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誰もダン様の言葉に名乗り出ないところを見ると、貴族ではなくて使用人か市井の平民を雇ったのかもしれない。だとすれば、首謀者が口を割らない限りその男性は捕まらない。
「私はキャリー様がビアンカ様の扇子を持ち出したと思うわぁーー。それでお姉様の真似をして、昨日の舞踏会に出席した気がするのよねぇ。だって、キャリー様は虚言癖があってお姉様の真似をしたり、ドレスを交換するのが大好きだという噂を聞いたことがありますもの」
ストロング侯爵夫人が独り言のようにおっしゃった。
「そんなことありません。私は嘘なんて一度だってついたことはないです」
キャリーは図星だったようで、顔を真っ赤にして必死に否定する。
そこにコーナ公爵夫人がキャリーを追い詰めにかかった。
「その仮面舞踏会にそもそもビアンカ様が行けるはずがないのです。ビアンカ様はその夜会の時間、コルデリアと一緒にいたのですから」
「その通りです。チェルシもプリース侯爵家にお泊まりに呼ばれていましたからね。戻って来たのは今日の午前中だったかしら? そういえば、先日のキャリー様は一日中体調が悪くてお部屋に引きこもっていらしたのですって? プリース侯爵家に着いてから帰るまで会うことも無かったと、チェルシが言っていましたが。お部屋にずっといらっしゃったことを証明できる方はいますか? もちろんキャリー様の専属侍女などではいけませんよ。使用人はいつでも主人の有利に発言しますからね」
とストロング侯爵夫人。
「お姉様! つい数日前にコーナ公爵家にパジャマパーティに行ったばかりでしょう? なぜそんなにすぐに、プリース侯爵家にご招待したのですか? それに私はそんなお話しは聞いていないです! なぜ、それを先におっしゃってくださらなかったのよ!」
「友人をパジャマパーティに誘ったことを、なぜキャリーに報告しなければいけないの? あなただって、私になにも言わず友人を誘ったりしているでしょう? それにパジャマパーティは、親友の場合はお返しにすぐにお招きするのが礼儀だとも聞きました」
「さて、誰が嘘つきかはもう充分わかったでしょう。つまり、その扇子を持ち出して姉の真似ができるのはキャリー様だけなので、キャリー様がビアンカ様の真似をして男性に抱きついたのですわ」
とコーナ公爵夫人。
「妹と姉の婚約者で結託して、姉を貶めるなんて恐ろしい人達ね? 性根をたたき直すべきですわ。ヒース様は国境を守る第4騎士団に入団し、性根をたたき直すべきです」
とストロング侯爵夫人。
「キャリー。いくら妹でもやって良いことと悪いことがあります。これはちょっとした悪戯では済まされないわ。私はお母様にキャリーの修道院行きを勧めますわ。あなたは5年ほどそこで反省するのです」
私は姉として妥当な罰を申し渡したと思う。
「5年? 嫌よ、嫌。半年か1年で勘弁してよ。5年って長すぎるわ・・・・・・あんまりよ」
お母様が静かにこちらに近づき、私に首を振る。
「5年など甘いですよ。キャリーは一生そこで過ごしなさい。隣国の王太子殿下まで巻き込んだのですよ? 死罪でないだけありがたいと思いなさい。ここできっちりケジメをつけさせないと、この場は収まりませんよ」
お母様は私に微笑み、キャリーには憐れみの視線を向けただけだ。
キャリーはその場に泣き崩れて、ヒース様は呆然としていた。後に、ヒース様は罰として第4騎士団に所属させられる。極寒の北側国境を守る騎士団は、ほとんどの者が犯罪を犯している素行の良くない乱暴者の集まりだという。ヒース様が果たしてそのようなところで生きていけるのかは不明だけれど・・・・・・緑髪の男性は、市井の若者をヒース様が雇ったこともわかり、その若者も第4騎士団に放り込まれた。
私の復讐は終わった。けれど気に掛かることがひとつ。副執事のグレイソンがプリース侯爵家を去るというのだ。
「お嬢様、短い間でしたがお世話になりました。お元気で」
グレイソンの右手は相変わらず動かないままのようだ。右手なんて動かなくても、この仕事には支障がないはずなのに、なぜ辞めてしまうのだろう? でも、よく見ると足も引きづっているのがわかった。
がっかりした思いを抱えてしょげていると、下令のグリフィンが笑った。
「あいつはお嬢様が好きだったようですよ。身分違いの叶わない恋ですからね。彼の家が没落する前ならいいお相手になったでしょうが、今やお嬢様はコーナ公爵夫人の次男マーロン様に交際を申し込まれていらっしゃるでしょう? ストロング侯爵家のダン様も次男イヴァーノ様に爵位継承権を譲り、こちらに婿入りしたいなどというありがたいお話しをいただいております。身近にいて、お嬢様が結婚する姿を見るのは辛いでしょう。好きにさせてあげてください」
私はそんなことに少しも気がつかないで、引き留めようとしていた。ここは黙って行かせてあげるべきなんだ。
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
次回最終回です。なぜ時間が巻き戻ったのかが明かされます。それからビアンカが結婚して幸せな様子もでてきます。
「私はキャリー様がビアンカ様の扇子を持ち出したと思うわぁーー。それでお姉様の真似をして、昨日の舞踏会に出席した気がするのよねぇ。だって、キャリー様は虚言癖があってお姉様の真似をしたり、ドレスを交換するのが大好きだという噂を聞いたことがありますもの」
ストロング侯爵夫人が独り言のようにおっしゃった。
「そんなことありません。私は嘘なんて一度だってついたことはないです」
キャリーは図星だったようで、顔を真っ赤にして必死に否定する。
そこにコーナ公爵夫人がキャリーを追い詰めにかかった。
「その仮面舞踏会にそもそもビアンカ様が行けるはずがないのです。ビアンカ様はその夜会の時間、コルデリアと一緒にいたのですから」
「その通りです。チェルシもプリース侯爵家にお泊まりに呼ばれていましたからね。戻って来たのは今日の午前中だったかしら? そういえば、先日のキャリー様は一日中体調が悪くてお部屋に引きこもっていらしたのですって? プリース侯爵家に着いてから帰るまで会うことも無かったと、チェルシが言っていましたが。お部屋にずっといらっしゃったことを証明できる方はいますか? もちろんキャリー様の専属侍女などではいけませんよ。使用人はいつでも主人の有利に発言しますからね」
とストロング侯爵夫人。
「お姉様! つい数日前にコーナ公爵家にパジャマパーティに行ったばかりでしょう? なぜそんなにすぐに、プリース侯爵家にご招待したのですか? それに私はそんなお話しは聞いていないです! なぜ、それを先におっしゃってくださらなかったのよ!」
「友人をパジャマパーティに誘ったことを、なぜキャリーに報告しなければいけないの? あなただって、私になにも言わず友人を誘ったりしているでしょう? それにパジャマパーティは、親友の場合はお返しにすぐにお招きするのが礼儀だとも聞きました」
「さて、誰が嘘つきかはもう充分わかったでしょう。つまり、その扇子を持ち出して姉の真似ができるのはキャリー様だけなので、キャリー様がビアンカ様の真似をして男性に抱きついたのですわ」
とコーナ公爵夫人。
「妹と姉の婚約者で結託して、姉を貶めるなんて恐ろしい人達ね? 性根をたたき直すべきですわ。ヒース様は国境を守る第4騎士団に入団し、性根をたたき直すべきです」
とストロング侯爵夫人。
「キャリー。いくら妹でもやって良いことと悪いことがあります。これはちょっとした悪戯では済まされないわ。私はお母様にキャリーの修道院行きを勧めますわ。あなたは5年ほどそこで反省するのです」
私は姉として妥当な罰を申し渡したと思う。
「5年? 嫌よ、嫌。半年か1年で勘弁してよ。5年って長すぎるわ・・・・・・あんまりよ」
お母様が静かにこちらに近づき、私に首を振る。
「5年など甘いですよ。キャリーは一生そこで過ごしなさい。隣国の王太子殿下まで巻き込んだのですよ? 死罪でないだけありがたいと思いなさい。ここできっちりケジメをつけさせないと、この場は収まりませんよ」
お母様は私に微笑み、キャリーには憐れみの視線を向けただけだ。
キャリーはその場に泣き崩れて、ヒース様は呆然としていた。後に、ヒース様は罰として第4騎士団に所属させられる。極寒の北側国境を守る騎士団は、ほとんどの者が犯罪を犯している素行の良くない乱暴者の集まりだという。ヒース様が果たしてそのようなところで生きていけるのかは不明だけれど・・・・・・緑髪の男性は、市井の若者をヒース様が雇ったこともわかり、その若者も第4騎士団に放り込まれた。
私の復讐は終わった。けれど気に掛かることがひとつ。副執事のグレイソンがプリース侯爵家を去るというのだ。
「お嬢様、短い間でしたがお世話になりました。お元気で」
グレイソンの右手は相変わらず動かないままのようだ。右手なんて動かなくても、この仕事には支障がないはずなのに、なぜ辞めてしまうのだろう? でも、よく見ると足も引きづっているのがわかった。
がっかりした思いを抱えてしょげていると、下令のグリフィンが笑った。
「あいつはお嬢様が好きだったようですよ。身分違いの叶わない恋ですからね。彼の家が没落する前ならいいお相手になったでしょうが、今やお嬢様はコーナ公爵夫人の次男マーロン様に交際を申し込まれていらっしゃるでしょう? ストロング侯爵家のダン様も次男イヴァーノ様に爵位継承権を譲り、こちらに婿入りしたいなどというありがたいお話しをいただいております。身近にいて、お嬢様が結婚する姿を見るのは辛いでしょう。好きにさせてあげてください」
私はそんなことに少しも気がつかないで、引き留めようとしていた。ここは黙って行かせてあげるべきなんだ。
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次回最終回です。なぜ時間が巻き戻ったのかが明かされます。それからビアンカが結婚して幸せな様子もでてきます。
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