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3勇者の成長

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 その五年後、勇者候補のルイはシャーリーの餌付けの結果、すくすくと育った。
 それはもう、驚くべき変化。

 五年の間に身長が百八十ほどに伸び、声変わりをし、顔つきも可愛らしい顔つきからびっくりするぐらいのイケメンに育った。
 ボサボサだった藁のような髪は、栄養状態が改善し素晴らしい輝きを放つ金髪になり、濁った碧眼は、時と共に明るい碧眼に生まれ変わった。
 子供っぽい顔つきは、すっきりと青年になり、蛹が蝶になったように、誰が見ても美貌の青年だ。

 子供の成長はなんて早いんだろうと、しみじみするところが、すでにおばさんだ。
 まあ、実際齢百十九のババアだが。

「ルイ、いい? 力に振り回されては駄目よ。集中して――……」

 勇者候補の持つ力と聖女の力は同じようなものだ。
 少し違うのが、聖女の力が魔を払うものだとしたら、勇者候補の力は魔を切る力。
 しかし、聖女の方が力の使い方には慣れている。

 ゆえに、初歩的な使い方を教えるのが主な仕事になるのだ。
 ただし、ルイの場合は本当に一からだった。

 まずは、その痩せすぎた身体を太らせるところから。体力をつけさせ、基礎を叩き込む。
 聖剣を持つために、剣の扱いを教え、実践も行う。死なないために。
 文字すら知らなかったルイに読み書き計算も教えたが、彼はなかなか優秀な生徒だった。

 あっという間に飲み込んでいき、今時の聖女とは違い教えがいがあり、余計なことまで色々教えてしまった。

「シャーリー、この間絡んできたやつら、駄目だったみたいだ」

 基礎練習をしていたルイがおもむろに顔をあげ、シャーリーに言った。

 二人の関係は師匠と弟子のような関係であり、母と子のようでもあり、姉と弟のようでもあった。
 当初、シャーリーにさえ心を閉ざしていたルイは、ゆっくりとだが次第にシャーリーを信頼するようになり、お互い名前で呼び合う関係になったのは、出会って一年たったころ。

「あの聖女、シャーリーを睨んでる。序列はシャーリーの方が高いのに礼儀知らずだな」

 今ではすっかりシャーリーの忠犬。
 可愛い子犬だ。

「儀式に失敗した勇者候補は一体何人目かしらね?」
「俺以外全員。何度でも挑戦できるけど、あいつは三度目の挑戦だったな。才能ないんじゃないか?」
「ルイ、口悪くなったわね」
「シャーリーのおかげでね」

 可愛い忠犬は、ちょっと生意気な忠犬だった。

「俺はいつ挑戦できるの?」

 勇者候補から勇者に昇格できるのは一人きり。
 聖剣に認められたものだけ。

 どうやったら認められるのか、それを知るのも神のみだ。
 完全な実力というのが大筋なので、みな実力を高めてから選定の間に入っていく。

 一度目で選ばれなくても、二度目三度目で選ばれた前例があるので、何度でも選定の間に入ることができる。

 ただしこの五年、ルイは一度も入ったことがない。
 そもそも、彼は子供だったし、まだまだ身体は発展途上だった。

「もう十九だからね、そろそろ一度やってみるのもいいかも」

 実は出会った当初十歳程度だと思っていたルイは、十四歳だった。しっかりと調べさせた。
 ルイを連れて来た神官に。
 泣きそうになりながら、がんばってくれたので、まああの時の事は不問にした。

 シャーリーとしてはまだまだだと思っているが、今の勇者候補の中では一番の実力を持っていると自負している。

 勇者候補同士仲が良い者もいれば、仲が悪い者もいる。
 シャーリーとルイは、誰とも親しくない。
 むしろ、悪意を持たれているため、時々絡まれるのだ。

 主に、シャーリーのせいではあるが、忠犬ルイはシャーリーに絡んでくる勇者候補や聖女を嫌っているので、いつも堂々とケンカを買い、打ちのめしどちらが上か見せつけていた。

「十日後、選定の間に行きましょうか」

 魔王誕生は事前に分かること。
 それは勇者候補が生まれるから。

 勇者候補が生まれた後に魔王が誕生するが、その時期は分かっていない。しかし、次第に世界に満ちる闇が深くなってきている。

 この感じはそろそろだとシャーリーは思う。

 ほかの聖女はきっと気づいていないに違いない。実力がないせいで、闇を感じ取る力が不足しているから。

「必ず、選ばれるよ」
「別に選ばれなくてもいいけどね。勇者が決まれば、他の候補者は自由になるし。もし選ばれなかったら、どうする? わたしの護衛神官でもする?」
「する」

 その即答にちょっとだけうれしかった。

 子供の頃から五年育てたルイは、シャーリーの目から見ても立派に育った。親ばかかもしれないが、勇者に選ばれる、そんな気さえしている。

 しかし、心は反対に選ばれなければいいのにとも思う。
 誰が可愛いわが子を危地に赴かせたいと思うのか。

 シャーリーは当然子供を産んだこともないし、育てたこともない。
 唯一五年かけてルイを育てたが、たった五年でこれほどの愛情が芽生えた。
 そう思うと、世の母親の気持ちも少し分かる。
 我が子が可愛い、我が子が天才……なるほど、親の欲目というのは、確かに存在するのだなと。

「無理しなくてもいいから。選定の間にはルイが一人しか入れないから、危なくなったら逃げなさい。命あっての物種よ」
「逃げる勇気も必要、分かってるよ。無理はしない。大体、選定の間で死んだ勇者候補の話なんて聞いたことないよ」

 それもそうだが、心配になるのが親というもの。
 剣を再び振るい出したルイの横で、その姿をしっかりと瞳に収めた。

 予感は的中し、十日後――。

 ルイは聖剣に選ばれて勇者となった。


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