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2 アーサー、王を脅す & ブラック侯爵はカンザス公爵を嫌っていた

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「ルミネ! お前はなにも気にするな。いいか? ここであったことは忘れるのだ。聖女に清めの儀式をしてもらおう。そうすればここで受けた……」

「お兄様。大丈夫ですわ。初めての仕事はこれからでした。ですからその前に命を絶とうとしたのです。汚された後で命を絶っても意味がありませんから……」

「そうか。それならば良かった……お前が生きているだけで私は嬉しいのだ。例えどのような目にあっても生きていればやり直すことも幸せになることもできる」

「はい、私は生まれ変わろうと思いますわ。以前のような世間知らずのお人好しではなく蛇のように狡猾な女に……」

「お前にはずっと純真なままで笑って暮らせるようにしてやりたかった……」
アーサーは悲痛な面持ちで声を絞り出し嘆いたが、ルミネが生きる気力を取り戻したことにはほっとしていた。

(復讐の為でもいい。ルミネが元気になるのなら私はなんでもしてやろう。それが兄としての務めだ)

「では、まず国王陛下のもとにに行かなければな。ルミネも一緒に王宮に行こう」



娼館を後にし王宮へと向かい、今アーサーとルミネは謁見の間にいる。
「アーサーよ。よく無事に帰還したな。余は嬉しいぞ! この国にまた貢献してくれることを期待する」

「その期待には正直応えられないかもしれませんね。陛下は私の妹を助けてくださらなかった。英雄の妹を娼館送りにすることを許すなど国の恥ではないのですか? この国に貢献する価値があるのかいささか疑問に思いはじめております」

アーサーの武人としての腕は超一流、上位魔物を倒せる人間はこの世界ではほんの一握り。その為、アーサーならどの国でも引く手あまたであった。

「む……余は迂闊にもアーサーの妹が娼館送りにまで追いやられていたとは初めて知ったわけで……誠に面目ない……カンザス公爵家の借金は元はと言えば婿のブラック侯爵家の三男が作った借金だよな? ブラック侯爵家の当主に今すぐ謝罪させよう」

「謝罪だけですか? なんの足しにもなりゃしないですね。陛下、私は明日隣国に妹と共に旅立ちますよ。あちらでは国防大臣の空きがあるらしいです。こちらに戻る途中でスカウトされていましてね」

「ストップ。アーサー! わかった、その借金は半分ブラック侯爵家に負担させよう」

「半分? 全額の間違いでしょう? 息子の後始末もできない能なしが侯爵家を名乗るなどおこがましいな。ブラック侯爵家の当主に全額払ってもらいましょう。そもそも入り婿にすぎない侯爵家の三男ごときが我がカンザス公爵家でなにをやりたい放題してくれたんですかね? 利息も含めてきっちり返していただきますよっ!」
ブリザード級の吹雪が背景に見えるほどに憤怒したアーサーに、さすがの国王陛下も青ざめて目を伏せたのである。
その様子をじっと観察していたルミネは、何かを学び取ったようにしきりに頷いていたのだった。




その頃、ブラック侯爵邸の地下室には姿をくらましたはずのヨハンが父親のブラック侯爵とチェスを楽しんでいた。
「父上、また僕の勝ちですね。ところでいつになったら表に出られますかね?」
「そうだな。カンザス公爵令嬢が娼館に行ってから3ヶ月後あたりでいいだろう。どうせあのお花畑のお嬢様はそこまでもたない。気が狂うか自殺するさ。その後にお前は手足に包帯でも巻いて現れればいいさ。怪我をして記憶喪失になっていきなり戻ってきた人間のふりをすればいい」

「あっははは。小説によくありますよねぇ。だけど、それは英雄とか勇者と呼ばれる男が突然戻ってくるからかっこいいのですよ。僕も魔物討伐とか行って勲章をもらいたかったなぁ。ルミネの兄は勲章をもらって英雄だ、勇者だ、と騒がれていましたよね? あれは羨ましかったなぁ。もっとも、死んでしまっては意味がありませんけどね」

「カンザス公爵家の男はほんとに優秀な美形ばかりさ。むかつくぐらいな! あの亡くなったカンザス公爵もいけ好かない奴だったわい。若い頃から人気があってなぁ。わしの憧れの君をいとも簡単に妻にしおって……そう、そう。息子のアーサーもいくら英雄と謳われても死んじまったら何にもならんわい」

「くっくっくっく。今や、その愛娘は娼婦に落ちて家は没落。どうです? 今日の酒は旨いですか?」

「あぁ、最高だよ。カンザス公爵家の当主夫妻が死んでからずっとわしは絶好調だ」
ブラック侯爵はつかの間の天国を味わっていた。彼らはアーサーが生きており無事帰還するなど思いもしなかったのだった。


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