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前編ーーすでに用済みかもしれない男

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侍医から私の妊娠を聞いた両親は、喜びに顔を輝かせ屋敷に戻った私を迎えてくれた。カイスビー公爵家の下女や馬丁達末端の使用人達までもが私の妊娠に興奮し、お祭りムードだった。

「おめでとうございます!!カトレア様!」
「きっとさぞかしお美しいお子様がお生まれになりますわ!」
「素晴らしい才能のあるお子様に違いありません!」
皆口々に私に祝福の声をかけてくれたのである。

私の浮かない顔とため息にまず一番最初に気がついたのは私の専属執事のピエールだった。
「カトレア様。どうされましたか? あんなに喜んでジョン様に報告をしに行かれましたのに、商会にいなかったのですか?」

「ううん、いたわよ」

「それならきっと、ジョン様は大層喜ばれたでしょう? まさか喜ばないなんてことはないですよね? 表情筋がない・・・・・・おっと、失礼・・・・・・氷の貴公子だって子供ができたとわかったら飛び上がって喜んだでしょう?」

「言えなかったわ。だって女性と抱き合っていたんだもの。ほら、ネリアンって知ってるでしょう? 昔から商会で働いている女性よ」
私の発言はお父様とピエールの額に怒りの青筋を浮かびあげさせ、お母様を気絶させたのだった。

「はい、結婚適齢期を逃したおばさ・・・・・・あ、失礼。まさかアレと抱き合っていたなんて言わないで下さいよ。あり得ないですから! これほど美しいカトレア様を裏切ってあんなおばさ・・・・・・あ、失礼」

「あのね、ピエール! 心の声が漏れてネリアンに失礼すぎるわよ。私も貴方も今は若いけれど歳をとっていくのよ? それに、ジョンにとっては私よりネリアンのほうが魅力的らしいわ」

「そんなばかなことはありませんよ! カトレア様は世界一です。こんなに可愛くて綺麗で美しくて・・・・・・カトレア様以上の女性はどこをさがしても絶対にいません! ジョンの奴は目が悪いんでしょう!」

ピエールはいつだって優しい! 今も必死で私を全力で褒めちぎるのだ。でも、私は容姿や年齢で負けたのではない。おそらく中身で負けたのだ・・・・・・その方がずっとショックな気もした。

「ジョンにとっては母親のように甘えられることが大事だったみたい・・・・・・」

「はぁ? なんですか、それ? マザコン野郎ですか? 僕ならカトレア様を大事にします。この命に賭けても一生大事にするのに・・・・・・もっとも僕は貧乏伯爵家の三男なのでカトレア様には不釣り合いですが・・・・・・」

悲しげな顔で俯くピエールの手を私は思わず両手で包んだ。
「その言葉だけでも嬉しいわ。ピエール! いつもありがとう」
にっこりと二人で笑いあえば、ほんの少しだけ気持ちが軽くなった。

「確かにお前達はお似合いだな。これは・・・・・・ふふふ。きっとそのお腹の子供が全て解決してくれるぞ。タイミングよくジョンの浮気が発覚、可愛いカトレアは子供をすでに妊娠。つまりはだ! ジョンはすでに用済みだ!」
お父様の背後にすっごい勢いのあるブリザードが吹き荒れているのは気のせいよね?

たっぷりとネリアンに甘えてきたと思われるジョンがその夜遅くに屋敷に戻ると、お父様は機嫌良くこう言った。
「ジョン君! 君には素晴らしいご褒美があるから来週まで楽しみにしていたまえ。君が心から望んでいるをプレゼントしてあげよう!」

私は小首を傾げながらもそっと自分のお腹を優しく撫でる。私の口から夫に妊娠したことを告げることはなかった。
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