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15 ベラの因果応報的末路 ベラ視点

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 私は夫の犯罪など知らないと、とぼけてみたがそれは通用しなかった。シーヴァ様の殺人事件には関わっていなくとも、その後のビアス侯爵家を我が物にしようとした罪が科せられたのよ。

 ビアス侯爵家からは追い出され、贅沢なドレスや宝石は取り上げられた。今までの人生で働いたことなどない私に、国王陛下の判決は酷かった。

「ベラ、お前は過去の行いに対する償いの一環として、下級騎士宿舎の洗濯メイドとしての職務に就くことを命じる。お前の行動がこの王国における罪悪からの贖罪となり、新たな始まりを切り開くだろう。これはお前にとっての機会でもある。誇りを持って、務めを果たすが良い」

 ちょっと、なんで、私がそんな仕事をしなければならないの? 誇りなんて持てるわけないじゃない。

 それからの私は毎朝早くから川岸に立ち、冷たい水を使って洗濯を始める。寒い冬の朝、川の水は氷のように冷たく、その中に手を突っ込むことは非常に辛いことだった。手は瞬く間に冷たさでしびれ、しばしばあかぎれができ、血が滲み出す。

 衣類を洗うためには手でこすり洗いを行う必要があったし、大量の衣類を扱うため、腕と背中の筋肉はいつも緊張し、痛みが絶えない。また、日が暮れるまでの時間が非常に限られているため、仕事は忙しさを極め時間のプレッシャーで押しつぶされそうだった。

 特に騎士達は厳しい訓練もするので、彼らの服は汚れや汗の臭いがひどく、それを取り除くのは容易ではなかった。騎士の鎧は重く、戦闘中には激しい汗をかく。その鎧を洗うのも私の仕事だった。そこには騎士の汗と泥がこびりついており、これを取り除く作業は非常に骨の折れるものだった。泥汚れが頑固で何度も洗う必要があり、私の手はガサガサになっていった。

 また、騎士が戦闘で傷ついた際、その衣類に血や泥が付着することがあり、それらの汚れを取り除く仕事も、私たち洗濯メイドたちに課せられていた。血のシミはなかなか落ちず、聖なる漂白の薬を使うと、手がヒリヒリした。

 衣類の手入れや補修も、私たちにとって重要な仕事だった。

 それに、洗濯メイドたちは下級の女性であり、騎士と比べて社会的地位が低かったため、私の労働はしばしば見過ごされたり、全く評価はされなかった。
 
 ずっと一生死ぬまで洗濯メイドでいろ、と国王陛下はおっしゃった。老婆になっても、身体が動いて洗濯できるうちは、この重労働は続くんだ・・・・・・

 かつての麗しいドレスと華やかな夜会が、今や汚れた衣類と川岸での労働に置き換わり、その対照が私を苦しめる。

 ビアス侯爵家の壮麗な庭園では花々が咲き誇り、私は美しいドレスをまとってダンスを楽しんだ。しかし、今では汚れた水の中で布をこすり、泥にまみれた服を取り扱う日々。

 私の手はあかぎれになり、背中は痛み腰も徐々に曲がってきた。華やかな美貌だった私は、汚れや泥の中で色褪せ、私の存在は生きながらにして朽ち果てていく。

 私の父母や親しい友人たちは、私の転落を嘆き悲しむこともなく、私は孤独に囲まれている。ビアス侯爵夫妻を事故死させた大罪人の妻として扱われ、私の声は誰にも届かない。

 なぜ、あの時に夫を止めなかったのだろう。手に入らないものをずっと追い求めて、最終的に私が得たものは、奴隷のような暮らしだった。


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※ベラのざまぁはここまでです。 

※ 聖なる漂白の薬:今でいう漂白剤。
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