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27  結月はもう怖くない / 花火大会

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 柊君や凛さん達と常に一緒にいるようにしても、ちょっとした隙をみつけては結月が話しかけてくる。

「紬! ちょっと、話があるんだけどさぁ。あんた、すごくたくさん洋服を持っているでしょう? 私もお母さんに、ねだったけど一枚も買ってくれないのよ。その×××のブランドの服、ちょっとだけ貸してよ。双子なんだし、いいでしょう? うち、本当にお金に困ってるんだよ。だってお父さんは、こんな田舎の支社に飛ばされたから・・・・・・お母さんはその前からリストラされたし・・・・・・今はアパートで・・・・・・」

「そんなの私には関係ないもん・・・・・・」
 私はそんな話は聞きたくないから、その場を離れようとした。

「ちょっと、待ちなさいよ! 紬のくせに! 絵がちょっと上手いからって生意気なのよ! そんな手なんて怪我して描けなくなればいいのに!」
 私はその言葉に、心底ぞっとして立ち去る足はピタッと止まる。


 その瞬間、ニヤリと結月が顔を歪めて笑った。
 私は結月が怖い・・・・・・洋服なんて、そんなに欲しいものなの?

「うわぉ! えげつない! 結月さんに脅されているのよぉーー? 紬さんが怪我して絵が描けなくなればいいのにだってぇーー!! 結月さんってさぁ、とことん性格悪すぎない?」
 陽葵さんがヌッと結月の背後から顔を出して、大きな声で叫んだ。

「な、なによぉ! 脅してなんかいないわよ。ただ、双子だからブラウスを貸してもらおうとしただけよ。だって姉妹で洋服の借りあいなんて、皆やっているでしょう? 紬はケチすぎなのよ!」

「まぁねぇーー。仲が良い姉妹なら普通だけどさぁ、結月さんと紬さんは、仲が悪いよね?」
 陽葵さんの大声をききつけてやってきた楓さんは、ズバリと言う癖があった。

「ふん! あんた達みたいな他人には関係ないじゃない。これは双子の私達の問題よ!」
 そう言い捨てると、スタスタと去って行く結月。

 そんなに服が欲しいのかな・・・・・・






ꕤ୭*







 家に帰ってお祖母ちゃんに結月の話をすると、
「あぁ、興味もないからどこに住んでいるのか聞きもしなかったね。おおかた都会の出世競争に負けて、飛ばされてきたんだろうって察しはついたし」

「余所の県に飛ばされれば良かったのになぁ・・・・・・迷惑だよな」
 健一叔父さんもボソッとつぶやいた。

「洋服なんて貸す義務ないわよ。貸すっていうより戻ってこないわよ、きっと」
 聡子さんは苦笑しながら、おやつの羊羹を人数分に切り分けていた。

 最近は私が帰ってくると、皆礼子さんの家にいることが多くなった。おやつを食べながらの私の学校報告を皆で聞きたいからなんだって。そういうのって、すごく嬉しい。

「本当にお金に困っているのかな・・・・・・だったら、洋服ぐらいあげてもいいよ。礼子さん、あげてもいいかな?」

「ばかだね! あげることなんかないよ!」
 お祖母ちゃんは、羊羹を一口頬張ってお茶をすすった。

「うん。だけど・・・・・・私はいっぱい買ってもらったから」

「ふっ。あっはは。やっぱり、そんなところも礼子そっくりだよ。お人好しなんだろうね? つい、可哀想になっちゃうのかねぇ? でも、悪いことじゃないよ」
 お祖母ちゃんは、私の顔を目を細めてにこにこして見ていた。

「いいよ。まだ着ていない新品のものをあげようね」
 礼子さんは袖を通していない私の洋服を、綺麗な紙袋にいれてくれたんだ。



ꕤ୭*



 学校の教室でそっとその紙袋を結月に渡すと、
「白いブラウスはいいとしてもさ、このグレーのスカートはもっと綺麗な色が良かったなぁ。今度、買ってもらうときには私のことも考えてよね?」
 そんなことを言いながらも、嬉しそうに手をだす結月を私は複雑な気持ちで見ていた。

 怖いとか、憎いとかは、もう思わない。結月は、私のなかで存在になっていく。






 クラスの仲良しグループはいくつかに分かれていて、私は柊君と一緒で合計8人のグループに入っていた。
 メンバーは凛さん、楓さん、陽葵さんの3人の女の子と、柊君の3人の友人の男子達だ。

 私達は夏休みのテスト前には図書館で一緒に勉強したり、質問しあったりした。

「秀才が仲良しグループにいると、勉強をめっちゃ教えてもらえてありがたやぁーー」
 スポーツ少女の陽葵さんが二カッと笑った。陽葵さんはひょうきんで大柄な、さばさばしたかんじの女の子だ。

 勉強が圧倒的にできるのは柊君と楓さんで、柊君は学年トップで2番が楓さんだった。テストの結果は上位の者だけ廊下に貼り出されるのだ。

 私はなんとか上位の部にはいった。だって、絵しか描けないなんて言われたくなかったし、礼子さんに恥をかかせたくないもん。

「信じらんない・・・・・・出来損ないのくせに」
 ぶつぶつという結月はどこまでも、私が頑張っていることを認めたくないみたい。

 結月ってつくづく可哀想な子だな

 最近はそんな気持ちのほうが強くなる。私とはもう関係ない、ってなんで思えないのだろう? なぜ、そんなにこだわって私につきまとうのかな? 自分も気の合う友人を見つけてそこで幸せを見つければいいことなのに・・・・・・





ꕤ୭*




 待望の夏休み!! 大きな花火大会が車で30分ほどの、とある湖の畔で開催される。そこに柊君一家と莉子ちゃん一家で一緒に行くことになったんだ。会場はすでにチケットを買っていたから場所とりはしないで済んだ。

「わぁーー、すごく可愛い!」

「浴衣をね、今流行の柄で作ってあげたよ」
 お祖母ちゃんが、紫陽花の絵が描かれた浴衣を着せてくれた。

 湖畔に着くと沿道にはたくさんの出店が並び、人もいっぱいだった。誰もが、自分の好きな人達と連れだってくる花火大会ってわくわくする。

「はい、紬ちゃん。ジュース半分こしよう」

「うん!」

 柊君が持参した紙コップにジュースをついでくれた。莉子ちゃんも暖君とコーラを分け合っていた。

「ふふっ。微笑ましいったらないわねぇ。若いっていいわよねぇ」
 真美さんは、私と柊君を見て嬉しそうだった。

「ねぇ、ササキ先生! 私達の将来は安泰ね! お互い、共通の孫を持ってずっと仲良く皆でお出かけしましょうよ」

「えぇ、素敵ね。私もこんなに楽しみなことはないわ! お互い長生きしなきゃね!」
 礼子さんは、空を見上げながらそう言った。 


 私も柊君と空を見上げる。空いっぱいの花火はキラキラのシャワーみたい。あっという間に消えるけれど、すぐにまた新しい花火が空に咲く。

「綺麗だねぇーー。楽しいね」

「うん、綺麗だし、すっごく幸せだね」

 右隣には柊君がいて、左隣に莉子ちゃん。私の前には大好きな礼子さん。もちろん、その周りには律君も暖君もいて啓吾先生も真美さんもいる。莉子ちゃんのお父さんは、見事なお弁当を人数分用意してくれた。

 ドーーン!! 
        ドーーン!!
                ドーーン!!


 山々に響き渡る花火の打ち上がる音は、すごく迫力があった。胸にガッツンってくるかんじ。花火の合間にはスポンサーの説明が入るから、その間にお弁当を食べたりおしゃべりするのも楽しい。

「水中スターマインです」

「これってさぁ、この花火大会の1番の見所だよ」

「わぁーー、すごい! すごい!」

 花火ってすごいよね。空に大きな花を咲かすことを考えた初めの人って天才だと思う。

「この花火の絵も描きたいな。いろんな色を使って、皆で一緒に空を見上げている絵」

 私は幸せがいっぱい詰まった花火大会の絵を、夏休みの自由な課題として描いたのだった。それは、私の大好きな人達が空を見上げて笑っている素敵な絵だった。

 夜空には、大輪の花がたくさん咲き誇り、そのキラキラの光のしずくが頭上に落ちてくる幻想的な絵は、私のお気に入りの一枚になった。

 私が幸せな夏休みを過ごしている一方で、結月が犯罪行為をしていたことなど、この時の私はもちろん知らないのだった。
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