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18 それぞれの末路

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 魔王はアリアナのために一時的に魔界に戻ったが、レオナルドを許す気はまったくなかった。レオナルドはかつて、魔王が愛するアリアナに虚偽の罪を着せ、地下牢に投獄するという非道な行為を働いたのだ。レオナルドに対する凄まじい怒りは魔王の心に深く刻まれ、彼は赦しどころか、復讐の決意を新たにしていた。
 だが、レオナルドは感心にも修道院に入り、人が変わったように神に祈る生活をしたため、命まではとらなかった。しかし、2日ふつかに一度、悪夢を見させることは忘れなかった。

「私への恐怖心から修道院に入っただけだし、改心して余生を神に祈れば、あいつの罪がなくなるなんて、都合が良すぎる。私の最愛を迫害した罰は、やはり万死に値するからな。夢のなかだけでも、何度も死なせないと満足できない。あんな虫けらに、私のアリアナが虐められたなど……うむ、絶対に許せない。今夜は八つ裂きの刑で死ぬがいい! 思いっきりリアルな拷問刑に招待してやろう」

 アリアナには蜜のように甘く優しくても、魔王は魔王なのだった。愛する者を害したレオナルドを、けっして許すことはないのだ。結果的に、レオナルドは夢のなかで幾度も悲惨な死を体験した。

 レオナルドは今日も神に祈る。
「お願いします。魔王から私を守ってください。あいつが夢にでてこないようにしてください。私に穏やかな睡眠をください。今度はどんな死に方をするのか・・・・・・想像しただけで眠るのが怖いのです」

 アリアナが睡眠不足で辛い思いをしていた時に、さんざんエリナと遊びほうけ、婚約者アリアナを裏切っていたバチがきっちりと当たったのだった。

☆彡 ★彡


 一方、国王夫妻は跡継ぎのレオナルドが王位継承権を放棄し、修道院に入ったことを嘆いていた。目の中に入れても痛くないほど可愛がっていたからだ。魔王はこの国王夫妻の意気消沈ぶりを見るにつけ、ほの暗い満足感を覚えていたが、やはりこのままでは満足できない。

 魔王は、人間界で最も名高い劇作家にアリアナが虚偽の罪を着せられ魔界に追放された経緯を描かせ、その劇を全国で上演させた。民衆はこの哀しい物語に深く感動し、涙を流した。やがて、この話が実際の出来事であることを知った一部の人々は、王家に対して激しく抗議を行った。その結果、次々と王家に関する不祥事が明るみに出て、多くの人々の知るところとなった。これにより、各地で王家を倒そうとする勢力が台頭し、いわゆる革命の波が巻き起こる。

「今まで虐げられてきた者たちよ、今こそ立ち上がる時だ! 王が神であるはずがない。人間は平等であり、王もまた一人の人間に過ぎない!」
 魔王は一般市民に変装し、力強い演説を行った。

 その結果、ジンキンズ王国は次第に衰退し、国王は市民の手によって処刑された。王妃や王太子妃であったエリナも、同様に処刑される。
 もちろん、魔王はこれらのことをアリアナには秘密にしていたのだがーー

「ダリ。私に秘密にしていることはないですか? ジンキンズ王国が滅亡したとの噂は本当ですか? 王族たちは死刑になったと聞きました。まさか、ダリもその事件に関わってーー」
「あれは時代の流れだ。王家の者たちの誰もが愚かすぎたし、民意を無視し続けた。民たちの怒りを買っても仕方がないことなのさ」
「王族を殺すなんて・・・・・・他に方法はなかったのでしょうか? エリナも同じく亡くなったのでしょう?」
「人間界のことは気にするな。民がくだした罰なのだ。王家の者たちが、それだけ民の恨みを買っただけのことさ。エリナは亡くなったが、まだクレスウエル公爵夫妻は生きている。助けたいか?」
「えぇ。それほど可愛がられた記憶はありませんが、生んでもらった恩はあります。こうして、ダリに巡り会えて今が幸せなのも、この世に生を受けたからです」
「アリアナのその優しさが大好きだ。心の美しさは、外見の美しさを超えるものだ。しかもアリアナは、見た目も素晴らしく美しい。世界一の女性だ。クレスウエル公爵夫妻には労働の大切さを教えよう」
「素敵ですね! きっと、お父様やお母様も働く楽しさがわかると思いますわ。私もメイドの仕事が楽しかったですから。ダリはとても慈悲深いです」

 結果的に、クレスウエル公爵は鉱山送りにされ、有害な粉塵にまみれながら働くこととなった。クレスウエル公爵夫人は孤児院に送られ、子供たちのオムツや服を洗う洗濯女として、常にアカギレに悩まされる生活を強いられた。彼らは死ぬ自由さえ奪われた。魔王が自死を防ぐ魔法をかけていたからだ。

「貴族らしく死ぬこともできぬとは……毒を食べても死ねず、身体を傷つけても死ねない」
 クレスウエル公爵は絶望の叫びをあげた。

「この私が赤ちゃんのオムツや子供服の洗濯をするなんて! それも汚らしい子供の服よ。公爵夫人の私がよ? これなら、斬首刑になったほうがマシだったわ。生き恥をさらして、惨めすぎる・・・・・・」
 クレスウエル公爵夫人も嘆き悲しんだ。贅沢と怠惰に浸っていた彼らが、アリアナのように労働を楽しむことなど到底できなかったのだ。

「ふむ。これはなかなか悪くないな」
 魔王は楽しげに笑った。アリアナを慈しんでこなかった者が、長く苦しみを味わうことは当然なのだ。平民には当たり前の労働でも、贅沢に慣れた貴族には耐え難い屈辱となるだろう。さらに、クレスウエル公爵夫妻には、毎晩、悪夢を見せるというプレゼントも追加された。

「幼い頃から、アリアナを睡眠不足にさせてきた罰だ。エリナだけを可愛がっていたことも許せない。悪夢にうなされ、眠ることが恐ろしいと思わせてやろう。かつての私のように!」
 やはり、魔王は魔王である。アリアナに関することになると、冷酷さが色濃くでてしまうのだった。
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