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番外編

5 莉子ちゃんの恋ーその2(莉子ちゃん視点)

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 それから月日が流れて私達が再会したのは、礼子さんのお葬式の時だった。あれから4年弱経っていて、その間は暖君と二人っきりで会うことは一回もなかった。

 紬ちゃんは思いのほかしっかりとしていて、それは寄り添って立つ柊君にしっかり守られているからなのかもしれない。啓吾先生や真美さん、健一さん、聡子さんも皆紬ちゃんを気遣っていた。ただ、お祖母ちゃんの菊名さんは子供の礼子さんに先立たれた悲しみで終始泣いていて、紬ちゃんが逆に慰めていた。

 

 その頃の私は、いっぱしの洋食とスイーツの料理人としてかなり有名になっていた。それはお父さんのマドレーヌポプリンの名前のお陰でもあるし、兄が心春さんと結婚しヤマダパンを大きく立て直し改造、敷地もひろげてイタリアンがメインな多国籍料理のレストランを始めたことも大きい。

「本格的なイタリアンだけれど、その日の気分でいろんな料理も出すつもり。つまり創作料理ってやつだよなぁ。俺は東京で俺の世界を築きあげてオヤジよりビッグになってやるぜ!」

 兄はその宣言通りにたちまち有名になり、私もその恩恵に預かった。有名な兄と父の14光りと言われないように日々精進して、相変わらずの忙しい日々を過ごしていたが、最近のマドレーヌポプリンは月曜日の他に隔週で火曜日も定休日になった。

 連休はずっと営業するが連休明けはそのぶん余計に休むようにもなった。きっちり休みをとりメリハリをつけて働くほうが効率がいいと私が言ったからだ。固定客はいるしますます有名になったマドレーヌポプリンには、ここに来る為だけに時間や曜日を調整してくださるお客様が多い。がむしゃらに営業するより、スタッフ全員がほどよく休みをとったほうが気持ちよく働けるのだ。


 そんな矢先の再会・・・・・・終わった恋よ、こんにちわってかんじだった。

 
「元気だった?」
 暖君にまるで昨日も会ったかのように、にっこり笑って聞かれた私。

「もちろんだよ、暖君は?」

「うん、元気だ。ところでさ、僕見たい映画があるんだけれど、一緒に行かない?」

「うん、でも月曜か隔週の火曜日じゃないと私は無理だよ」

「いいさ、夕方からでもいい?」

「オッケー。その方が助かるかも。休みの日って少し寝坊したいからね」

 私もちょうど見たかった映画だったから行く約束をした。
それから簡単な近況を報告しあい、暖君の最近の趣味はバイクだと知った。

「大型のバイクを友人から安く譲ってもらってさ、それからは時間があればバイク仲間とツーリングして綺麗な景色を写真で撮ってるよ。最高に気持ちいいんだ!」

「へぇーー。すごいねぇ。夏とかなら気持ち良さそうだね」

「うん。莉子ちゃんも良かったら後ろに乗せてあげるよ」

「ふふふっ。そうだねぇ」

 会話が昔より弾むのはなんでかな? バイクで行った先々で食べた料理の話がでると私も自然と身体が乗り出した。

「海のほうに行くと必ず寄る漁師料理の店があってさ、そこの・・・・・・」

ーー私は洋食のプロだけれど、実はお寿司やお刺身は大好物だ。

「はぁーー、いいなぁーー」

 感心しながら羨望のため息をついた私に、

「休みを合わせて行こうよ? まだ、僕学生で今は『臨床実習』してるとこなんだよ。月に一回ぐらいなら日帰りで行けるとこなら・・・・・・」

「え? ホントに? 土日でも月に一回ぐらいなら抜け出せそうだよ。食べ歩きは料理の勉強にもなるんだ! いろんな経験が料理の幅を広げるってお父さんも言っていたし」

「変わったね・・・・・・前は土日なんて絶対会えないし、月曜日だけが休みだったよね?」

「うん、あの頃は必死だった。でも今は休みをとるのも大事だし、料理は人生の中心だけれど他にも楽しみがあって良いって思うようになったよ。気持ちに余裕ができたのかな」

「そっか、今じゃぁ、雑誌に顔ものる有名人だもんなぁ」

「えへへ。ありがとぉ」
 心地よい風が私達の頬や腕を優しく撫でた。紬ちゃんは礼子さんは風になった、って言っている。私もそれは感じていた。きっと、風になって私達の人生を応援しているんだよって、そう思えたんだ。



ꕤ୭*



 それから一週間後ぐらいに、時間をあわせて一緒に映画を見にいった。見た映画はアクション映画。帰りには地元でも有名なお寿司屋さん予約してくれていて海の幸を堪能した。

 三日にいっぺんぐらいのラインがき始めて、私もそれに緩く返信するようになった。話題は他愛のないもの。天気の話、食べた物の話。ツーリングに行った日はそこで撮った景色や食べた料理の写メをおくってくれた。

 まるで一緒に旅しているように解説つき。面白いな。綺麗な花も珍しい野鳥も、その都度おくってもらうと、次はどんな写メがくるのかわくわくした。

 そのひと月後には暖君のバイクの後ろに乗る私がいた。バイクで風を切る感覚が爽快で、とっても気持ちが良い!暖君のツーリンググループは男性がほとんどだったけれど女性もほんの少し混じっていた。

「いいなぁ。私も乗れないかなぁ。バイク・・・・・・自分で運転したいな」

 そのひと言で私と暖君の関係も変わった。そう、同じ趣味を持つわかり合える親友に進化したってかんじ? それから、バイクを買って月に一回は私もそこに参加させてもらうようになった。

 そうして半年ほど経ったある日、私は暖君に聞いた。

「最近、10日にいっぺんは会ってるし、ラインはほぼ毎日だけどさぁーー。暖君、彼女に怒られないの?」

「えぇーー? だって、彼女は莉子ちゃんでしょう? 今、付き合っていると思ってたんだけど?」

「ほぇ? あのさぁ、『好き』も『付き合って』も言われてませんが・・・・・・」

「えぇ? 言わなくてもわかると思ってた」

 ほらね? 暖君ってこういうところあるんだよね。

「じゃぁ、まぁ、付き合ってやってもよかろう!」

「あっはは、なんだよ? すっご上から目線。まぁ、いいか。よろしくお願いします。やっぱり、僕には莉子ちゃんしかいないよ」

 私達はどちらからともなく唇を寄せ合った。私の初恋はこうして実った。私はその2年後、暖君のお嫁さんになったんだ。


 つまり、紬ちゃんとは義理の姉妹だよ。やったね! 恋も仕事も友情も、私はぜぇーーんぶ両立してやるよっ!!


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