3 / 8
3 アンナ視点
しおりを挟む
従兄弟のロメオが資産家のマスカ侯爵令嬢の婚約者になった日、私は決心したわ。
「お父様、お母様! 私はたった今から病弱な乙女になりますわ」
そう宣言した私はその瞬間から外出はしなくなった。大好きな甘いお菓子を控えて低カロリーな野菜や赤身のお肉を食べるようにしたわ。
その結果、健康的な小麦色の肌は白くなりほっそりした可憐な乙女に変身した私は、『病弱な可哀想な従姉妹』になりすましてカマボ伯爵家に療養しに行ったの。隣国の実家のルルボン男爵家は空気が悪い工業地帯に隣接していて肺によくないってことでカマボ伯爵家に来させてもらったのよ。
私は肺を患っているわけでもなんでもないけれど、たまにそれらしく咳き込めば皆が心配してくれて、横になっているように勧めてくれた。
『病弱な可哀想な従姉妹』設定って最強よね? どうせなら兄弟そろって攻略しちゃえって思ったけれどアンドレ・カマボ伯爵嫡男は真面目で婚約者のニコール一筋だった。私が近づくとあからさまに舌打ちされたわ。
「アンナ! 君はここには療養に来たのだろう? 私の周りをウロチョロするのはやめてくれ。私は、婚約者のニコールに誤解されたくないからな」
こんな失礼なことを言う男って信じられない!
「あら、まだ結婚もしていないのにもう尻に敷かれているのですか? 次期カマボ伯爵が情けない」
私はこの腰抜けなロメオのお兄様を心底軽蔑した。
「はぁ? 尻に敷かれている? ばかばかしい。私はニコールを愛しているから悲しませたくないだけさ! そんなこともわからないのか! アンナは可哀想な人だな」
――私が可哀想な人ですって? 今に見ていなさいよ! あんたの弟を誘惑して、この私がマスカ侯爵夫人になってやるんだから! そうして私に生意気なお説教じみた言葉を吐いたことを後悔させてあげるわ!
ꕤ୭*
「ロメオ様! ロメオ様はなんでもできて素敵です。ロメオ様の妻になれるリリ様は幸せですわね」
そんな言葉を毎回ささやいてあげる私に、ロメオが夢中になるのはあっという間だった。
元から自己顕示欲が強いのだろう。褒められて尊敬されてもちあげられると、すぐに気を許して従順な下僕のようになんでも言うことを聞いてくれるようになった。
「夜会にエスコートしていただいていいですかぁ? こちらでは知り合いも少ないですし、なにより私は引っ込み思案なので・・・・・・それにロメオ様のようにどんな王族よりも気品のある美貌の男性にエスコートされて夜会に出席できたら、私絶対に寿命が延びると思うんです!」
「寿命? アンナはそんなに深刻な病気なのかい? まさか、余命1年とか?」
「えっと。まぁ、いつ死んでもおかしくありませんわねぇ。死ぬ時期はわかりませんが。1年かもしれませんし、5年後かも。運が良ければもっと長生きもできるでしょう」
――嘘は言っていないわ。だって人間なんていつ死ぬかわからないですもの。急な心臓発作や予期せぬ事故・・・・・・流行病は定期的に蔓延するこの世界で人の命に絶対なんてない。
「なんてことだ! なるべくアンナの希望を叶えてあげたいよ。なんでも言って」
お人好しのロメオはそう言って微笑んだ。
――チョロい! 顔だけが取り柄の見栄っ張りのロメオちゃん、ゲット!
ずっとベタベタとロメオにつきまとってリリとの仲を引き裂いていた。だって、どこまでわがままを聞いてくれるか試したくて・・・・・でも、リリから婚約破棄されそう、とロメオに聞かされた時にはちょっぴり反省した。
その直後のことだったかしら? 私とロメオは夜会の庭園の隅で将来の夢を語り合ったものよ。
その時にロメオはリリと結婚したら愛人にしてくれると約束してくれたし、そのうちリリも殺してしまおうと言った。その妹もね。そしたらマスカ侯爵家が保持しているダイヤモンド鉱山が自分達だけのものになるってあとから教えてくれたんだ。
――ダイヤモンド鉱山! どんなに贅沢しても、使い切れないほど無限に入ってくる富で一生何不自由なく暮らせる。なんて最高なの!
これはリリとロメオ様をなんとしても結婚させなきゃ! 婚約破棄なんて困る、私が調子に乗りすぎた?
でも、すぐにリリがロメオに謝ってきた。すっかりロメオにメロメロなバカな女だ。ロメオの心は私のものなのに。でも、これで安心してもっとロメオにベタベタできる!
ꕤ୭*
それから、リリが毎日のように私にプレゼントをくれるようになったのよ。豪華なドレスやら化粧品、宝石やら高級お菓子にフルーツ。ようやく、自分の立場がわかったのね? ロメオはマスカ侯爵になってリリはお飾りの妻にしかなれないって。もちろん私はロメオの誠の妻よ。
夜会にはリリからもらった深紅のドレスに大きなルビーをつけた。とても素敵だし、私にぴったり! なかなかリリはセンスがいいわ。
私に会いに頻繁に来るようになったリリは、私を王女様のように扱うわ。ちやほやしてくれてまるで私の方が身分が上みたいな気分がするの!
――けっこう、いい人よね、リリって。全然威張ってないし謙虚で優しいわ・・・・・・
夜会での私はリリに上からものを言うようになった。リリの妹のアニーは眉をひそめて私を当惑した顔で見ていたが、なにも言ってこないわ。
――リリって社交界では人気者で取り巻きもたくさんいたはずなのに変ねぇ? 最近はいつもひとりぼっちで壁にたたずんでいた。
私がロメオの行くところにどこへでもついていき、リリにため口で話していたらおかしな噂が立ち始めた。
私がリリを脅してドレスを贈らせているとか、これはリリが自主的に私に貢いでいるだけだ。
私がリリを押しのけてロメオ様につきまとっているとか、これもリリからは「真実の愛のお二人は一緒にいたほうが自然ですわね」と認めてくれたことだ。
ため口もリリが「他人行儀はおやめになって! どうぞ友人のように話しかけてくださいな」と言われたからそうしたまでよ。
私が侯爵令嬢であるリリを虐げてその婚約者を奪う悪役にされ、皆がリリに同情するのに時間はそれほどかからなかった。
それでも、この二人は盛大な結婚式をあげ私は別邸に囲われる愛人になった。そしてあの事件は起こったのよ!
「お父様、お母様! 私はたった今から病弱な乙女になりますわ」
そう宣言した私はその瞬間から外出はしなくなった。大好きな甘いお菓子を控えて低カロリーな野菜や赤身のお肉を食べるようにしたわ。
その結果、健康的な小麦色の肌は白くなりほっそりした可憐な乙女に変身した私は、『病弱な可哀想な従姉妹』になりすましてカマボ伯爵家に療養しに行ったの。隣国の実家のルルボン男爵家は空気が悪い工業地帯に隣接していて肺によくないってことでカマボ伯爵家に来させてもらったのよ。
私は肺を患っているわけでもなんでもないけれど、たまにそれらしく咳き込めば皆が心配してくれて、横になっているように勧めてくれた。
『病弱な可哀想な従姉妹』設定って最強よね? どうせなら兄弟そろって攻略しちゃえって思ったけれどアンドレ・カマボ伯爵嫡男は真面目で婚約者のニコール一筋だった。私が近づくとあからさまに舌打ちされたわ。
「アンナ! 君はここには療養に来たのだろう? 私の周りをウロチョロするのはやめてくれ。私は、婚約者のニコールに誤解されたくないからな」
こんな失礼なことを言う男って信じられない!
「あら、まだ結婚もしていないのにもう尻に敷かれているのですか? 次期カマボ伯爵が情けない」
私はこの腰抜けなロメオのお兄様を心底軽蔑した。
「はぁ? 尻に敷かれている? ばかばかしい。私はニコールを愛しているから悲しませたくないだけさ! そんなこともわからないのか! アンナは可哀想な人だな」
――私が可哀想な人ですって? 今に見ていなさいよ! あんたの弟を誘惑して、この私がマスカ侯爵夫人になってやるんだから! そうして私に生意気なお説教じみた言葉を吐いたことを後悔させてあげるわ!
ꕤ୭*
「ロメオ様! ロメオ様はなんでもできて素敵です。ロメオ様の妻になれるリリ様は幸せですわね」
そんな言葉を毎回ささやいてあげる私に、ロメオが夢中になるのはあっという間だった。
元から自己顕示欲が強いのだろう。褒められて尊敬されてもちあげられると、すぐに気を許して従順な下僕のようになんでも言うことを聞いてくれるようになった。
「夜会にエスコートしていただいていいですかぁ? こちらでは知り合いも少ないですし、なにより私は引っ込み思案なので・・・・・・それにロメオ様のようにどんな王族よりも気品のある美貌の男性にエスコートされて夜会に出席できたら、私絶対に寿命が延びると思うんです!」
「寿命? アンナはそんなに深刻な病気なのかい? まさか、余命1年とか?」
「えっと。まぁ、いつ死んでもおかしくありませんわねぇ。死ぬ時期はわかりませんが。1年かもしれませんし、5年後かも。運が良ければもっと長生きもできるでしょう」
――嘘は言っていないわ。だって人間なんていつ死ぬかわからないですもの。急な心臓発作や予期せぬ事故・・・・・・流行病は定期的に蔓延するこの世界で人の命に絶対なんてない。
「なんてことだ! なるべくアンナの希望を叶えてあげたいよ。なんでも言って」
お人好しのロメオはそう言って微笑んだ。
――チョロい! 顔だけが取り柄の見栄っ張りのロメオちゃん、ゲット!
ずっとベタベタとロメオにつきまとってリリとの仲を引き裂いていた。だって、どこまでわがままを聞いてくれるか試したくて・・・・・でも、リリから婚約破棄されそう、とロメオに聞かされた時にはちょっぴり反省した。
その直後のことだったかしら? 私とロメオは夜会の庭園の隅で将来の夢を語り合ったものよ。
その時にロメオはリリと結婚したら愛人にしてくれると約束してくれたし、そのうちリリも殺してしまおうと言った。その妹もね。そしたらマスカ侯爵家が保持しているダイヤモンド鉱山が自分達だけのものになるってあとから教えてくれたんだ。
――ダイヤモンド鉱山! どんなに贅沢しても、使い切れないほど無限に入ってくる富で一生何不自由なく暮らせる。なんて最高なの!
これはリリとロメオ様をなんとしても結婚させなきゃ! 婚約破棄なんて困る、私が調子に乗りすぎた?
でも、すぐにリリがロメオに謝ってきた。すっかりロメオにメロメロなバカな女だ。ロメオの心は私のものなのに。でも、これで安心してもっとロメオにベタベタできる!
ꕤ୭*
それから、リリが毎日のように私にプレゼントをくれるようになったのよ。豪華なドレスやら化粧品、宝石やら高級お菓子にフルーツ。ようやく、自分の立場がわかったのね? ロメオはマスカ侯爵になってリリはお飾りの妻にしかなれないって。もちろん私はロメオの誠の妻よ。
夜会にはリリからもらった深紅のドレスに大きなルビーをつけた。とても素敵だし、私にぴったり! なかなかリリはセンスがいいわ。
私に会いに頻繁に来るようになったリリは、私を王女様のように扱うわ。ちやほやしてくれてまるで私の方が身分が上みたいな気分がするの!
――けっこう、いい人よね、リリって。全然威張ってないし謙虚で優しいわ・・・・・・
夜会での私はリリに上からものを言うようになった。リリの妹のアニーは眉をひそめて私を当惑した顔で見ていたが、なにも言ってこないわ。
――リリって社交界では人気者で取り巻きもたくさんいたはずなのに変ねぇ? 最近はいつもひとりぼっちで壁にたたずんでいた。
私がロメオの行くところにどこへでもついていき、リリにため口で話していたらおかしな噂が立ち始めた。
私がリリを脅してドレスを贈らせているとか、これはリリが自主的に私に貢いでいるだけだ。
私がリリを押しのけてロメオ様につきまとっているとか、これもリリからは「真実の愛のお二人は一緒にいたほうが自然ですわね」と認めてくれたことだ。
ため口もリリが「他人行儀はおやめになって! どうぞ友人のように話しかけてくださいな」と言われたからそうしたまでよ。
私が侯爵令嬢であるリリを虐げてその婚約者を奪う悪役にされ、皆がリリに同情するのに時間はそれほどかからなかった。
それでも、この二人は盛大な結婚式をあげ私は別邸に囲われる愛人になった。そしてあの事件は起こったのよ!
286
お気に入りに追加
1,603
あなたにおすすめの小説
私の婚約者とキスする妹を見た時、婚約破棄されるのだと分かっていました
あねもね
恋愛
妹は私と違って美貌の持ち主で、親の愛情をふんだんに受けて育った結果、傲慢になりました。
自分には手に入らないものは何もないくせに、私のものを欲しがり、果てには私の婚約者まで奪いました。
その時分かりました。婚約破棄されるのだと……。
【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。
姉が私の婚約者と仲良くしていて、婚約者の方にまでお邪魔虫のようにされていましたが、全員が勘違いしていたようです
珠宮さくら
恋愛
オーガスタ・プレストンは、婚約者している子息が自分の姉とばかり仲良くしているのにイライラしていた。
だが、それはお互い様となっていて、婚約者も、姉も、それぞれがイライラしていたり、邪魔だと思っていた。
そこにとんでもない勘違いが起こっているとは思いもしなかった。
【完結】その約束は果たされる事はなく
かずきりり
恋愛
貴方を愛していました。
森の中で倒れていた青年を献身的に看病をした。
私は貴方を愛してしまいました。
貴方は迎えに来ると言っていたのに…叶わないだろうと思いながらも期待してしまって…
貴方を諦めることは出来そうもありません。
…さようなら…
-------
※ハッピーエンドではありません
※3話完結となります
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています
過去に戻った筈の王
基本二度寝
恋愛
王太子は後悔した。
婚約者に婚約破棄を突きつけ、子爵令嬢と結ばれた。
しかし、甘い恋人の時間は終わる。
子爵令嬢は妃という重圧に耐えられなかった。
彼女だったなら、こうはならなかった。
婚約者と結婚し、子爵令嬢を側妃にしていれば。
後悔の日々だった。
【完結】殿下、私ではなく妹を選ぶなんて……しかしながら、悲しいことにバットエンドを迎えたようです。
みかみかん
恋愛
アウス殿下に婚約破棄を宣言された。アルマーニ・カレン。
そして、殿下が婚約者として選んだのは妹のアルマーニ・ハルカだった。
婚約破棄をされて、ショックを受けるカレンだったが、それ以上にショックな事実が発覚してしまう。
アウス殿下とハルカが国の掟に背いてしまったのだ。
追記:メインストーリー、只今、完結しました。その後のアフターストーリーも、もしかしたら投稿するかもしれません。その際は、またお会いできましたら光栄です(^^)
いくら何でも、遅過ぎません?
碧水 遥
恋愛
「本当にキミと結婚してもいいのか、よく考えたいんだ」
ある日突然、婚約者はそう仰いました。
……え?あと3ヶ月で結婚式ですけど⁉︎もう諸々の手配も終わってるんですけど⁉︎
何故、今になってーっ!!
わたくしたち、6歳の頃から9年間、婚約してましたよね⁉︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる