上 下
10 / 13

狡猾な兄、チャールズ

しおりを挟む
 ワイアットの屋敷に王家の馬車が止った。使用人達は皆、何事かと、その馬車を遠巻きに眺めていた。

 私に仕えていたマヤとケイラが馬車から降り立ち、歩いてくる。そして、恭しくお辞儀をして跪いた。

「アレクシス王女様。王が静養からお元気になって戻られました。至急、王宮にお戻りください」

 私の、かつての侍女達は嬉し涙を浮かべながらそう言ったのだった。

 私が使用人の服を着ていたので、マヤは憤慨した。

「人でなしのワイアット様の仕打ちですね! 高貴な姫様に使用人の服を着せるとは! アレクシス王女様、もう安心です。王様も王妃様もお戻りになられました。さぁ、荷物をまとめてください。こんな所とはおさらばです」

 私は、あのコルトン王から頂いた宝石だけをトランクに詰めた。馬車に乗ろうとするとアデリーが泣きながら私の手を握ってきた。

「王女様に神のお恵みがありますように。どこにいようと、貴女様の幸せを祈っております」

 私は、頷いて馬車に乗った。ワイアットのことはお城に戻っても様子を見に行こうと固く心に誓いながら・・・・・・




*:.。 。.:*・゚✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*



「王女よ。よく戻ったな。静養先ではお前が戻ったことを知らされていなかったのだ。チャールズよ! なぜ、妹が帰国したことを私に知らせなかったのだ?」


 お父様はお兄のチャールズを責めていた。お母様も、同じようにチャールズを咎めている。

「あぁ、父上達に心配をかけないようにとの配慮からです」

 チャールズは私を睨みながら答えている。私は、兄からそっと目を逸らせた。

「なぜ、ワイアットの屋敷にいたの?」

 お母様は私に問いかけた。お父様達は何も知らないんだ! 私は・・・・・・なんて答えたらいいのだろう? 兄はさっきから鋭い眼差しで脅しているようにさえ思えた。

「アレクシスは、自分からワイアットの所に押しかけたのですよ。王女の身分を捨ててあいつの愛人になりたいというから、渋々承諾してやったんですよ。ワイアットは正妻は一生もたないと言うのでアレクシスは愛人になると言い出したのです。全く、困った妹だ。臣下の愛人になる王女など王族から追放するべきでしょう? だから、この妹はもう王女ではありません。父上達が甘やかすからこんな出来損ないになったのでしょう」

 あまりの嘘に、私は言葉が出てこなかった。お父様は私に厳しい眼差しを向けた。

「アレクシス。お前がワイアットを好きで妻になりたかったのは知っている。以前の婚約を破棄させ、ドミニ王国に嫁がせたのは可哀想なことをしたと思っているよ。けれど、愛人になりに行くとは!」


「お父様! 違います! お兄様が私にワイアットの元に行けとおっしゃったんです!」


「はっ! 何の為に? 国の為に嫁いだ妹が死を免れて帰国したのに、それを追い出す兄がどこにいる? 何の為にそのようなことを私がする?」

 兄のチャールズは、私に薄ら笑いを浮かべていた。

 私の侍女のマヤとケイラがお父様に申し出た。

「チャールズ様がアレクシス王女様に出ていくようにおっしゃったのです。アレクシス王女様が殉死しなかったことを責めておいででした。アレクシス王女様はコルトン王様に娘のようにかわいがられておりました。ですから、命が亡くなる前に逃がしてくださったのです。それを、チャールズ様が”役立たずの出戻り王女”と呼んで冷遇されました」


 お父様は、今度はお兄様に厳しい眼差しを向けた。


「黙れ! こいつらはアレクシス王女の専属侍女達です。アレクシス王女の良いように嘘を言っているんです。この侍女達は厳重に処罰しなければ・・・・・・その嘘つきな舌は切り取ってしまえ!」

 兄のチャールズの言葉に、私はキレた。

「お兄様ほど、嘘つきで汚くて残酷な人はいませんわ! 私の侍女達には指一本触れさせないわ!」

「ふん! お前は第3王女だろ! 私は嫡男だ。誰にそんな口をきいていると思っているのだ? 誰もお前のことを守る奴はいないんだ! 父上も母上も、嫡男の私の言うことが信じられないのですか?」


 お兄様がまくしたてるなか、背の高い騎士団長の服を着たワイアットが静かに入って来て、こう言ったのだった。


「アレクシス王女様も守る者ならここにいますよ。この私がどんな者からも守ってみせる」

 




しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の夜の余韻~婚約者を奪った妹の高笑いを聞いて姉は旅に出る~

岡暁舟
恋愛
第一王子アンカロンは婚約者である公爵令嬢アンナの妹アリシアを陰で溺愛していた。そして、そのことに気が付いたアンナは二人の関係を糾弾した。 「ばれてしまっては仕方がないですわね?????」 開き直るアリシアの姿を見て、アンナはこれ以上、自分には何もできないことを悟った。そして……何か目的を見つけたアンナはそのまま旅に出るのだった……。

愛する人のためにできること。

恋愛
彼があの娘を愛するというのなら、私は彼の幸せのために手を尽くしましょう。 それが、私の、生きる意味。

【完結】優雅に踊ってくださいまし

きつね
恋愛
とある国のとある夜会で起きた事件。 この国の王子ジルベルトは、大切な夜会で長年の婚約者クリスティーナに婚約の破棄を叫んだ。傍らに愛らしい少女シエナを置いて…。 完璧令嬢として多くの子息と令嬢に慕われてきたクリスティーナ。周囲はクリスティーナが泣き崩れるのでは無いかと心配した。 が、そんな心配はどこ吹く風。クリスティーナは淑女の仮面を脱ぎ捨て、全力の反撃をする事にした。 -ーさぁ、わたくしを楽しませて下さいな。 #よくある婚約破棄のよくある話。ただし御令嬢はめっちゃ喋ります。言いたい放題です。1話目はほぼ説明回。 #鬱展開が無いため、過激さはありません。 #ひたすら主人公(と周囲)が楽しみながら仕返しするお話です。きっつーいのをお求めの方には合わないかも知れません。

あなたを愛するつもりはない、と言われたので自由にしたら旦那様が嬉しそうです

あなはにす
恋愛
「あなたを愛するつもりはない」 伯爵令嬢のセリアは、結婚適齢期。家族から、縁談を次から次へと用意されるが、家族のメガネに合わず家族が破談にするような日々を送っている。そんな中で、ずっと続けているピアノ教室で、かつて慕ってくれていたノウェに出会う。ノウェはセリアの変化を感じ取ると、何か考えたようなそぶりをして去っていき、次の日には親から公爵位のノウェから縁談が入ったと言われる。縁談はとんとん拍子で決まるがノウェには「あなたを愛するつもりはない」と言われる。自分が認められる手段であった結婚がうまくいかない中でセリアは自由に過ごすようになっていく。ノウェはそれを喜んでいるようで……?

(完)美貌の王に恋するお姫様(前7話)

青空一夏
恋愛
エステファニア王国のアイヤナ姫は、はじめて見る庭師に恋をした。 その彼と駆け落ちをしたのだが・・・・・・ハッピーエンドのお話。読むに従って「なるほどね」と思うような構成になっています。なので、タグは言えない秘密(´,,•ω•,,`)◝ 画像はpixabayのフリー画像です。

公爵令嬢は運命の相手を間違える

あおくん
恋愛
エリーナ公爵令嬢は、幼い頃に決められた婚約者であるアルベルト王子殿下と仲睦まじく過ごしていた。 だが、学園へ通うようになるとアルベルト王子に一人の令嬢が近づくようになる。 アルベルト王子を誑し込もうとする令嬢と、そんな令嬢を許すアルベルト王子にエリーナは自分の心が離れていくのを感じた。 だがエリーナは既に次期王妃の座が確約している状態。 今更婚約を解消することなど出来るはずもなく、そんなエリーナは女に現を抜かすアルベルト王子の代わりに帝王学を学び始める。 そんなエリーナの前に一人の男性が現れた。 そんな感じのお話です。

あなただけが私を信じてくれたから

樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。 一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。 しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。 処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。

呪いを受けたせいで婚約破棄された令息が好きな私は、呪いを解いて告白します

天宮有
恋愛
 伯爵令嬢の私キャシーは、夜会で友人の侯爵令息サダムが婚約破棄された場面を目撃する。  サダムの元婚約者クノレラは、サダムが何者かの呪いを受けたと説明をしていた。  顔に模様が浮き出たことを醜いと言い、呪いを受けた人とは婚約者でいたくないようだ。  サダムは魔法に秀でていて、同じ実力を持つ私と意気投合していた。  呪いを解けば何も問題はないのに、それだけで婚約破棄したクノレラが理解できない。  私はサダムの呪いを必ず解き、告白しようと決意していた。

処理中です...