上 下
13 / 23

13 劣化したエリナ

しおりを挟む
 エリナはアリアナを追い出し、自分が王太子妃の座に収まった。怠け者のエリナでも『アリアナ・スクプリタム』さえあれば、王太子妃として困ることはないのだ。さらに、魔界から美しさを倍増させる果実もたっぷりと送られてきた。

「何もかもが計画通りで笑っちゃう。『アリアナ・スクプリタム』がある限り、なんの勉強もしてこなかったこの私でも、王太子妃の仕事ができてしまうなんて、お姉様は本当に有能なおバカさんだったわね」
 エリナの高笑いが、王太子妃宮のサロンに響き渡る。

「魔法の果実を持ってきてちょうだい」
 
 エリナは恭しく果実を運んできた侍女から皿を奪い取り、勢いよくかぶりついた。

「すっごく、美味しい! こんなに美味しい果物は初めてよ。魔界から直接私宛に送られてくるなんて、魔王まで私に恋しているのかしら? うふふ。美しい私って罪な女よね」

 エリナは自分が誰からも愛されると信じて疑わない。幼い頃から容姿を褒め称えられ、蝶よ花よと育てられたのである。その軽い頭のなかには、勘違いと妄想しか閃かないのは仕方のないことだった。

 果実を食べ終わってから半刻ほど経ったアリアナの瞳は、星のように輝き、肌はしっとりと潤いなめらかになった。睫毛が一層長く濃く、鼻筋がいくぶん高くなり、唇は一層形良くピンクに染まる。

「素晴らしいわ! こんなにすぐに美貌が増して・・・・・・私ってば、女神様を超えたんじゃないかしら? 美神も嫉妬するほどの麗しさよ」

 その美貌は三日ほど続いた。ところが、四日目になると以前のような状態に戻り、五日目になると前よりも明らかに冴えない顔になっていた。顔自体がすさまじく変貌したわけではないが、ちょっとずつ不細工になった顔のパーツが気になる。
 眉毛がくっつくぐらい濃くなったのに、睫毛はまばらで短くなった。まぶたは腫れぼったく、鼻は存在感が増して横に広がったようだ。唇は少し厚みを増した気がするし、綺麗な歯並びだった自慢の歯は、いつもよりかなり黄ばんで見えた。

「気のせいかしら? 私、劣化した? 全然綺麗じゃないんだけど・・・・・・おかしいわ。きっと、もっと食べれば大丈夫なはず。そうよ、量が足りなかったのよ。もっと、もっと、もっと……」

 エリナは不安と焦りに押し潰されそうになりながら、次第に劣化していく自分の姿に絶望し、絶叫する。

「嘘よ、嘘だわ。こんなの私じゃないわよぉ。なんで、こんなに太っちゃったのぉ」

 魔法の果実をたっぷり食べれば食べるほど美しくなると思っていたエリナ。だが、魔法の果実は恐ろしいほどのカロリーだったのである。


୨୧⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒୨୧

半刻:30分
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

泣き虫令嬢は自称商人(本当は公爵)に愛される

琴葉悠
恋愛
 エステル・アッシュベリーは泣き虫令嬢と一部から呼ばれていた。  そんな彼女に婚約者がいた。  彼女は婚約者が熱を出して寝込んでいると聞き、彼の屋敷に見舞いにいった時、彼と幼なじみの令嬢との不貞行為を目撃してしまう。  エステルは見舞い品を投げつけて、馬車にも乗らずに泣きながら夜道を走った。  冷静になった途端、ごろつきに囲まれるが謎の商人に助けられ──

妹よ。そんなにも、おろかとは思いませんでした

絹乃
恋愛
意地の悪い妹モニカは、おとなしく優しい姉のクリスタからすべてを奪った。婚約者も、その家すらも。屋敷を追いだされて路頭に迷うクリスタを救ってくれたのは、幼いころにクリスタが憧れていた騎士のジークだった。傲慢なモニカは、姉から奪った婚約者のデニスに裏切られるとも知らずに落ちぶれていく。※11話あたりから、主人公が救われます。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

最後に笑うのは

りのりん
恋愛
『だって、姉妹でしょ お姉様〰︎』 ずるい 私の方が可愛いでしょ 性格も良いし 高貴だし お姉様に負ける所なんて ありませんわ 『妹?私に妹なんていませんよ』

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

巻き戻される運命 ~私は王太子妃になり誰かに突き落とされ死んだ、そうしたら何故か三歳の子どもに戻っていた~

アキナヌカ
恋愛
私(わたくし)レティ・アマンド・アルメニアはこの国の第一王子と結婚した、でも彼は私のことを愛さずに仕事だけを押しつけた。そうして私は形だけの王太子妃になり、やがて側室の誰かにバルコニーから突き落とされて死んだ。でも、気がついたら私は三歳の子どもに戻っていた。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...