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番外編

17  閑話ーその3 こずえの夫視点 / こずえ(妻)視点     

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  ꕤ୭* 夫視点

 妻が水道水を売っていたことは知らなかった。あの霊水を近所の人に、アイスぐらいの値段で分けてあげているとしか聞いていない。

 俺は一流企業ではないが地元ではそこそこの会社に勤めており、役職にもついている。3人の子供も元気に育っているし妻は専業主婦だった。



「詐欺を働かなきゃいけないほど、お金に困らせていないはずだぞ!」
 俺は妻に拘置所で面会するなり怒鳴った。

「だって、これから子供の教育費もかかってくるし、私だっていろいろ考えていたのよ! 少しでも子供の為にお金を稼いで良い学校にいれないといけないって・・・・・・」
 妻は子供の為と言うけれど、それは表向きの話だ。

「知っているんだよ。お前のクローゼットの奥がブランド物のバッグばかりだって。お前が逮捕されてから不審に思ってお前の部屋を隅々まで見たらさ、でてくる、でてくる。いろんなものがなっ!」

 子供が3人もいるのに妻のクローゼットにはブランド物の他にも、怪しいものがいっぱいあった。いつ着るんだよ? と疑問に思うほどのセクシーな下着。派手なワンピースに高価なコート。俺と出かける時にはけっして着ることのなかった服の山。 

 バッグの中を覗き込むと、ホストクラブの名刺が何枚も入っていた。膝から崩れ落ちて、詐欺にはしった動機が腑に落ちた。そりゃ、お金はいるよな。若い男に貢いで金持ちのマダムの振りをするのなら、水でもなんでも売りたくなるよな。

「離婚だ! 子供は俺が引き取る。お前が出所しても帰る家はないぞ! お前の実家の両親も縁を切るそうだ」

 そう言い捨てると、俺は振り向くことなくその場を後にした。なにがいけなかったのかわからないよ。仕事で忙しかったし出張も頻繁にあって構ってはやれなかったが、それは家族を養う為で遊んでいたわけじゃない。

 俺は家に帰って妻の物を何日もかけて処分していく。この家は売って俺は引っ越すつもりだ。こんな大きな事件になっては、とてもここには住んでいられない。


ꕤ୭*妻視点


 なんで人のクローゼットを見るのよ! 夫婦であってもそこにはプライバシーがあるじゃない! それにお金がおもしろいように入ってきたから、少しお買い物しただけでホストクラブはちょっとした悪戯心だ。

 そこに行けばお姫様になれて若い男がちやほやしてくれる。おもしろいゲームと同じ虚構の世界だが、楽しくてつい夫の出張のたびに通ってしまった。

「うわぁーー! ゴージャスなお姉様が来てくれて光栄です! もしかして会社経営でしょ? どう見ても女社長だもん」
 そんなふうに言われてついその気になり大盤振る舞いしたら、女王様のようにかしづかれた。男達全てが私にペコペコして、綺麗な顔の男もスタイル抜群の男も全てがお金で思い通りになる。

 お金は正義で神様なのよ! だから買ってくれる人がいる以上、水を売ってお金を手に入れるのは当然のことだ。『病は気から』って言うじゃない? これを飲んだり塗ったお陰で身体が改善したのなら、それは良くなるっていう思い込みがさせた奇跡なのよ。つまり、私が水を売ってあげたお陰じゃない!

 なのに、なんで罪になるのよ? おかしいわよ。それから、なぜ離婚されるの? ちょっと気分転換しただけだ。夫と子供は別枠で大事な家族だから捨てるつもりはなかった。家族は私が帰るべき場所でそこは聖地だ。でも若い男はまた別な存在で、私を女として輝かせてくれるビタミン剤のようなもの。

 
ーー私は悪くない!! 少しも悪くないはずだ・・・・・・








 けれど、私は離婚され刑務所にいる。夫も子供もいなくなって・・・・・・実家の親兄弟にも縁を切られた。もちろん、あの若い男達も遠ざかっていった。

 3年後、出所した私に世間の風は冷たい。私のいる場所はもうどこにもないのだった。
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