上 下
9 / 13

ワイアットの意識が戻る /  王が静養から戻る 

しおりを挟む
 「大変です! ワイアット様が質屋で大けがをし、医者の元に運ばれたと知らせが入りました」

 執事が、私とアデリーが話をしているところに飛び込んできた。まさか、質屋に行って刺されるなんて! 私とアデリーは急いで病院に駆けつけた。

 病院の待合室には、保安官もいて質屋の店主を逮捕して拘留していると言った。 


「どえらい価値のある宝石を巡って、争ったようです。店主が宝石を手放したくなくて逆上し刺したようですな。事情はワイアットさんの意識があるうちに聞けましたが・・・・・・王女様、貴女はバカですか? このような国宝級の宝石を町の小さな質屋に持ち込むとは! こんなものは、王家ご用達の宝石商に買わせるべきものです。余計な犯罪をうむことになった」

 保安官は、私を睨み付けると宝石を手渡してくれた。『国宝級』の宝石は私の手の中に戻った。けれど、ワイアットの意識は戻らない。この人はなぜ、命を賭けてまで、この宝石を取り戻してくれたのだろう。剣の達人のはずなのに、丸腰で質屋に行き店主に刺されたワイアット。この人が死んだら、と思うと途端に身体が震えた。

 私はまだ、ワイアットを愛しているのかもしれない。・・・・・・まさか、違う・・・・・・私の為に刺されたワイアットに同情しているだけだ。

 私は、病院で付き添うことにした。アデリーと交代で彼の側にいて、目覚めるのを待っているのにどうして目覚めないの?

「危険な状態は脱していますが、目覚めないことにはなんとも言えませんな。生きる気力が必要なのかもしれません」

 生きる気力? 目覚めないのには、どんな理由があるというの? 私とワイアットは本来なら幸せな結婚をし子供だっていたかもしれない。私は裏切っていないと伝えることは生きる気力になるのだろうか?

 何日も目覚めない日が続き、私は彼の枕元に座り話し出した。

「私はね、お金なんかの為にドミニ王国に嫁いだのじゃないのよ。お父様の命令だったの。嫁がないと戦争になると言われたわ。ドミニ王国は大国で戦争になったらひとたまりもないわ。でも、本当のことを言ったら、貴方は私を守るために命を賭けるでしょう? だから、憎まれた方がいいと思った。大好きだったのよ、ワイアット。ドミニ王国にいても、ずっと貴方だけを思っていたわ」

 その言葉を言うずっと前からワイアットが実は意識を取り戻していたことを私は知らなかった。
そしてその翌日、私を迎えに王家の馬車が来たのだった。

「王女様。王が静養からお元気になって戻られました。至急、王宮にお戻りください」
 
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の夜の余韻~婚約者を奪った妹の高笑いを聞いて姉は旅に出る~

岡暁舟
恋愛
第一王子アンカロンは婚約者である公爵令嬢アンナの妹アリシアを陰で溺愛していた。そして、そのことに気が付いたアンナは二人の関係を糾弾した。 「ばれてしまっては仕方がないですわね?????」 開き直るアリシアの姿を見て、アンナはこれ以上、自分には何もできないことを悟った。そして……何か目的を見つけたアンナはそのまま旅に出るのだった……。

愛する人のためにできること。

恋愛
彼があの娘を愛するというのなら、私は彼の幸せのために手を尽くしましょう。 それが、私の、生きる意味。

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

あなたを愛するつもりはない、と言われたので自由にしたら旦那様が嬉しそうです

あなはにす
恋愛
「あなたを愛するつもりはない」 伯爵令嬢のセリアは、結婚適齢期。家族から、縁談を次から次へと用意されるが、家族のメガネに合わず家族が破談にするような日々を送っている。そんな中で、ずっと続けているピアノ教室で、かつて慕ってくれていたノウェに出会う。ノウェはセリアの変化を感じ取ると、何か考えたようなそぶりをして去っていき、次の日には親から公爵位のノウェから縁談が入ったと言われる。縁談はとんとん拍子で決まるがノウェには「あなたを愛するつもりはない」と言われる。自分が認められる手段であった結婚がうまくいかない中でセリアは自由に過ごすようになっていく。ノウェはそれを喜んでいるようで……?

(完)美貌の王に恋するお姫様(前7話)

青空一夏
恋愛
エステファニア王国のアイヤナ姫は、はじめて見る庭師に恋をした。 その彼と駆け落ちをしたのだが・・・・・・ハッピーエンドのお話。読むに従って「なるほどね」と思うような構成になっています。なので、タグは言えない秘密(´,,•ω•,,`)◝ 画像はpixabayのフリー画像です。

公爵令嬢は運命の相手を間違える

あおくん
恋愛
エリーナ公爵令嬢は、幼い頃に決められた婚約者であるアルベルト王子殿下と仲睦まじく過ごしていた。 だが、学園へ通うようになるとアルベルト王子に一人の令嬢が近づくようになる。 アルベルト王子を誑し込もうとする令嬢と、そんな令嬢を許すアルベルト王子にエリーナは自分の心が離れていくのを感じた。 だがエリーナは既に次期王妃の座が確約している状態。 今更婚約を解消することなど出来るはずもなく、そんなエリーナは女に現を抜かすアルベルト王子の代わりに帝王学を学び始める。 そんなエリーナの前に一人の男性が現れた。 そんな感じのお話です。

あなただけが私を信じてくれたから

樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。 一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。 しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。 処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。

呪いを受けたせいで婚約破棄された令息が好きな私は、呪いを解いて告白します

天宮有
恋愛
 伯爵令嬢の私キャシーは、夜会で友人の侯爵令息サダムが婚約破棄された場面を目撃する。  サダムの元婚約者クノレラは、サダムが何者かの呪いを受けたと説明をしていた。  顔に模様が浮き出たことを醜いと言い、呪いを受けた人とは婚約者でいたくないようだ。  サダムは魔法に秀でていて、同じ実力を持つ私と意気投合していた。  呪いを解けば何も問題はないのに、それだけで婚約破棄したクノレラが理解できない。  私はサダムの呪いを必ず解き、告白しようと決意していた。

処理中です...