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番外編
1 ヤマダパンの心春さんの恋ーその1
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私は心春、ヤマダパンの一人娘だ。幼い頃から両親のこの店を継ぎたかった私は、調理師科のある高校にすすみ、さらにもう一年間は専門学校のパティシエ・ブランジェコースに通って、洋菓子やパン作りなどを学んだ。2年ほど他店で修行もしてきていざ継ごうとしたら、店を閉めようと両親が言い出した。
「三件隣のヴィロという有名なパン屋ができてから、売り上げがずっと落ちているんだよ。もうこれ以上は無理だ」
父は悲しそうにため息をついて、母はとても寂しそうにしていた。母はこの町と人間が大好きなのだ。お客様に声をかけ、他愛のない話をしてコミュニケーションをはかることが生き甲斐のようになっているのだ。
――店を閉めさせたくないよなぁ。どうにかしたいけれど、どうにもならないのかなぁ・・・・・・あんなに雑誌でもてはやされているパン屋さんが近くにあったら、売れないに決まっているもんね。
ところが、一人の女性が私達を救ってくれた! 紬という女性で、芸大に通う学生さん。紬さんは、とても綺麗な女性で礼儀正しい。そして、そのお母様はあの有名な画家の『レイコ・ササキ』だった。ともに有名画家親子で、お店に絵まで寄付してくれたのだ。
彼女の大学の仲間や旦那様の友人達が頻繁に買いに来てくれた。なんと彼女は学生結婚をしていて、とてもイケメンの医学生が旦那様だった。温厚な穏やかな青年で、紬さんをとても大事にしていた。
さらにすごいのは彼女が莉子さんという女性に応援を頼んだことだった!
莉子さんのお父さんは有名カフェのオーナーで、そのマドレーヌポプリンは知名度抜群の洋食屋さんだった。その味のファンは全国に散らばっている。観光地にあるお店だが、そこに行ったらまず寄らなくてはと言われる聖地のようなお店なのだ。
マドレーヌポプリンの料理を提供してもらえるという夢のような提案に私達はびっくりした。ヤマダパンにとって、とても有利な条件で契約ができたのは紬さんのお陰だった。なぜなら、その莉子さんは紬ちゃんの大親友だったからだ。
「紬ちゃんの大事にしたいものは私も大事にしたいよ! だから、お父さん、できるだけヤマダパンさんに良い条件にしてあげて! だって大親友の紬ちゃんのお願いなんだ!」
熱心にお父さんに言ってくれた莉子さんの友情はすごいと思う。
その後、何度も紬さんには会っている。お店にパンを頻繁に買いに来てくれるし、私もたまにマンションに遊びに行かせてもらうからだ。しっかりした部分とそうでない部分があるけれど、それをちゃんと自分の個性として受けとめていた。
「絵を描くこと以外は、集中力が分散することがあるんです」と、本人も言っていた。
話していても普通の子と変わらないけれど、たまにずれたような答えが返ってきたり、会話の最中に気が散るのか周りの様子を見入っていることもある。でもそれはほんの一瞬で、また照れたような笑いを浮かべて、こちらに向きなおってくれる。
「私、多動性発達障害ぎみで、ごめんなさい。こうやってお話をしていても、たまに違うことが頭に浮かんじゃう癖があるんです」
「あぁ、そうなんですね。いいえ、全然気にならないですよ」
自分のことを個性的な子と表現し、そんな自分が好きだと言った。
「お話をしている方には悪いと思うけれど、違うことを一瞬考えたり思い浮かんだりするときってね、作品の題材にすごく役立つことが多いんです。うふふ」
「そう、紬ちゃんは天才だからいいんだよ。僕もいろいろ、考え事しちゃうことあるし。最近、映画とか一本見るのも飽きちゃって寝ちゃうし。」
紬さんの旦那様の柊さんは、にっこりしてそう言った。
「あっはは! 私達天才なんだね」
「そう、皆なにかしら才能があって、天才さ!」
そんなかんじで、笑い合う二人はとても素晴らしいと思った。自分の個性と向き合って努力する様子を見たり聞いたりするうちに、心から尊敬できるしすごい子だなって思えた。
そして、そんな紬さんを育てている礼子さんは素晴らしい女性だと思った。紬さんに生い立ちを聞いたときには涙が流れた。
「あのね、こうして心春さんに会えたこともとても嬉しいことなんだよ! こうやって、この個性のお陰で礼子さんに会えて今こうしていることにすっごく感謝しているんだ!」
ーーこの紬さんを私も守りたいと思った。私なんかなんの力にもなれないけれど、この紬さんになにかあったら駆けつけるし、絶対に生涯友人でいる! そう思った。
うちのヤマダパンはたちまち人気店になり、あの有名店べーカリーヴィロは閉店した。私と父はここでパンを焼き、母は楽しそうにパンをお客様に売る。
「今日は良いお天気だねぇーー。今日も、いい一日になりますように!」
微笑みながらパンをお客様に渡すと、お客様が嬉しそうに微笑んでこたえてくれる。
「ありがとう! また買いに来ます!」
「ありがとうございましたぁーー!!」
私と父もお客様にお礼を言うんだ。これって、本当に素敵なことだ。
『ヤマダパンはパンを売るところだけれどパンだけ売ってるわけじゃない』
これは紬さんの絵に添えられた言葉だった。紬さんの絵はますます有名になり『レイコ・ササキ』を遙かに超える画家になるのは、もう少し後のこと。
私が莉子さんの兄の律さんと運命的な出会いをし、恋に落ちるのはちょっとだけ後のことだ。それは・・・・・・
「三件隣のヴィロという有名なパン屋ができてから、売り上げがずっと落ちているんだよ。もうこれ以上は無理だ」
父は悲しそうにため息をついて、母はとても寂しそうにしていた。母はこの町と人間が大好きなのだ。お客様に声をかけ、他愛のない話をしてコミュニケーションをはかることが生き甲斐のようになっているのだ。
――店を閉めさせたくないよなぁ。どうにかしたいけれど、どうにもならないのかなぁ・・・・・・あんなに雑誌でもてはやされているパン屋さんが近くにあったら、売れないに決まっているもんね。
ところが、一人の女性が私達を救ってくれた! 紬という女性で、芸大に通う学生さん。紬さんは、とても綺麗な女性で礼儀正しい。そして、そのお母様はあの有名な画家の『レイコ・ササキ』だった。ともに有名画家親子で、お店に絵まで寄付してくれたのだ。
彼女の大学の仲間や旦那様の友人達が頻繁に買いに来てくれた。なんと彼女は学生結婚をしていて、とてもイケメンの医学生が旦那様だった。温厚な穏やかな青年で、紬さんをとても大事にしていた。
さらにすごいのは彼女が莉子さんという女性に応援を頼んだことだった!
莉子さんのお父さんは有名カフェのオーナーで、そのマドレーヌポプリンは知名度抜群の洋食屋さんだった。その味のファンは全国に散らばっている。観光地にあるお店だが、そこに行ったらまず寄らなくてはと言われる聖地のようなお店なのだ。
マドレーヌポプリンの料理を提供してもらえるという夢のような提案に私達はびっくりした。ヤマダパンにとって、とても有利な条件で契約ができたのは紬さんのお陰だった。なぜなら、その莉子さんは紬ちゃんの大親友だったからだ。
「紬ちゃんの大事にしたいものは私も大事にしたいよ! だから、お父さん、できるだけヤマダパンさんに良い条件にしてあげて! だって大親友の紬ちゃんのお願いなんだ!」
熱心にお父さんに言ってくれた莉子さんの友情はすごいと思う。
その後、何度も紬さんには会っている。お店にパンを頻繁に買いに来てくれるし、私もたまにマンションに遊びに行かせてもらうからだ。しっかりした部分とそうでない部分があるけれど、それをちゃんと自分の個性として受けとめていた。
「絵を描くこと以外は、集中力が分散することがあるんです」と、本人も言っていた。
話していても普通の子と変わらないけれど、たまにずれたような答えが返ってきたり、会話の最中に気が散るのか周りの様子を見入っていることもある。でもそれはほんの一瞬で、また照れたような笑いを浮かべて、こちらに向きなおってくれる。
「私、多動性発達障害ぎみで、ごめんなさい。こうやってお話をしていても、たまに違うことが頭に浮かんじゃう癖があるんです」
「あぁ、そうなんですね。いいえ、全然気にならないですよ」
自分のことを個性的な子と表現し、そんな自分が好きだと言った。
「お話をしている方には悪いと思うけれど、違うことを一瞬考えたり思い浮かんだりするときってね、作品の題材にすごく役立つことが多いんです。うふふ」
「そう、紬ちゃんは天才だからいいんだよ。僕もいろいろ、考え事しちゃうことあるし。最近、映画とか一本見るのも飽きちゃって寝ちゃうし。」
紬さんの旦那様の柊さんは、にっこりしてそう言った。
「あっはは! 私達天才なんだね」
「そう、皆なにかしら才能があって、天才さ!」
そんなかんじで、笑い合う二人はとても素晴らしいと思った。自分の個性と向き合って努力する様子を見たり聞いたりするうちに、心から尊敬できるしすごい子だなって思えた。
そして、そんな紬さんを育てている礼子さんは素晴らしい女性だと思った。紬さんに生い立ちを聞いたときには涙が流れた。
「あのね、こうして心春さんに会えたこともとても嬉しいことなんだよ! こうやって、この個性のお陰で礼子さんに会えて今こうしていることにすっごく感謝しているんだ!」
ーーこの紬さんを私も守りたいと思った。私なんかなんの力にもなれないけれど、この紬さんになにかあったら駆けつけるし、絶対に生涯友人でいる! そう思った。
うちのヤマダパンはたちまち人気店になり、あの有名店べーカリーヴィロは閉店した。私と父はここでパンを焼き、母は楽しそうにパンをお客様に売る。
「今日は良いお天気だねぇーー。今日も、いい一日になりますように!」
微笑みながらパンをお客様に渡すと、お客様が嬉しそうに微笑んでこたえてくれる。
「ありがとう! また買いに来ます!」
「ありがとうございましたぁーー!!」
私と父もお客様にお礼を言うんだ。これって、本当に素敵なことだ。
『ヤマダパンはパンを売るところだけれどパンだけ売ってるわけじゃない』
これは紬さんの絵に添えられた言葉だった。紬さんの絵はますます有名になり『レイコ・ササキ』を遙かに超える画家になるのは、もう少し後のこと。
私が莉子さんの兄の律さんと運命的な出会いをし、恋に落ちるのはちょっとだけ後のことだ。それは・・・・・・
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