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6聖女と勇者の結婚

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「でも、案の定読みは的中。俺の中で魔の力が定着して生きてるよ。勇者の時と同じくらいに力を感じてるんだ、おそらく半永久的に生きるだろうな」

 それはもはや、勇者の力を超えているのでは?

「一緒に半永久的に生きれば、百歳差なんてそのうち誤差になると思う」
「い、いいい、いやいやいや! 何言ってるの? 魔王の核を食べた? しかもルイの身体の中に力があるって? それ、魔王になったってことじゃないの!?」

 ようやく止まった思考が戻ってきて、シャーリーが叫んだ。

「まあ、そんな感じになるな」

 信じられなくて、ぺたぺたルイの身体に触れる。
 シャーリーは、全くその力を感じ取れなかった。魔の力には敏感な方なのに……。
 これのせいかと、首の鎖に触れた。

「そもそも、なによこれは!」
「うん? これね、シャーリーの聖の力を無理矢理吸い尽くす鎖。これで聖の力を空にして、空になった器に俺の魔の力を入れれば、シャーリーも俺と一緒に半永久的に生きられる身体になれるんだ。普通の人間だと、器が壊れちゃうけど、聖女は人の理から外れているから、もともと肉体は強靭なんだ。だから、魔の力を入れても大丈夫」
「大丈夫じゃないんじゃないかな!?」

 もはやそれは聖女とは言わないのでは!?

「俺と一緒に生きるのはいや?」

 悲しそうにルイの瞳が揺らぐ。
 それを見て、シャーリーがぐっと詰まった。

 たった五年とはいえ育てた子供が泣きそうになっていると、シャーリーの心が痛む。

 いや、しかし……。

 ここで本来ならばシャーリーがルイを討たねばならない。
 シャーリーは聖女だ。
 魔を滅ぼす者なのだ。

 魔の存在を取り込んだルイは、すでに人ではなく、人に害を及ぼす者に近い。

 いや、でも……。

 こんな事例は初めてで、本当にルイが人に害を及ぼすか分からない。
 人に害を及ぼす者でないのなら、別にいいのではないか……。


 シャーリーの気持ちが揺れ動く。

「ねえ、シャーリー。俺は別に世界の敵になりたくないけど、もしシャーリーが俺の事受け入れてくれなかったら、世界を滅ぼしちゃうよ」
「は? 勇者が何魔王みたいな事言ってるのよ!」
「だからさ、シャーリーが側でずっと見張っててよ。そうすれば、なんの問題もないし」

 色々問題だらけだ。
 本来なら、即座に神殿に報告するところだが、誰が信じるものか。
 世界を救った勇者が、逆に世界を滅ぼす魔王になったなんて。

 それに、もし神々がルイを危険と判断したらきっと勇者が現れる。
 それまで、側にいて見張るのが一番いいのも事実。

 シャーリーは覚悟を決めた。

「分かった……。とりあえずは、側にいると誓うわ」
「うん。じゃあ、食べるのはシャーリーが全部俺の物になった時にするよ」

 だから、食べるな。
 そもそも、食べるって何さ……。

 こうして、神殿が知らぬ魔王が生まれた。



 その後、シャーリーとルイは世界を回った。
 時間が止まっている二人は、同じ場所に居続けられない。
 シャーリーは初めて神殿の外に出て、自由を謳歌した。

 その間、噂では神殿が大変な事になっていた。
 統率していたシャーリーがいなくなった結果、聖女の序列争いが起き、仕事が回らなくなり、枢機卿の腐敗も進んだ。
 なんだかんだで、上層部は全てシャーリーが見張っていたのだから、仕方がない。

 そして、半世紀がたち、魔王が生まれるため勇者候補が現れた。
 なんとか聖剣に選ばれた勇者を育てることができたが、神殿の権威は地に落ちるばかり。

 聖女たちは仕事をせず、魔は人々を蝕んでいたからだ。
 そもそも、仕事のやり方を知らないのだから無理はない。シャーリーがいなくなった頃に残っていた聖女たちは、当然仕事をしたがらず、若手の聖女に押し付ける。
 そして、若手の聖女はきつい仕事に早々にリタイヤ。

 こんなことが繰り返し行われていたら、育つものも育たない。

 さらに半世紀が過ぎて、魔王が生まれた。
 しかし、勇者は一向に現れず、神殿は人々から憎しみの対象になった。

 シャーリーは聖女だった。
 その力が無くなっても、根付いた魂はいつまでも神殿に属し人々のために力を奮う。

 勇者が全く育つ気配を見せず、我慢できずにルイと共に魔王を討った。
 そして、その功績をもち民衆たちの支持の元、神殿の腐敗を一掃。

 人々から聖王と大聖女として崇められ、二人は神殿を再建した。
 そして、人々が神殿への信仰を取り戻すまでおよそ二百年、ルイと世界を一緒に回った百年を足して三百年以上の時が経った。



「大聖女様、聖王様とはいつ頃ご結婚の予定なんですか?」
「ぶふっ!」

 可愛らしい弟子の聖女に問いかけられ、シャーリーはお茶を噴出した。

「な、なな、なに言ってるのよ!」
「ふふふ、慌ててらしてお可愛らしい。お二人はずっと仲睦ましい間柄。もういい加減、聖王様のお気持ちにこたえてあげてもよろしいのでは?」

 ぶーっと唇を尖らせたシャーリーは、そっぽを向いた。

 いつの頃から、シャーリーのルイへ向ける感情は、母親の物とは違ってきていた。
 それを受け入れるには、相当な時間がかかった。
 百歳差。
 だけど、出会ってすでに三百年経過。

 ルイの言った通りだ。

 三百年という月日を重ねて、シャーリーは百歳差という言葉がどうでも良くなってきていた。
 なにせ、この先も永遠に近い生を生きるのだから。

 そもそも、はじめはルイの気持ちも疑った。
 ただの刷り込みではないかと。
 綺麗でかわいい女性を見れば、気持ちが変わるのではないかと。

 しかし、そんな事もなく。

 いつだってシャーリーを大事にしてくれていた。

 さすがに、そこまでいけばルイを疑うのは失礼で。
 ため息が零れた。

 今更どうしろと?
 なんて答えればいいのだろう。

 などと考えていたら、ある日いきなりルイに取っつかまり、あれよあれよという間に、結婚式を挙げることになった。
 シャーリーの気持ちの変化など、とっくの昔にルイは気づいており、いい加減我慢がならなくなったのだ。

 結婚式前夜、二人で話をした。

「シャーリー、俺はずっとシャーリーだけしか見ていなかったよ。愛してる、この先もずっとね」

 ぎゅうっと抱きしめてくるルイに、シャーリーはずっと待たせていたことを謝った。

「うん、ごめん。実は、ちょっとルイの気持ちを疑ってたけど、今は信じてるよ。わたしも、ずっとルイだけだと思う」
「……思うって何?」

 引っかかりを覚えた、ルイに身体で散々教え込まされたのは、その直後の事だった。


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