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24 ファーストキス / 高校の入学式
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春休みは短かったけれど、礼子さんと都内にもお出かけした。有名な美術館を三日間ほどかけて見て回る。海外の有名画家に混じって礼子さんの絵も展示されていた。
六本木や渋谷の通りを行き交う人の波はすごい数だ。山に囲まれて穏やかな暮らしに慣れている私には、人間が蟻みたいに見えた。
皆忙しそうに歩いていて、服装もいろいろで表情も違う。頭のなかで考えていることもみんな違って、それでも同じ通りを固まって移動する人々。
「顔は人間で身体が蟻の集団が、スクランブル交差点を歩く絵を描いてみたいなぁ。その蟻さんはね、いろいろな服を着ているんだ」
「あら、それは面白いわねぇ。家に帰ったら描いてみなさい。いろいろアドバイスしてあげるわ」
礼子さんは、にっこりと微笑んだ。
お目当ての美術館では大きなビルのワンフロアにたくさんの絵画を展示していた。色使いや筆のタッチ、一枚の絵を前にして礼子さんと10分は分析して意見を出し合う。私の意見は幼稚でぼんやりしているけれど礼子さんは褒めてくれた。
「この淡い色の透明感が幻想的でしょう? そして、淡い色だけで仕上げる場合もあるけれど、ほら、こっちは右側と左側で色彩がまるで違うわ。右が夢、左が厳しい生活苦の様子らしいの。この時代の人達の生き方がよくわかるでしょう? 可愛らしい夢と厳しい現実・・・・・・この時代は厳格な身分制度と奴隷さえ許された時代よ」
「私、今の日本に生まれて幸せだね?」
「そうだね。そこに描かれている人達の生活を想像して、今の自分に置き換えてみるのも大事だね。絵って、こうやっていろいろな感情を人に与えられるんだよ。見る人によって受ける感覚は違うわ。その人の生き方がそこにでてくるっていうのかなぁーー。だから、面白いし素晴らしい世界よね?」
「うん!」
私と礼子さんは絵画鑑賞の合間にデパートにも行き、たくさんの洋服を買った。
「そんなにいっぱい要らないよ」
「なに言ってるの? これから行く高校は私服よ?」
「だったら、めんどくさくない服がいいな。組み合わせとか考えるのが嫌だもん。制服みたいな服が何枚かあればそれでいいかな」
私がそう言っても礼子さんの服選びは止まらない。仕方ないから礼子さんのいつもの服の色を真似てみた。礼子さんの普段着は、白とベージュとグレーで統一されていたのだ。だから、白とベージュとグレーの服ばかりをとった。
礼子さんは呆れてかわいい空色やレモン色のワンピースを私に試着させた。
「若くてかわいいのに、綺麗な色の服も着なきゃもったいないわよ?」
結局、両手いっぱいの洋服を買い込み、ホテルに戻ると夕方で柊君から連絡がはいる。
「美術館巡りは楽しいかい? 洋服はどんなの買ったの?」
私は自分の洋服を写メに撮っておくった。トップスはほとんどが白。ボトムスはベージュかグレー。色は地味だけれど白いトップスには袖の一部がレースだったり、ふわっとふくらんでいたり、デザインがかわいいものばっかりだった。
他にはパステルカラーの桜色やレモン色、ブルーのワンピースが数着。これは礼子さんが選んでくれたものだ。水玉やチェックのワンピースもあった。買いすぎなんじゃないかな。
中学時代は制服だったから、そんなに服はもっていなかった。ほとんどがジーンズだったのに、高校に入った途端に面倒だなって思った。
「夏なんかTシャツとジーンズだけで良いと思うんだけどさ」
「いや、かわいいワンピースも着てよ。学校にはあんまり可愛いのはやめた方がいいけど、僕とデートする時はそのレモン色のワンピースがいいと思う」
「ふふっ。うん、そうするね!」
親公認の仲の私と柊君は、こうやって毎日連絡しあうようになったのだった。
ꕤ୭*
そして、今日は初めてのデート! まだ春休みの私達は一緒に映画館に行く約束をしたんだ。
「わぁーーすっごい可愛いね。その髪飾りも色があっているし、そのネックレス! 僕が初めてプレゼントしたものでしょう?」
「うん、大事にしてるよ」
「もっと、高いものをプレゼントできるようになるから、待っていて!」
「うん! でもね、紬は欲しいものは自分で手に入れるよ! だって、礼子さんもそうだもん。柊君は一緒にいて励ましてくれるだけで嬉しいんだよ」
「そっか。それでも僕は頑張るよ」
私のファーストキスはこの映画の帰りだった。
「僕ね、紬ちゃんをずっと大事にするね!」
「うん!」
「いいことあったんだね? あの服を褒められたのでしょう?」
家に帰ってニヤニヤとしていると礼子さんがからかってきた。
「うん。可愛い服を着ているねって言ってくれたんだよ。綺麗な服を買ってくれてありがとう!」
「いいのよ。綺麗な服を着てデートすることも女の子の楽しみの一つだからね!」
それ以来、お出かけの時の私の服装はパステルカラーのワンピースが定番になった。これも、礼子さんにそっくりだった。大好きな人とは自然と服の好みも似てくるよね?
『前のお母さん』の好きな色は、もっとはっきりした色だったな。原色に近い色で、目立つデザインを好んでいたような気がする。
ꕤ୭*
高校の入学式、紺の制服っぽい服も買ってもらった私はそれで登校した。礼子さんも来てくれてやっぱり泣いていた。もちろんそれは感動の涙なのだけれど、私はがっかりな涙をこの日、流した。
同じクラスに結月がいて、その隣の席には柊君がなったのだった。
▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃
※ 夜も投稿予定です。
六本木や渋谷の通りを行き交う人の波はすごい数だ。山に囲まれて穏やかな暮らしに慣れている私には、人間が蟻みたいに見えた。
皆忙しそうに歩いていて、服装もいろいろで表情も違う。頭のなかで考えていることもみんな違って、それでも同じ通りを固まって移動する人々。
「顔は人間で身体が蟻の集団が、スクランブル交差点を歩く絵を描いてみたいなぁ。その蟻さんはね、いろいろな服を着ているんだ」
「あら、それは面白いわねぇ。家に帰ったら描いてみなさい。いろいろアドバイスしてあげるわ」
礼子さんは、にっこりと微笑んだ。
お目当ての美術館では大きなビルのワンフロアにたくさんの絵画を展示していた。色使いや筆のタッチ、一枚の絵を前にして礼子さんと10分は分析して意見を出し合う。私の意見は幼稚でぼんやりしているけれど礼子さんは褒めてくれた。
「この淡い色の透明感が幻想的でしょう? そして、淡い色だけで仕上げる場合もあるけれど、ほら、こっちは右側と左側で色彩がまるで違うわ。右が夢、左が厳しい生活苦の様子らしいの。この時代の人達の生き方がよくわかるでしょう? 可愛らしい夢と厳しい現実・・・・・・この時代は厳格な身分制度と奴隷さえ許された時代よ」
「私、今の日本に生まれて幸せだね?」
「そうだね。そこに描かれている人達の生活を想像して、今の自分に置き換えてみるのも大事だね。絵って、こうやっていろいろな感情を人に与えられるんだよ。見る人によって受ける感覚は違うわ。その人の生き方がそこにでてくるっていうのかなぁーー。だから、面白いし素晴らしい世界よね?」
「うん!」
私と礼子さんは絵画鑑賞の合間にデパートにも行き、たくさんの洋服を買った。
「そんなにいっぱい要らないよ」
「なに言ってるの? これから行く高校は私服よ?」
「だったら、めんどくさくない服がいいな。組み合わせとか考えるのが嫌だもん。制服みたいな服が何枚かあればそれでいいかな」
私がそう言っても礼子さんの服選びは止まらない。仕方ないから礼子さんのいつもの服の色を真似てみた。礼子さんの普段着は、白とベージュとグレーで統一されていたのだ。だから、白とベージュとグレーの服ばかりをとった。
礼子さんは呆れてかわいい空色やレモン色のワンピースを私に試着させた。
「若くてかわいいのに、綺麗な色の服も着なきゃもったいないわよ?」
結局、両手いっぱいの洋服を買い込み、ホテルに戻ると夕方で柊君から連絡がはいる。
「美術館巡りは楽しいかい? 洋服はどんなの買ったの?」
私は自分の洋服を写メに撮っておくった。トップスはほとんどが白。ボトムスはベージュかグレー。色は地味だけれど白いトップスには袖の一部がレースだったり、ふわっとふくらんでいたり、デザインがかわいいものばっかりだった。
他にはパステルカラーの桜色やレモン色、ブルーのワンピースが数着。これは礼子さんが選んでくれたものだ。水玉やチェックのワンピースもあった。買いすぎなんじゃないかな。
中学時代は制服だったから、そんなに服はもっていなかった。ほとんどがジーンズだったのに、高校に入った途端に面倒だなって思った。
「夏なんかTシャツとジーンズだけで良いと思うんだけどさ」
「いや、かわいいワンピースも着てよ。学校にはあんまり可愛いのはやめた方がいいけど、僕とデートする時はそのレモン色のワンピースがいいと思う」
「ふふっ。うん、そうするね!」
親公認の仲の私と柊君は、こうやって毎日連絡しあうようになったのだった。
ꕤ୭*
そして、今日は初めてのデート! まだ春休みの私達は一緒に映画館に行く約束をしたんだ。
「わぁーーすっごい可愛いね。その髪飾りも色があっているし、そのネックレス! 僕が初めてプレゼントしたものでしょう?」
「うん、大事にしてるよ」
「もっと、高いものをプレゼントできるようになるから、待っていて!」
「うん! でもね、紬は欲しいものは自分で手に入れるよ! だって、礼子さんもそうだもん。柊君は一緒にいて励ましてくれるだけで嬉しいんだよ」
「そっか。それでも僕は頑張るよ」
私のファーストキスはこの映画の帰りだった。
「僕ね、紬ちゃんをずっと大事にするね!」
「うん!」
「いいことあったんだね? あの服を褒められたのでしょう?」
家に帰ってニヤニヤとしていると礼子さんがからかってきた。
「うん。可愛い服を着ているねって言ってくれたんだよ。綺麗な服を買ってくれてありがとう!」
「いいのよ。綺麗な服を着てデートすることも女の子の楽しみの一つだからね!」
それ以来、お出かけの時の私の服装はパステルカラーのワンピースが定番になった。これも、礼子さんにそっくりだった。大好きな人とは自然と服の好みも似てくるよね?
『前のお母さん』の好きな色は、もっとはっきりした色だったな。原色に近い色で、目立つデザインを好んでいたような気がする。
ꕤ୭*
高校の入学式、紺の制服っぽい服も買ってもらった私はそれで登校した。礼子さんも来てくれてやっぱり泣いていた。もちろんそれは感動の涙なのだけれど、私はがっかりな涙をこの日、流した。
同じクラスに結月がいて、その隣の席には柊君がなったのだった。
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※ 夜も投稿予定です。
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