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3 なかなか嫁げない私だったけれど?

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「えぇ、わかっておりますわ。お嫁に行くのが楽しみだわ」

 両親もサーシャも驚きの表情を浮かべる。なぜ、それほど驚くの?

 だってフィリップ・アラバスター侯爵閣下の領地は海に面しているのよ。毎日美しい海の風景を楽しみ、新鮮な魚介類も食べられるなんて素敵! それに、私は男性に容姿の良さは求めていない。性格が最悪なのも困るけれど、なるべく顔を合わせないようにすればなんとかなる。魔力量マイナス3000点という私を嫁にしてくださる奇特な方にお嫁に行くのが楽しみだった。

 けれどそのまま1年も放置されアラバスター侯爵閣下からの手紙もなにも届かない。会うことも話をすることさえも叶わないまま、時間だけが過ぎていった。

「アラバスター侯爵閣下はとてもお忙しいのですって。ですから、もうしばらくはこのままです」
 それからさらに半年が過ぎた。ナソーラ侯爵家のサロンでお母様は私にそう告げる。

「可哀想なお姉様。アラバスター侯爵はナソーラ侯爵家に挨拶にも来ないわ。少しも愛されていませんね?」

「大丈夫よ。愛がない夫婦はたくさんいるわ」

 サーシャは本当にまだ子供だわ。貴族の結婚に愛があることは珍しい。子供は産まなくてはならないけれど、それだって必須ではない。養子をとることだって充分可能なのだから。

 私は気分転換にナソーラ侯爵家の庭園を散歩した。ここ2年ほどで、見違えるようになったそこは素晴らしかった。薔薇のツタが優雅にはりめぐされ、ツツジやアジサイが庭園の一角を彩る。その奥に広がる池には水鳥達が優雅に泳いでいた。

 庭園を彩る彫刻や噴水は繊細な細工が施され、まるで美の共演だった。かなり老朽化していたガゼボも今では豪華なソファがいくつも並び、ちょっとした別邸のようにも見えるほど豪華だ。

 ナソーラ侯爵家は由緒ある名門貴族だけれど、領地経営や事業への投資は得意ではない。お父様もお母様も魔力はあっても、それを生かしてお金を生み出す事は苦手だった。だから、正直あまりお金はないはずだったのに、このところの贅沢さも不思議だった。

「いったいいくらかかったのかしら? この庭園と屋敷の修繕に?」
 思わず心の声が漏れて、小さくつぶやく。

「ざっと3億ダラ(1ダラ=1円)だ」

 多くの騎士達を従えた黒髪で黒曜石の瞳が美しい男性がいきなり目の前にあらわれた。

「な、なにもない所から湧いてきたあなたはどなたですか?」

「わたしはあなたの夫だ。籍をいれたというのに、いっこうにこちらに来ようとしないのはなぜだ? お金だけ散々援助をさせておいて、自分は嫁いでこないとはどういう了見なのだ?」

 かなり怒っていて、私の腕を強く掴んでそのまま抱きかかえる。その瞬間に私は気づく。この方の魔力は膨大すぎて常に魔力を放っていなければ身体が持たないのだ。彼は私を抱いた途端に穏やかな表情になっていくのだった。




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※ヒロインのソフィア・ナソーラ侯爵令嬢のイラストは「小説登場人物の為のイラストギャラリー」のこの小説編の1に掲載してあります。
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