5 / 12
5-1
しおりを挟む
(オリヤン視点)
新しく迎えた妻アデラーイデはマーリンより若く美しい。やはり女は若いのに限る。幸い女しか産めないマーリンだったから捨てるのも簡単だった。
アデラーイデは可愛くて従順なところがいい。少々、金遣いは荒いがそんなことでわたしの愛が揺らぐことはない。しかし、アデラーイデが産んだ子供も女だった。はじめはがっかりしたが、マーリンの時のように腹が立つことはなかった。
(やはり愛の力は偉大だ。どんなことも許せる自分の愛の大きさに感動だ)
しかし不幸は突然訪れた。思いがけぬ馬車同士の衝突事故。腰から下がまったく機能しない。医者はもう二度と歩くことはできない、と言った。
下半身が包帯だらけの私は寝室のベッドに横たわり、その傍らには涙にむせぶ可愛いアデラーイデがいる。
「こんな酷い話があるか? それでもアデラーイデがいてくれて良かったよ。君が支えてくれて可愛い娘もいるからわたしは幸せさ」
アデラーイデは優しい妻だから、わたしをそっと抱きしめて頬にキスを落としてくれた。
「旦那様、私はこれから病や怪我を治す神を祀った神殿に祈りに行きます。この子と一緒に旦那様の回復を祈りに行けば、奇跡が起こるかもしれません」
「奇跡! 確かに。しかし、わたしの為にそこまでしてくれるなんて、やはりアデラーイデは素晴らしい妻だ」
「いいえ、当然のことですわ。それで旦那様、神殿に寄付もしなければなりませんし、旅費もかなりかかりますので家令に言ってお金を頂いてもよろしいですか? それから一番上等な馬車を使わせてください」
「あぁ、いいとも。新しく家令に迎えたハミルトンは、若いのによく気が付く若者だな。さすがにアデラーイデが推薦しただけのことはある」
「はい、彼は私の専属執事でしたからいろいろとわかっております。では、旦那様。しばしの間留守にいたしますが、安心していてくださいね。神は常に旦那様の味方ですわ」
「ありがとう! 愛しているよ」
アデラーイデはそれっきり帰ってこなかった。ハミルトンと共にいなくなり、アーネル伯爵家の金がすっかり持ち去られていることに気が付く。だが、アデラーイデの実家は没落しており、文句を言いに行く両親も他界していた。
(捨てられたのか……このわたしがあんな小娘に……)
屋敷のメイドや侍女たちに聞いて回ると、アデラーイデと執事はとても仲睦まじかったという。そういえば、わたしとアデラーイデとの間の娘はわたしに似ていなかった。どちらかと言えば、ハミルトンに似ていたような……あぁ、そういうことなのか? いくら悔しがっても後の祭りだ。
(どうしたらいい? 誰か側にいてくれ。あぁ、マーリンだ。あいつを呼び戻せばいい。どうせ、実家のローセンブラード男爵家で肩身の狭い思いをしてるに違いない)
だが、ローセンブラード男爵家に行くと、喜ぶどころか浮かない顔でわたしを迎えた。後から弟バートがやって来て、甥達が言ったたわごとを聞きやっとその理由がわかる。つまり、マーリンは3人の子持ち女でありながら、バートと恋愛を楽しんでいたのだ。なんてふしだらな女だ! 3人の娘がいるのだぞ。女でいる時間は終わったのに、いつまでも女という部分を追い求めようとする浅ましさに腹が立つ。
(女は子供を産んだら、子育てをしていい母親になることだけを考えて生きていればいいんだよ!)
新しく迎えた妻アデラーイデはマーリンより若く美しい。やはり女は若いのに限る。幸い女しか産めないマーリンだったから捨てるのも簡単だった。
アデラーイデは可愛くて従順なところがいい。少々、金遣いは荒いがそんなことでわたしの愛が揺らぐことはない。しかし、アデラーイデが産んだ子供も女だった。はじめはがっかりしたが、マーリンの時のように腹が立つことはなかった。
(やはり愛の力は偉大だ。どんなことも許せる自分の愛の大きさに感動だ)
しかし不幸は突然訪れた。思いがけぬ馬車同士の衝突事故。腰から下がまったく機能しない。医者はもう二度と歩くことはできない、と言った。
下半身が包帯だらけの私は寝室のベッドに横たわり、その傍らには涙にむせぶ可愛いアデラーイデがいる。
「こんな酷い話があるか? それでもアデラーイデがいてくれて良かったよ。君が支えてくれて可愛い娘もいるからわたしは幸せさ」
アデラーイデは優しい妻だから、わたしをそっと抱きしめて頬にキスを落としてくれた。
「旦那様、私はこれから病や怪我を治す神を祀った神殿に祈りに行きます。この子と一緒に旦那様の回復を祈りに行けば、奇跡が起こるかもしれません」
「奇跡! 確かに。しかし、わたしの為にそこまでしてくれるなんて、やはりアデラーイデは素晴らしい妻だ」
「いいえ、当然のことですわ。それで旦那様、神殿に寄付もしなければなりませんし、旅費もかなりかかりますので家令に言ってお金を頂いてもよろしいですか? それから一番上等な馬車を使わせてください」
「あぁ、いいとも。新しく家令に迎えたハミルトンは、若いのによく気が付く若者だな。さすがにアデラーイデが推薦しただけのことはある」
「はい、彼は私の専属執事でしたからいろいろとわかっております。では、旦那様。しばしの間留守にいたしますが、安心していてくださいね。神は常に旦那様の味方ですわ」
「ありがとう! 愛しているよ」
アデラーイデはそれっきり帰ってこなかった。ハミルトンと共にいなくなり、アーネル伯爵家の金がすっかり持ち去られていることに気が付く。だが、アデラーイデの実家は没落しており、文句を言いに行く両親も他界していた。
(捨てられたのか……このわたしがあんな小娘に……)
屋敷のメイドや侍女たちに聞いて回ると、アデラーイデと執事はとても仲睦まじかったという。そういえば、わたしとアデラーイデとの間の娘はわたしに似ていなかった。どちらかと言えば、ハミルトンに似ていたような……あぁ、そういうことなのか? いくら悔しがっても後の祭りだ。
(どうしたらいい? 誰か側にいてくれ。あぁ、マーリンだ。あいつを呼び戻せばいい。どうせ、実家のローセンブラード男爵家で肩身の狭い思いをしてるに違いない)
だが、ローセンブラード男爵家に行くと、喜ぶどころか浮かない顔でわたしを迎えた。後から弟バートがやって来て、甥達が言ったたわごとを聞きやっとその理由がわかる。つまり、マーリンは3人の子持ち女でありながら、バートと恋愛を楽しんでいたのだ。なんてふしだらな女だ! 3人の娘がいるのだぞ。女でいる時間は終わったのに、いつまでも女という部分を追い求めようとする浅ましさに腹が立つ。
(女は子供を産んだら、子育てをしていい母親になることだけを考えて生きていればいいんだよ!)
3
お気に入りに追加
1,103
あなたにおすすめの小説
恋人に捨てられた私のそれから
能登原あめ
恋愛
* R15、シリアスです。センシティブな内容を含みますのでタグにご注意下さい。
伯爵令嬢のカトリオーナは、恋人ジョン・ジョーに子どもを授かったことを伝えた。
婚約はしていなかったけど、もうすぐ女学校も卒業。
恋人は年上で貿易会社の社長をしていて、このまま結婚するものだと思っていたから。
「俺の子のはずはない」
恋人はとても冷たい眼差しを向けてくる。
「ジョン・ジョー、信じて。あなたの子なの」
だけどカトリオーナは捨てられた――。
* およそ8話程度
* Canva様で作成した表紙を使用しております。
* コメント欄のネタバレ配慮してませんので、お気をつけください。
* 別名義で投稿したお話の加筆修正版です。
幼馴染みに婚約者を奪われ、妹や両親は私の財産を奪うつもりのようです。皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?
水上
恋愛
「僕は幼馴染みのベラと結婚して、幸せになるつもりだ」
結婚して幸せになる……、結構なことである。
祝福の言葉をかける場面なのだろうけれど、そんなことは不可能だった。
なぜなら、彼は幼馴染み以外の人物と婚約していて、その婚約者というのが、この私だからである。
伯爵令嬢である私、キャサリン・クローフォドは、婚約者であるジャック・ブリガムの言葉を、受け入れられなかった。
しかし、彼は勝手に話を進め、私は婚約破棄を言い渡された。
幼馴染みに婚約者を奪われ、私はショックを受けた。
そして、私の悲劇はそれだけではなかった。
なんと、私の妹であるジーナと両親が、私の財産を奪おうと動き始めたのである。
私の周りには、身勝手な人物が多すぎる。
しかし、私にも一人だけ味方がいた。
彼は、不適な笑みを浮かべる。
私から何もかも奪うなんて、あなたたちは少々やり過ぎました。
私は、やられたままで終わるつもりはないので、皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?
もう愛は冷めているのですが?
希猫 ゆうみ
恋愛
「真実の愛を見つけたから駆け落ちするよ。さよなら」
伯爵令嬢エスターは結婚式当日、婚約者のルシアンに無残にも捨てられてしまう。
3年後。
父を亡くしたエスターは令嬢ながらウィンダム伯領の領地経営を任されていた。
ある日、金髪碧眼の美形司祭マクミランがエスターを訪ねてきて言った。
「ルシアン・アトウッドの居場所を教えてください」
「え……?」
国王の命令によりエスターの元婚約者を探しているとのこと。
忘れたはずの愛しさに突き動かされ、マクミラン司祭と共にルシアンを探すエスター。
しかしルシアンとの再会で心優しいエスターの愛はついに冷め切り、完全に凍り付く。
「助けてくれエスター!僕を愛しているから探してくれたんだろう!?」
「いいえ。あなたへの愛はもう冷めています」
やがて悲しみはエスターを真実の愛へと導いていく……
◇ ◇ ◇
完結いたしました!ありがとうございました!
誤字報告のご協力にも心から感謝申し上げます。
【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?
ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。
卒業3か月前の事です。
卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。
もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。
カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。
でも大丈夫ですか?
婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。
※ゆるゆる設定です
※軽い感じで読み流して下さい
【完結】私の婚約者は妹のおさがりです
葉桜鹿乃
恋愛
「もう要らないわ、お姉様にあげる」
サリバン辺境伯領の領主代行として領地に籠もりがちな私リリーに対し、王都の社交界で華々しく活動……悪く言えば男をとっかえひっかえ……していた妹ローズが、そう言って寄越したのは、それまで送ってきていたドレスでも宝飾品でもなく、私の初恋の方でした。
ローズのせいで広まっていたサリバン辺境伯家の悪評を止めるために、彼は敢えてローズに近付き一切身体を許さず私を待っていてくれていた。
そして彼の初恋も私で、私はクールな彼にいつのまにか溺愛されて……?
妹のおさがりばかりを貰っていた私は、初めて本でも家庭教師でも実権でもないものを、両親にねだる。
「お父様、お母様、私この方と婚約したいです」
リリーの大事なものを守る為に奮闘する侯爵家次男レイノルズと、領地を大事に思うリリー。そしてリリーと自分を比べ、態と奔放に振る舞い続けた妹ローズがハッピーエンドを目指す物語。
小説家になろう様でも別名義にて連載しています。
※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)
【完結】結婚してから三年…私は使用人扱いされました。
仰木 あん
恋愛
子爵令嬢のジュリエッタ。
彼女には兄弟がおらず、伯爵家の次男、アルフレッドと結婚して幸せに暮らしていた。
しかし、結婚から二年して、ジュリエッタの父、オリビエが亡くなると、アルフレッドは段々と本性を表して、浮気を繰り返すようになる……
そんなところから始まるお話。
フィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる