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学園編 § 学校生活編

第66話 次長家

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 大樹・辰秀・辰也と3代の人間が僕を迎えてくれた。

 「先輩が来てくれるなんて、初めてじゃないか?」
 辰也がうれしそうに僕の肩を抱きながら、ソファへ座らせてくる。
 「いや、お前は呼んでないし。」
 「こんなじじい捕まえてお前、なんて言ったら、蓮華姉さんに小突かれるぞ。ハハハ。」
 「じいちゃん。その前に、じいちゃんがその顔で飛鳥に先輩って言う方が違和感だから。」
 「じいちゃんは悪くない。先輩が見た目変わらんのが悪いだけだ。」
 「お父さん、話が進みません。飛鳥も、飛鳥だ。蓮華さんに口の利き方、言われてるんだろ。」
 ・・・
 やっぱりカオスじゃないか。よくコレで生活できてるなこいつら。
 「もう。飛鳥がいなかったら、これでもちゃんとした父と祖父、なんだからね。」
 別に何も口に出してないのに、これだ。
 ノリでもないのに、こいつらは揃いも揃って、僕の考えてることを分かっているようでやりにくい。
 「飛鳥は昔っからすぐに顔に出るからな。」
 「そこが先輩のいいとこじゃないか。」
 「原因は、じいちゃんのその態度じゃない?」
 「大樹の言うとおり。腹芸が出来ないから、フォローに苦労する。そういう教育はお父さんがやっておくべきでした。」
 「ハッハッハッ。お前は飛鳥のナイトだ!って、よく大人に突っかかってたなぁ。」
 「今は、僕が父さんからその役目を引き継いでますけどね。」
 「そうかそうか。ハハハ。精進しろよ。ハハハハ。」

 いつまで、この男たちを見てれば良いんだろう。
 僕は後悔しつつ、出されたお茶を飲む。

 「ハハハ、飽きたみたいだな、先輩。本題に入るか?」
 「はぁ。だからさ、初めっからそう言ってるじゃない。ていうか、秀男はいらないんだけど。」
 「いいから。で、なんだい?」
 僕は、再びため息をつきつつ、サインの写真を展開した。

 「あ、僕の本だ!」
 「俺が寄贈した分もあるか。」
 普通に話す二人。
 いやいや、そういうことじゃないだろう。
 「これ、AAOで一般用発禁だって聞いたけど。」
 「そうだな。」
 「いや、じゃあなんで小学校にあるのさ。」
 「寄贈したからだろ。」
 「・・・・そういう話じゃなくて。」
 「せんぱ・・・いや飛鳥、僕が話そう。」
 秀男がまじめな顔をして言った。
 そういや、先輩、なんて言ってくれるのは、僕の長い生涯でこいつだけだけだ。中1でこの世界にぶっ込まれたお陰で、後輩なんてのは出来たためしがない。
 だけど、それも、ふざけているとき限定だったな。考えてみたら、最初の寄贈って、実質こいつがやってるのか。だったら、秀男に聞いた方が早い?

 「AAOとしては、認めてないのは出版だけだ。買った本の処分まで規制はしていない。どこかの図書館に寄贈することに文句を言われる筋合いはない。」
 はぁ?それって詭弁じゃない?
 「蘭子先輩がそれを書くときに僕としては是非成功して欲しいと協力したんだ。あの頃の飛鳥は本当に見てられなかった。仲の良い友達が壊れていくのを僕は蘭子先輩と、なんとか助けられないかって、いろいろ考えたよ。事実を公表するべきだ、なんで世間一般の人間はこんなへらへらと生きてるんだ?まだ若かった僕らはそう憤り、とにかく公表を、と、焦っていたときに、とある人から物語の形でこっそり公表したらどうか、とアドバイスを受けたんだ。」
 「とある人?」
 「サンジェルマン伯爵。」
 「え?サンジェルマン?」
 「ああ見えて、あの人は飛鳥のことを相当好きだよ。ともあれ、彼が物語りとして発表することを提案してくれたんだ。特に子供向けにすればいい、ということも含めてね。」
 「なんで?」
 「発禁対策。そして彼は自分の体験から、次代を担う者達に、飛鳥たちを守らせるべきだ、と。子供のうちからそういう気風を植え付ければ強いよ、と言われたんだ。」
 不死者からの提案?支部長だぞ、フランスの?むしろ発禁した方じゃないか?
 「不死者を害するのは不死者になれなかった、いや、不死者になりたい人間だ、違うかい?」
 不思議そうにする僕に、辰秀が言った。
 「僕としては、どうしても不死者を食い物にするAAOが気に入らなくて、外から不死者を守ろうと公務員になったんだけどね。外に出て分かる、なんとまぁ、古い家系ってやつの強いこと。」
 「それを聞いて、僕はやっぱり側で飛鳥を守ろうって、AAOに入ったんだ。」

 本人に聞け、と言っていた淳平の話か。
 無駄に影響を与えてしまってるのか、僕は?

 「発禁なんて言っても、AAOの方針ってだけで、実際に法的な力はない。まぁ、逆らって出版するような出版社や編集者が、その後どうなるかは保証しないってだけだからね。」
 秀男が、そんな風に言った。
 下手したら本当に肉体が、最低でも社会的に、抹殺される、ってか?
 AAOは世界で唯一、化け物と戦える団体だ。
 そのための道具、人材をすべて持っているといっていい。
 一般人には知られていなくても、治安を維持する者は知っているだろう。この世界が化け物に満ちあふれていることを。
 もしAAOの方針に逆らう者がいたら?
 彼らの住む地域の治安維持をAAOが拒否するとささやいたら?
 まぁ、そういうことだ。
 ここに、AAOの外部への発禁という効果が現実味を帯びる。

 しかし、AAO内ではむしろ後継がザ・チャイルドと共に立ち、この世界を守護する強い意志を育む教材として、扱われているようだった。
 そのために売られている。
 そして、その教材を以下に使うかまでは指定されていない。
 ここに抜け道があったということか。
 というよりも抜け道をあらかじめ作っておいた。
 それでなければサンジェルマンが関わっていることが、理解出来ない。

 「飛鳥も分かると思うけど、これはフィクションとして書かれている。けど、これがフィクションじゃないと知らされて自分の精進の糧にする子も多い。一応は霊能者の家系の者にはその機会も訪れるが、実際は霊能者でない家系でも、それなりに国の運営に関わる以上、あやかしについての知識は必須だ。実際、うちはAAOと関わりはあるが霊能者の家系というわけじゃない。むしろ霊能者とは関わらず、国の運営に関わる者の方が多いんだ。いざという時に心の片隅にでも、この事件を知っているのと知らないのとでは、特に飛鳥みたいな人間への扱いがまったく変わるだろう。」
 辰秀がそんな風に言った。
 「辰秀の今の話が、口説き文句ってことだけどな。あらかじめ、AAO黙認という形で、いくつかの小学校にばらまいているのさ。蘭子先輩からは、10冊ずつもらったからね。うちには、2冊ずつ残して、名門の子息が通う小学校にばらまいている。」
 ハハハ、と辰也は笑った。

 役に立つかどうか分からないほど小さな話だ。
 だけど、この竹内家、というのは3代にもわたって、僕らを守ろうとこつこつやってきたってことなんだろう。いや次長も入れて4代か。きっと次長は秀男がやってることを気付いていて黙ってたんだろう。絵本作成にしても、あちこちの小学校にばらまいたことも、黙って見ていたんだろう。
 そして太朗一家みたいな協力者が産まれてくる。
 なんか僕が気付かないまま半世紀もずっと行われてきた伝承。

 「なぁ、飛鳥。AAOってのはさ、本当はザ・チャイルドや他の霊能者を守るための組織のはずなんだ。だけど、そんなことは知らんと、飛鳥たちを道具みたいにして、世界にマウントをとろうとする困ったヤツらが多すぎる。僕は中から親父は外からそんなAAOを変えようと思っている。だから、飛鳥もさ、もうちょっと期待して頼って、一緒に笑って欲しいって僕は思ってる。時間はかかると思う。僕だってペーペーだしさ。でも絶対に飛鳥を守るからさ、人類を見捨てないで欲しいんだ。」
 僕は帰りの新幹線で、大樹のそんな言葉を思い返していた。 
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