「庭園、ですか?」
「昔は井戸水で作っていたからね。今は衛生法だなんだで、使えなくなったけど、その井戸を中心にちょっとした日本庭園を造っているんだ。旧工場跡地、ともいうんだけどね。時間があれば見ていくといい。門を開けておくよ。他の子たちにも、委員長さん、伝えてくれるかい。」
「はい、よろこんで!ありがとうございます!」
気がつくと、クラスの他の子や、担任である淳平も、こちらの様子をうかがっていた。何人かは麻朝に何か言っている。
どうやらも麻朝も、その庭園を知らない、ということをしゃべっているようだ。そもそも、親の会社の子会社、という扱い。麻朝が知るのもおかしな話か。
淳平の視線を感じて僕は頷いた。
わざわざ、生島家当主が姿を現して、何もない、はずがない。
庭園に何かあるのか、それとも別のことか。
そんな風に考えていたら、少し離れた所で、怒鳴るような声が聞こえた。
そして、その辺りからパタパタと走り去る複数の足音。
「しょうもないやつ。」
吐き捨てるように聖也が言った。
「何?」
「養老だよ。なんか知らんけど、途中抜けしていったみたいだな。」
ああ、そういえば、さっきの怒鳴り声って養老千暮か。
「まったく、生徒会役員のくせに何やってるんだろうねぇ。ちょっと見てくるわ。」
委員長が呆れたように言って、追いかけようとした。
「あ、ちょっと待って!」
思わず僕は呼び止めた。
何をする気か知らないけど、養老というのはちょっとばかりややこしい。
能力者かどうかもちゃんと調べなかった、そのことに、少しばかり後悔する。
僕はチラッと再び淳平を見た。
追いかけろ、と言うのか、顎で養老の去った方をしゃくり上げている。
ハァ。
なにがあるのか知らないけど、何か起こされるのも、起こるのも、面倒だ。
「僕が行くよ。」
「田口君が?あんまり仲良くないでしょ?いいわよ。委員長の仕事だし。」
「いや、別に大丈夫だから。それより委員長はみんなをまとめる必要あるでしょ?」
「そうだけど。でも・・・」
「あ、委員長。俺が飛鳥に付き添うから!」
逡巡する委員長に、後ろの方から声がかかる。
太朗だ。
「だったら、俺も。」
聖也も、そして、言葉は出さないけどルカも、委員長の目の前でコクコクと頷いている。
「いや、お前らは見学続けろよ。班から1人ずつぐらい抜けても問題ないだろうから、ここは別班の俺にまかせなさいって。」
ヒヒヒと笑いながら太朗が言った。
「そうね。班の人数が極端に減るのは良くないわね。田口君、鈴木君お願いするわ。あとは見学を続けましょう。」
委員長の鶴の一声で、人員が決まる。ぶうぶう文句言う者も、たとえばルカとか聖也とか、がいたが、そこは淳平もやってきて、見学コースへと追い立てていく。
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