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3 アンナ視点

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 従兄弟のロメオが資産家のマスカ侯爵令嬢の婚約者になった日、私は決心したわ。

「お父様、お母様! 私はたった今から病弱な乙女になりますわ」
 そう宣言した私はその瞬間から外出はしなくなった。大好きな甘いお菓子を控えて低カロリーな野菜や赤身のお肉を食べるようにしたわ。

 その結果、健康的な小麦色の肌は白くなりほっそりした可憐な乙女に変身した私は、『病弱な可哀想な従姉妹』になりすましてカマボ伯爵家に療養しに行ったの。隣国の実家のルルボン男爵家は空気が悪い工業地帯に隣接していて肺によくないってことでカマボ伯爵家に来させてもらったのよ。


 私は肺を患っているわけでもなんでもないけれど、たまにそれらしく咳き込めば皆が心配してくれて、横になっているように勧めてくれた。

『病弱な可哀想な従姉妹』設定って最強よね? どうせなら兄弟そろって攻略しちゃえって思ったけれどアンドレ・カマボ伯爵嫡男は真面目で婚約者のニコール一筋だった。私が近づくとあからさまに舌打ちされたわ。

「アンナ! 君はここには療養に来たのだろう? 私の周りをウロチョロするのはやめてくれ。私は、婚約者のニコールに誤解されたくないからな」
 こんな失礼なことを言う男って信じられない!

「あら、まだ結婚もしていないのにもう尻に敷かれているのですか? 次期カマボ伯爵が情けない」
 私はこの腰抜けなロメオのお兄様を心底軽蔑した。

「はぁ? 尻に敷かれている? ばかばかしい。私はニコールを愛しているから悲しませたくないだけさ! そんなこともわからないのか! アンナは可哀想な人だな」

――私が可哀想な人ですって? 今に見ていなさいよ! あんたの弟を誘惑して、この私がマスカ侯爵夫人になってやるんだから! そうして私に生意気なお説教じみた言葉を吐いたことを後悔させてあげるわ!

 
ꕤ୭*


「ロメオ様! ロメオ様はなんでもできて素敵です。ロメオ様の妻になれるリリ様は幸せですわね」
 そんな言葉を毎回ささやいてあげる私に、ロメオが夢中になるのはあっという間だった。

 元から自己顕示欲が強いのだろう。褒められて尊敬されてもちあげられると、すぐに気を許して従順な下僕のようになんでも言うことを聞いてくれるようになった。

「夜会にエスコートしていただいていいですかぁ? こちらでは知り合いも少ないですし、なにより私は引っ込み思案なので・・・・・・それにロメオ様のようにどんな王族よりも気品のある美貌の男性にエスコートされて夜会に出席できたら、私絶対に寿命が延びると思うんです!」

「寿命? アンナはそんなに深刻な病気なのかい? まさか、余命1年とか?」

「えっと。まぁ、いつ死んでもおかしくありませんわねぇ。死ぬ時期はわかりませんが。1年かもしれませんし、5年後かも。運が良ければもっと長生きもできるでしょう」

――嘘は言っていないわ。だって人間なんていつ死ぬかわからないですもの。急な心臓発作や予期せぬ事故・・・・・・流行病は定期的に蔓延するこの世界で人の命に絶対なんてない。

「なんてことだ! なるべくアンナの希望を叶えてあげたいよ。なんでも言って」
 お人好しのロメオはそう言って微笑んだ。

――チョロい! 顔だけが取り柄の見栄っ張りのロメオちゃん、ゲット!



 


 ずっとベタベタとロメオにつきまとってリリとの仲を引き裂いていた。だって、どこまでわがままを聞いてくれるか試したくて・・・・・でも、リリから婚約破棄されそう、とロメオに聞かされた時にはちょっぴり反省した。

 その直後のことだったかしら? 私とロメオは夜会の庭園の隅で将来の夢を語り合ったものよ。

 その時にロメオはリリと結婚したら愛人にしてくれると約束してくれたし、そのうちリリも殺してしまおうと言った。その妹もね。そしたらマスカ侯爵家が保持しているダイヤモンド鉱山が自分達だけのものになるってあとから教えてくれたんだ。

――ダイヤモンド鉱山! どんなに贅沢しても、使い切れないほど無限に入ってくる富で一生何不自由なく暮らせる。なんて最高なの!
 
 これはリリとロメオ様をなんとしても結婚させなきゃ! 婚約破棄なんて困る、私が調子に乗りすぎた?

 でも、すぐにリリがロメオに謝ってきた。すっかりロメオにメロメロなバカな女だ。ロメオの心は私のものなのに。でも、これで安心してもっとロメオにベタベタできる!




ꕤ୭*




 それから、リリが毎日のように私にプレゼントをくれるようになったのよ。豪華なドレスやら化粧品、宝石やら高級お菓子にフルーツ。ようやく、自分の立場がわかったのね? ロメオはマスカ侯爵になってリリはお飾りの妻にしかなれないって。もちろん私はロメオの誠の妻よ。

 夜会にはリリからもらった深紅のドレスに大きなルビーをつけた。とても素敵だし、私にぴったり! なかなかリリはセンスがいいわ。

 私に会いに頻繁に来るようになったリリは、私を王女様のように扱うわ。ちやほやしてくれてまるで私の方が身分が上みたいな気分がするの!

――けっこう、いい人よね、リリって。全然威張ってないし謙虚で優しいわ・・・・・・

 夜会での私はリリに上からものを言うようになった。リリの妹のアニーは眉をひそめて私を当惑した顔で見ていたが、なにも言ってこないわ。

――リリって社交界では人気者で取り巻きもたくさんいたはずなのに変ねぇ? 最近はいつもひとりぼっちで壁にたたずんでいた。


 

 私がロメオの行くところにどこへでもついていき、リリにため口で話していたらおかしな噂が立ち始めた。

 私がリリを脅してドレスを贈らせているとか、これはリリが自主的に私に貢いでいるだけだ。
 私がリリを押しのけてロメオ様につきまとっているとか、これもリリからは「真実の愛のお二人は一緒にいたほうが自然ですわね」と認めてくれたことだ。
 ため口もリリが「他人行儀はおやめになって! どうぞ友人のように話しかけてくださいな」と言われたからそうしたまでよ。


 私が侯爵令嬢であるリリを虐げてその婚約者を奪う悪役にされ、皆がリリに同情するのに時間はそれほどかからなかった。

 

 それでも、この二人は盛大な結婚式をあげ私は別邸に囲われる愛人になった。そしてあの事件は起こったのよ!

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