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13 モロー家を訪ねるフィリップ
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翌日、ロザンヌが学園に行くと、フリップは欠席していた。
「フィリップ殿下はしばらくお休みされるそうです」
アメリーはそれだけ言うと、いつものように授業を始める。休み時間になると、マルガレータとジョアナがロザンヌの席にやって来た。
「フィリップ皇太子殿下が休むなんて驚きましたわね? 昨日は元気そうだったのに」
「ロザンヌ様の身体の具合はどう? 昨日はフィリップ皇太子殿下も心配して、授業が終わってから、すぐにワイアット男爵家に向かったようですけど。授業のノートを持って行くっておっしゃっていたわ。お会いになりました?」
「いいえ。そのような話はまったく聞いていませんわ。屋敷に戻ってからは、ずっと寝ておりましたので。トワイラお母様もなにもおっしゃりませんでした」
「だったら、ワイアット男爵家に行かなかったのかもしれませんわね。なんにしても、ご病気でないと良いのですが」
「もともと、フィリップ皇太子殿下はネーブ王国に半年間だけ滞在なさる予定だったでしょう? もしかしたら、その予定が早まったのかもしれませんわ」
ロザンヌはこのままフィリップが登校しなければいいと願う。顔を見れば切なくなり、悲しい気分になってしまうから。
(私のことを好きだとおっしゃってくださった。私もフィリップ皇太子殿下が好きだから、とても嬉しかった。でも、こんなに恋しい気持ちが募る方とは一緒になれない。だって、フィリップ皇太子殿下には、ハーレムを持つ未来があるのだもの。私は大勢の妃のひとりになる勇気なんてないのよ。自分だけを選んでほしいのだもの)
ロザンヌは先の不安な恋よりも、もっと安定した恋がしたいと思った。自分の両親たちのように、お互いが唯一無二の存在になりたかったのだ。
昼休みになると、フィリップの代わりにランチのメンバーにローマンが加わるようになった。やたらとローマンがロザンヌに絡んでくるので、ほとほと困ってしまう。
「ローマン殿下。ここで私たちと一緒にランチを食べている場合ではないでしょう? 婚約者のエメリ様と一緒に召し上がるべきですわ」
「いいのだよ。エメリ嬢に言ったら快く賛成してくれた。だから、私たちは公認の仲になれる」
「公認の仲? そんなものになりたくありません」
「いいから、いいから。恥ずかしがらないで」
いよいよ我慢ができなくなったロザンヌは、エメリに会いにいくことにした。放課後、二年生の教室に行くと、エメリは待っていたかのように姿を現した。
「遅いじゃないの。やっと、私を責めにきたのね? さぁ、私に虐められていると大きな声で叫びなさい!」
こちらはワイアット男爵領にあるミッシェルの大邸宅である。
「奥様。フィリップ皇太子殿下がお会いしたいと、こちらにいらっしゃっています」
執事は冷静な面持ちで、ミッシェルも特に慌てる様子はなかった。この大邸宅には諸外国の尊い身分の方々が頻繁に来訪する。皇太子殿下と聞いてもなんら臆することなく、ミッシェルはサロンにフィリップを案内させた。
「フィリップ皇太子殿下、ようこそ、モロー家にお越しくださいました。常々、ロザンヌには良くしてくださり、感謝しております。それで、本日はどういった御用向きでしょうか?」
「本日は、相談したいことがあって、こちらに来ました。実のところ、私はロザンヌ嬢のことが好きなのです。ロザンヌ嬢も私を好きだと言ってくれました。ですが、『住む世界が違う』と言われて、ずっと避けられています。なにか、ロザンヌ嬢から聞いていませんか?」
「いいえ、なにも聞いておりませんわ。このように、私はロザンヌとは遠く離れて暮らしておりますからね。頻繁に手紙はきますが、そのような話はまったく聞いていないのですよ。トワイラなら、なにか聞いているかもしれません。」
フィリップはトワイラに言われたことをそのまま伝えた。
「あら、まぁ。トワイラがそんなに怒るなんて。やはり、フィリップ皇太子殿下は、なにかしてしまったのですわ。いったい、なにがあったのかしら? また、私も王都に行かねばならないようですね。愛娘の一大事と思いましたよ。好きなのに『住む世界が違う』だけで諦めるような子ではありませんからね」
「帝国は実力主義です。私の妃がロザンヌ嬢であっても、誰も異を唱える者はいないでしょう。父上も賛同してくださるはずです。私の母上は貴族ではなく、モロー商会と同じように大商人の娘でしたので」
「まぁ、だったら、ロザンヌも苦労しなくて済みそうですわね。私はロザンヌの幸せだけを考えておりますのでね。あの子には私と同じように、幸せな恋愛結婚をさせてあげたいのですよ」
「それは賛成です。父上と母上も恋愛結婚でした。ずっと仲睦まじく暮らしています」
「奥様、お話しの最中に、申し訳ございません。ロザンヌお嬢様からお手紙が届きました」
執事が恭しく入ってきて、手紙をミッシェルに差し出す。
「もしかしたら、フィリップ皇太子殿下のことが書いてあるかもしれませんね。読ませていただきますので、しばらくお待ちになって・・・・・・あら、まぁ、なるほどね。・・・・・・そういうことでしたか。確かに、これでは『住む世界が違う』と思うでしょうね」
「えっ? いったい、どういうことですか?」
「問題はハーレムですわよ! 到底、ロザンヌが我慢できることではありません。フィリップ皇太子殿下、どうか、ロザンヌのことはそっとしておいてくださいませ。今のあの子は、必死にあなたを忘れようとしているのですよ」
「ハーレム? あぁ、あのハーレムのことですか? あれは、何の問題もありません。実際、あれは・・・・・・」
「フィリップ殿下はしばらくお休みされるそうです」
アメリーはそれだけ言うと、いつものように授業を始める。休み時間になると、マルガレータとジョアナがロザンヌの席にやって来た。
「フィリップ皇太子殿下が休むなんて驚きましたわね? 昨日は元気そうだったのに」
「ロザンヌ様の身体の具合はどう? 昨日はフィリップ皇太子殿下も心配して、授業が終わってから、すぐにワイアット男爵家に向かったようですけど。授業のノートを持って行くっておっしゃっていたわ。お会いになりました?」
「いいえ。そのような話はまったく聞いていませんわ。屋敷に戻ってからは、ずっと寝ておりましたので。トワイラお母様もなにもおっしゃりませんでした」
「だったら、ワイアット男爵家に行かなかったのかもしれませんわね。なんにしても、ご病気でないと良いのですが」
「もともと、フィリップ皇太子殿下はネーブ王国に半年間だけ滞在なさる予定だったでしょう? もしかしたら、その予定が早まったのかもしれませんわ」
ロザンヌはこのままフィリップが登校しなければいいと願う。顔を見れば切なくなり、悲しい気分になってしまうから。
(私のことを好きだとおっしゃってくださった。私もフィリップ皇太子殿下が好きだから、とても嬉しかった。でも、こんなに恋しい気持ちが募る方とは一緒になれない。だって、フィリップ皇太子殿下には、ハーレムを持つ未来があるのだもの。私は大勢の妃のひとりになる勇気なんてないのよ。自分だけを選んでほしいのだもの)
ロザンヌは先の不安な恋よりも、もっと安定した恋がしたいと思った。自分の両親たちのように、お互いが唯一無二の存在になりたかったのだ。
昼休みになると、フィリップの代わりにランチのメンバーにローマンが加わるようになった。やたらとローマンがロザンヌに絡んでくるので、ほとほと困ってしまう。
「ローマン殿下。ここで私たちと一緒にランチを食べている場合ではないでしょう? 婚約者のエメリ様と一緒に召し上がるべきですわ」
「いいのだよ。エメリ嬢に言ったら快く賛成してくれた。だから、私たちは公認の仲になれる」
「公認の仲? そんなものになりたくありません」
「いいから、いいから。恥ずかしがらないで」
いよいよ我慢ができなくなったロザンヌは、エメリに会いにいくことにした。放課後、二年生の教室に行くと、エメリは待っていたかのように姿を現した。
「遅いじゃないの。やっと、私を責めにきたのね? さぁ、私に虐められていると大きな声で叫びなさい!」
こちらはワイアット男爵領にあるミッシェルの大邸宅である。
「奥様。フィリップ皇太子殿下がお会いしたいと、こちらにいらっしゃっています」
執事は冷静な面持ちで、ミッシェルも特に慌てる様子はなかった。この大邸宅には諸外国の尊い身分の方々が頻繁に来訪する。皇太子殿下と聞いてもなんら臆することなく、ミッシェルはサロンにフィリップを案内させた。
「フィリップ皇太子殿下、ようこそ、モロー家にお越しくださいました。常々、ロザンヌには良くしてくださり、感謝しております。それで、本日はどういった御用向きでしょうか?」
「本日は、相談したいことがあって、こちらに来ました。実のところ、私はロザンヌ嬢のことが好きなのです。ロザンヌ嬢も私を好きだと言ってくれました。ですが、『住む世界が違う』と言われて、ずっと避けられています。なにか、ロザンヌ嬢から聞いていませんか?」
「いいえ、なにも聞いておりませんわ。このように、私はロザンヌとは遠く離れて暮らしておりますからね。頻繁に手紙はきますが、そのような話はまったく聞いていないのですよ。トワイラなら、なにか聞いているかもしれません。」
フィリップはトワイラに言われたことをそのまま伝えた。
「あら、まぁ。トワイラがそんなに怒るなんて。やはり、フィリップ皇太子殿下は、なにかしてしまったのですわ。いったい、なにがあったのかしら? また、私も王都に行かねばならないようですね。愛娘の一大事と思いましたよ。好きなのに『住む世界が違う』だけで諦めるような子ではありませんからね」
「帝国は実力主義です。私の妃がロザンヌ嬢であっても、誰も異を唱える者はいないでしょう。父上も賛同してくださるはずです。私の母上は貴族ではなく、モロー商会と同じように大商人の娘でしたので」
「まぁ、だったら、ロザンヌも苦労しなくて済みそうですわね。私はロザンヌの幸せだけを考えておりますのでね。あの子には私と同じように、幸せな恋愛結婚をさせてあげたいのですよ」
「それは賛成です。父上と母上も恋愛結婚でした。ずっと仲睦まじく暮らしています」
「奥様、お話しの最中に、申し訳ございません。ロザンヌお嬢様からお手紙が届きました」
執事が恭しく入ってきて、手紙をミッシェルに差し出す。
「もしかしたら、フィリップ皇太子殿下のことが書いてあるかもしれませんね。読ませていただきますので、しばらくお待ちになって・・・・・・あら、まぁ、なるほどね。・・・・・・そういうことでしたか。確かに、これでは『住む世界が違う』と思うでしょうね」
「えっ? いったい、どういうことですか?」
「問題はハーレムですわよ! 到底、ロザンヌが我慢できることではありません。フィリップ皇太子殿下、どうか、ロザンヌのことはそっとしておいてくださいませ。今のあの子は、必死にあなたを忘れようとしているのですよ」
「ハーレム? あぁ、あのハーレムのことですか? あれは、何の問題もありません。実際、あれは・・・・・・」
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