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妾はやめて侍女でもいいですか

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 馬車から降りると、夢にまで見たワイアットが出迎えてくれたが感動の再会シーンなどあるわけがない。

「お久しぶりです。兄に言われて来ました」

 ワイアットは冷たい眼差しで私を一瞥すると、さっさと私の部屋に案内してくれた。

「ここが、貴女の部屋です。貴女は平民の愛人扱いです。贅沢はさせよう。宝石もドレスも思いのままだ。ただ、私の愛は当然求めないでください」

「わかりました。貴方の愛は求めません」

 私は、そう答えて周りも見回す。贅沢な部屋は、王宮の部屋と比べても遜色ない。ワイアットは相当なお金持ちのようだ。

「ふん。驚いたでしょう? 貴女に貧乏騎士団長は嫌だと言われましたからね。頑張ってみました。満足ですか?けれど、貴女は私の妻にはなれませんよ。滑稽じゃありませんか? これで立場は逆転だ」

 愉快そうに笑う目の前の男は傷つきすぎて、壊れた愛の形。残骸なのかもしれない。この男性の心は取り戻せないのだろうか。私は決意した。三ヶ月だけ頑張る。だめなら、逃げだそう。コルトン王からいただいた二つの宝石は私が自由に生きられる為のものなのだから。

 だから、どんな扱いも耐えて見せよう・・・・・・と思ったが、ワイアットが近づいてきて私に激しくキスをしてきた時の殺意に身が震えた。これは、ワイアットの完璧な復讐だ。

「ちょ、ちょっと! いきなり、なにをするのよ?」

 私が、撥ね除けようとしても、男の力でねじ伏せられて、抵抗もできない。
私の貞操はどうなるの? あぁ、妾だっけ・・・・・・そもそもそういうことをするための存在か・・・・・・

「貴女は抵抗するな! いつでも雌犬のように私を受け入れればいいんだ! 金だけが好きな売女のくせに」

 心がないこんな行為に、なんの価値があるのだろうか?女性にとっては、吐き気がする状況だ。
下着に手を伸ばすワイアットの目を見つめた。こんな冷たい目の男に抱かれたら、自分自身が汚れた存在に思えて絶対に自分を許すことができなくなりそうだ。

 前言撤回だわ。今から自由に生きます! もともと、じゃじゃ馬姫として有名だったわたしが、こんな言葉を投げつけられて耐えられるはずはない。ドミニ王国の時とは違うのだ。私はワイアットの向こう脛を蹴った。

「ここには、三ヶ月だけいます。愛人としてではなく、あなたの身の回りの世話係としてね。これは、以前貴方を傷つけたお詫びとしてです。ただのお詫びです。お金などいりませんから! 貴方こそ私の愛は求めないでくださいね」

 きっぱりと言い切ると、この屋敷にいる侍女達に挨拶しに言った。

「私は、ここの侍女として3ヶ月だけ雇われたアレクと申します。仲良くしてくださいね!」

 侍女としての3カ月間もいいかもしれない。どうせ、一度はドミニ王国に死を覚悟して嫁いだ身だ。
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