4 / 7
4 息子も愚かならその親も愚かでした
しおりを挟む
「待って・・・・・・お待ちください! 若奥様。エリック様には私から事情をご説明しますので、先ほどのお言葉は聞かなかったことに・・・・・・」
筆頭執事ヨハンは床に頭をこすりつけるようにして私に謝っている。ヨハンはウィンザー侯爵家の現状を知っているからね。
「心配しないで。この屋敷で雇っている者たちは、そのまま雇い続けます」
「えっ? でしたら、私の主は若奥様ということになりましょう。だとしたら、さぁ、エリック様! さっさと荷物をまとめて、ウィンザー侯爵邸から出て行きなさい!」
ヨハンは嬉々として旦那様にそう命令した。きっと今までウィンザー侯爵家を支えるのに苦労してきて、旦那様の愚かさにも耐えてきたのだろう。その表情は実に生き生きとしていたわ。
「なぜ、僕が出て行くのだ? ウィンザー侯爵家の借金は、イレーヌが嫁いできたことによって完済したはずだ。ラエイト男爵家の当主と交わした婚前契約書にはそう書いてあった」
旦那様は得意げに胸を反らした。
「えぇ、私のお父様は性善説を信じて生きておりますのでね。借金を帳消しにすればエリック様がラエイト男爵家に恩義を感じ、私を粗末にしないと思ったのでしょう。お父様のお優しいところは私の自慢ですわ」
「それなら、イレーヌと離縁してもなんの問題もないな! さぁ、もう一度言おう。僕はお前とは離縁して、このアニーを妻に迎えお腹の子どもを跡継ぎにする」
「はい、離縁は承知しました。ですが、出て行くのはあなたです。このウィンザー侯爵家の跡継ぎは、私が生む子供しかなれません」
「なんだと! そんなわけがあるかぁあああ! 嘘をつくな! この身分の低い男爵家の見た目も冴えない女が、僕の隣に立てると思った時点で間違いなんだよ。いいか? この僕を見ろ! この美貌に相応しい女は、最高の美女しかいないんだよ。お前のような地味なおとなしい・・・・・・」
まだまだ続く鬱陶しい話を私は遮った。
「うるさいわねぇ。黙りなさいよ、顔だけ男が!! エリック様は私が嫁いで来てから、生活が変わったと思いませんでしたか?」
「生活? まぁ、以前よりは確かに屋敷の修繕もされ、家具も豪華になった気がする。それから、食事に必ず上等な肉と、異なる国々の果物がたくさん並ぶようになったと思うぞ。まぁ、これは父上が頑張って事業をなさっているから当然のことだろうな」
「それだけではありません。旦那様の着ている衣服も、私がここに嫁いでから購入したものですわね。そして、この屋敷で働く使用人たちの賃金、屋敷や庭園の修繕費に維持費、すべては私が負担しております」
「はぁ? そんなわけがあるか! 借金はお前が嫁いだことでなくなったはず。父上が事業を再建し、昔の繁栄を取り戻したからこそ、今の生活が続けられているのだ。ウィンザー侯爵家を侮辱するなら、お前など容赦しないぞ! 身分に関しては、僕の方が上だというのを理解しておけ!」
「ばかばかしい。今や、身分よりも財力が重要なのです。ごらんなさい。お義父様が急いで執務室から駆けてきています。多分、またお昼寝でもしていたのでしょう。事業のセンスに欠ける当主は、どんなことをしてもお金を稼ぐことはできませんわ」
私は哀れみの眼差しでウィンザー侯爵様を見つめた。
「どうしたのだね? この騒ぎは? イレーヌ、なにがあった?」
ウィンザー侯爵様はまるで落ち着きを知らぬ男性よ。威厳も何もなく、せかせかとした動きと卑屈な目つきが彼の特徴だ。
「お義父様。エリック様は私と離縁してアニー様と結婚するそうです。ですから、あなたがたは速やかに私の屋敷から出て行ってくださいね」
「・・・・・・なんたることだ。ばか者! 早く謝らんか! 土下座だ。誠心誠意、謝れ!」
「嫌です! 意味がわからない」
「お義父様。もっと早く自分の無能さと、お義母様の贅沢すぎるお買い物中毒を、エリック様に認識させなければいけませんでしたね。妙なプライドで、なにもお話をなさっていないのでしょう?」
「うぅ... エリック。イレーヌが我が家に嫁ぐ前の借金が消えたとはいえ、その後の生活費は実はイレーヌに借りていたのだ。事業がうまくいかず、彼女から援助を受けていたんだ。それも以前の倍の利子で返す形で...。ポスルスウェイト国の法律では、嫁からの借金は彼女が当家に嫁いでいる間は債務と見なされない。しかし、エリックとイレーヌが離縁する場合、この借金は正式な借用書による返済義務として取り立てられることになるのだ」
筆頭執事ヨハンは床に頭をこすりつけるようにして私に謝っている。ヨハンはウィンザー侯爵家の現状を知っているからね。
「心配しないで。この屋敷で雇っている者たちは、そのまま雇い続けます」
「えっ? でしたら、私の主は若奥様ということになりましょう。だとしたら、さぁ、エリック様! さっさと荷物をまとめて、ウィンザー侯爵邸から出て行きなさい!」
ヨハンは嬉々として旦那様にそう命令した。きっと今までウィンザー侯爵家を支えるのに苦労してきて、旦那様の愚かさにも耐えてきたのだろう。その表情は実に生き生きとしていたわ。
「なぜ、僕が出て行くのだ? ウィンザー侯爵家の借金は、イレーヌが嫁いできたことによって完済したはずだ。ラエイト男爵家の当主と交わした婚前契約書にはそう書いてあった」
旦那様は得意げに胸を反らした。
「えぇ、私のお父様は性善説を信じて生きておりますのでね。借金を帳消しにすればエリック様がラエイト男爵家に恩義を感じ、私を粗末にしないと思ったのでしょう。お父様のお優しいところは私の自慢ですわ」
「それなら、イレーヌと離縁してもなんの問題もないな! さぁ、もう一度言おう。僕はお前とは離縁して、このアニーを妻に迎えお腹の子どもを跡継ぎにする」
「はい、離縁は承知しました。ですが、出て行くのはあなたです。このウィンザー侯爵家の跡継ぎは、私が生む子供しかなれません」
「なんだと! そんなわけがあるかぁあああ! 嘘をつくな! この身分の低い男爵家の見た目も冴えない女が、僕の隣に立てると思った時点で間違いなんだよ。いいか? この僕を見ろ! この美貌に相応しい女は、最高の美女しかいないんだよ。お前のような地味なおとなしい・・・・・・」
まだまだ続く鬱陶しい話を私は遮った。
「うるさいわねぇ。黙りなさいよ、顔だけ男が!! エリック様は私が嫁いで来てから、生活が変わったと思いませんでしたか?」
「生活? まぁ、以前よりは確かに屋敷の修繕もされ、家具も豪華になった気がする。それから、食事に必ず上等な肉と、異なる国々の果物がたくさん並ぶようになったと思うぞ。まぁ、これは父上が頑張って事業をなさっているから当然のことだろうな」
「それだけではありません。旦那様の着ている衣服も、私がここに嫁いでから購入したものですわね。そして、この屋敷で働く使用人たちの賃金、屋敷や庭園の修繕費に維持費、すべては私が負担しております」
「はぁ? そんなわけがあるか! 借金はお前が嫁いだことでなくなったはず。父上が事業を再建し、昔の繁栄を取り戻したからこそ、今の生活が続けられているのだ。ウィンザー侯爵家を侮辱するなら、お前など容赦しないぞ! 身分に関しては、僕の方が上だというのを理解しておけ!」
「ばかばかしい。今や、身分よりも財力が重要なのです。ごらんなさい。お義父様が急いで執務室から駆けてきています。多分、またお昼寝でもしていたのでしょう。事業のセンスに欠ける当主は、どんなことをしてもお金を稼ぐことはできませんわ」
私は哀れみの眼差しでウィンザー侯爵様を見つめた。
「どうしたのだね? この騒ぎは? イレーヌ、なにがあった?」
ウィンザー侯爵様はまるで落ち着きを知らぬ男性よ。威厳も何もなく、せかせかとした動きと卑屈な目つきが彼の特徴だ。
「お義父様。エリック様は私と離縁してアニー様と結婚するそうです。ですから、あなたがたは速やかに私の屋敷から出て行ってくださいね」
「・・・・・・なんたることだ。ばか者! 早く謝らんか! 土下座だ。誠心誠意、謝れ!」
「嫌です! 意味がわからない」
「お義父様。もっと早く自分の無能さと、お義母様の贅沢すぎるお買い物中毒を、エリック様に認識させなければいけませんでしたね。妙なプライドで、なにもお話をなさっていないのでしょう?」
「うぅ... エリック。イレーヌが我が家に嫁ぐ前の借金が消えたとはいえ、その後の生活費は実はイレーヌに借りていたのだ。事業がうまくいかず、彼女から援助を受けていたんだ。それも以前の倍の利子で返す形で...。ポスルスウェイト国の法律では、嫁からの借金は彼女が当家に嫁いでいる間は債務と見なされない。しかし、エリックとイレーヌが離縁する場合、この借金は正式な借用書による返済義務として取り立てられることになるのだ」
93
お気に入りに追加
1,176
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約者は自称サバサバ系の幼馴染に随分とご執心らしい
冬月光輝
恋愛
「ジーナとはそんな関係じゃないから、昔から男友達と同じ感覚で付き合ってるんだ」
婚約者で侯爵家の嫡男であるニッグには幼馴染のジーナがいる。
ジーナとニッグは私の前でも仲睦まじく、肩を組んだり、お互いにボディタッチをしたり、していたので私はそれに苦言を呈していた。
しかし、ニッグは彼女とは仲は良いがあくまでも友人で同性の友人と同じ感覚だと譲らない。
「あはは、私とニッグ? ないない、それはないわよ。私もこんな性格だから女として見られてなくて」
ジーナもジーナでニッグとの関係を否定しており、全ては私の邪推だと笑われてしまった。
しかし、ある日のこと見てしまう。
二人がキスをしているところを。
そのとき、私の中で何かが壊れた……。
幼馴染みに婚約者を奪われ、妹や両親は私の財産を奪うつもりのようです。皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?
水上
恋愛
「僕は幼馴染みのベラと結婚して、幸せになるつもりだ」
結婚して幸せになる……、結構なことである。
祝福の言葉をかける場面なのだろうけれど、そんなことは不可能だった。
なぜなら、彼は幼馴染み以外の人物と婚約していて、その婚約者というのが、この私だからである。
伯爵令嬢である私、キャサリン・クローフォドは、婚約者であるジャック・ブリガムの言葉を、受け入れられなかった。
しかし、彼は勝手に話を進め、私は婚約破棄を言い渡された。
幼馴染みに婚約者を奪われ、私はショックを受けた。
そして、私の悲劇はそれだけではなかった。
なんと、私の妹であるジーナと両親が、私の財産を奪おうと動き始めたのである。
私の周りには、身勝手な人物が多すぎる。
しかし、私にも一人だけ味方がいた。
彼は、不適な笑みを浮かべる。
私から何もかも奪うなんて、あなたたちは少々やり過ぎました。
私は、やられたままで終わるつもりはないので、皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?
殿下が真実の愛に目覚めたと一方的に婚約破棄を告げらて2年後、「なぜ謝りに来ない!?」と怒鳴られました
冬月光輝
恋愛
「なぜ2年もの間、僕のもとに謝りに来なかった!?」
傷心から立ち直り、新たな人生をスタートしようと立ち上がった私に彼はそう告げました。
2年前に一方的に好きな人が出来たと婚約破棄をしてきたのは殿下の方ではないですか。
それをやんわり伝えても彼は引きません。
婚約破棄しても、心が繋がっていたら婚約者同士のはずだとか、本当は愛していたとか、君に構って欲しかったから浮気したとか、今さら面倒なことを仰せになられても困ります。
私は既に新しい縁談を前向きに考えているのですから。
「愛人にしてやる」って、別にあなたのことなんてなんとも思ってないんですけど……。
水垣するめ
恋愛
エレナ・アンホルト公爵令嬢には婚約者がいる。
王太子のサイモン・グレイだ。
五歳の時から婚約しているが、王太子のサイモンは端的に言うと馬鹿だった。
王太子として必要な教養を身に着けずに遊んでばかり。
とてもわがままで、気に入らないことがあったらすぐに癇癪を起こす。
このように、サイモンは短所のかたまりのような男だったが、ただ一つ、顔がとても良いという長所を持っていた。
そのおかげで長所が短所を上回り、常にサイモンは女性に囲まれる程に人気があった。
しかし何か勘違いしたサイモンは、自分に魅力があるのだと思い始めた。
そして、ついにサイモンは「自分は一人だけの女に収まるような器じゃない」とエレナとの婚約を破棄した。
エレナはいつもサイモンのフォローをさせられていたので、喜々として婚約破棄を受け入れる。
しかし、サイモンはその次に「お前は愛人にする。俺のことが好きだろう?」と、勝手なことを言い出した。
いや、私はあなたのことを何とも思ってないんですけど……?
そしてサイモンはいつも隣にいたエレナがいなくなってから初めて気づく。
今までの人気は、エレナのフォローがあったおかげなのだと。
妹がいらないと言った婚約者は最高でした
朝山みどり
恋愛
わたしは、侯爵家の長女。跡取りとして学院にも行かず、執務をやって来た。婿に来る王子殿下も好きなのは妹。両親も気楽に遊んでいる妹が大事だ。
息詰まる毎日だった。そんなある日、思いがけない事が起こった。
わたしはそれを利用した。大事にしたい人も見つけた。わたしは幸せになる為に精一杯の事をする。
旦那様が妹を妊娠させていました
杉本凪咲
恋愛
勉強ばかりに精を出していた男爵令嬢ライラに、伯爵家からの縁談が舞い込む。縁談相手のオールドは、端正な顔立ちと優しい性格の男性で、ライラはすぐに彼のことが好きになった。しかし半年後、オールドはライラに離婚を宣言して衝撃的な言葉を放つ。「君の妹を妊娠させてしまったんだ」。
冷遇された王妃は自由を望む
空橋彩
恋愛
父を亡くした幼き王子クランに頼まれて王妃として召し上げられたオーラリア。
流行病と戦い、王に、国民に尽くしてきた。
異世界から現れた聖女のおかげで流行病は終息に向かい、王宮に戻ってきてみれば、納得していない者たちから軽んじられ、冷遇された。
夫であるクランは表情があまり変わらず、女性に対してもあまり興味を示さなかった。厳しい所もあり、臣下からは『氷の貴公子』と呼ばれているほどに冷たいところがあった。
そんな彼が聖女を大切にしているようで、オーラリアの待遇がどんどん悪くなっていった。
自分の人生よりも、クランを優先していたオーラリアはある日気づいてしまった。
[もう、彼に私は必要ないんだ]と
数人の信頼できる仲間たちと協力しあい、『離婚』して、自分の人生を取り戻そうとするお話。
貴族設定、病気の治療設定など出てきますが全てフィクションです。私の世界ではこうなのだな、という方向でお楽しみいただけたらと思います。
聖女で美人の姉と妹に婚約者の王子と幼馴染をとられて婚約破棄「辛い」私だけが恋愛できず仲間外れの毎日
window
恋愛
「好きな人ができたから別れたいんだ」
「相手はフローラお姉様ですよね?」
「その通りだ」
「わかりました。今までありがとう」
公爵令嬢アメリア・ヴァレンシュタインは婚約者のクロフォード・シュヴァインシュタイガー王子に呼び出されて婚約破棄を言い渡された。アメリアは全く感情が乱されることなく婚約破棄を受け入れた。
アメリアは婚約破棄されることを分かっていた。なので動揺することはなかったが心に悔しさだけが残る。
三姉妹の次女として生まれ内気でおとなしい性格のアメリアは、気が強く図々しい性格の聖女である姉のフローラと妹のエリザベスに婚約者と幼馴染をとられてしまう。
信頼していた婚約者と幼馴染は性格に問題のある姉と妹と肉体関係を持って、アメリアに冷たい態度をとるようになる。アメリアだけが恋愛できず仲間外れにされる辛い毎日を過ごすことになった――
閲覧注意
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる