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(クレマンス視点)
このピエラ王国には聖獣がいて、敬うべきものとされている。滅多に人には懐かないが、たまにその聖獣と契約している貴族がいて羨ましいと思っていた。
僕はドビュッシー伯爵領のカントリーハウス(領主館のことで、領地に構える貴族の屋敷)の敷地に、たまたま迷い込んできた聖獣の子供を生け捕りにしようと、捕獲網を持って追いかけ回していた。まだ幼い頃の話だ。
「待てよ。このチビ! 僕の家来になれ」
なかなか止まらないので、石を投げつけて怪我をさせてしまう。
(僕のせいじゃないよ。こいつが逃げようとするからいけないんだ)
「こら! クレマンス。なにをしている。聖獣の子に怪我をさせたのか? お前はなんていうばかなことをしたんだ」
1歳年上の兄上が僕を叱りつけた。
「だ、だって、こいつが逃げるからいけないんだ。ちょっと触ってみたかっただけなのに」
捕獲網を後ろに隠しながら、僕は必死に言い訳をした。
それからすぐに、小さな聖獣を守るように現れた大きな聖獣。こいつの親だ。大きな咆哮をあげると、僕に向かって飛びかかって来た。兄のジュルダンが咄嗟に僕を庇い、足を聖獣に噛みちぎられて瀕死の重傷を負ってしまう。
父上達や騎士達がやって来た頃には聖獣は子供を連れて逃げた後だった。兄上は生死の境を彷徨い、命は取り留めたが片足がなくなり車椅子になった。
僕は散々父上から叱られた。僕の迂闊な行動が招いたこの結果に兄上は責めなかったが、父上と母上は僕を責めた。兄上は優秀で両親からとても期待されていたからだ。
父上は兄上が片足を失っても兄上に爵位を譲った。
「僕の方が五体満足ですよ。跡継ぎに相応しいのは僕でしょう?」
父上に文句を言ったところで、傍らにいた母上に平手打ちされた。
「ジュルダンはあなたのせいで足をなくしたのよ! 恩知らずな子ね。弟を命をかけて守ったジュルダンこそ当主に相応しいわ」
(なんでだよ? 誰も守ってくれなんて頼んでねーーよ。あの聖獣だって、あんなことで怒らなくてもいいじゃないか。石がちょっと当たって血が出ただけだ。だいたい聖獣の子供のくせに弱っちいから僕に追い回されたんだろう?)
「納得がいかないよ」
そのつぶやきで両親はさらに僕を睨み付けた。
(僕はそんなに悪いことをしたか? 兄上が怪我をしたのは聖獣のせいだろう?)
僕が結婚適齢期になる頃には両親は亡くなっており、兄がドビュッシー伯爵として領地を治めていた。僕は兄の前では勤勉に手伝うふりをしたが、領地の管理なんて単調でつまらない。
ある日、帳簿をちょっと誤魔化して小遣いにして、娼館通いしていたらバレて兄の逆鱗に触れた。
「なにもかもがいい加減な奴だ。お前にはがっかりだよ。つきあう女も娼婦ばかりだ。結婚相手に堅実な女性を選ばなければ、お前が伯爵になることはない」
「兄上の次は僕が伯爵になる番だ。そんなの決まっている」
「決まってなどいないさ。亡き父上の弟(叔父)にもクレマンスより年下の息子がいる。今はその息子に跡を継がせてもいいと思っているよ」
(それは困るよ。兄上は片足がないことで結婚を諦めている。兄上に子供がいない今、次の伯爵は僕なのに)
とにかく兄上が納得するような地味女を連れて来なくては。
このピエラ王国には聖獣がいて、敬うべきものとされている。滅多に人には懐かないが、たまにその聖獣と契約している貴族がいて羨ましいと思っていた。
僕はドビュッシー伯爵領のカントリーハウス(領主館のことで、領地に構える貴族の屋敷)の敷地に、たまたま迷い込んできた聖獣の子供を生け捕りにしようと、捕獲網を持って追いかけ回していた。まだ幼い頃の話だ。
「待てよ。このチビ! 僕の家来になれ」
なかなか止まらないので、石を投げつけて怪我をさせてしまう。
(僕のせいじゃないよ。こいつが逃げようとするからいけないんだ)
「こら! クレマンス。なにをしている。聖獣の子に怪我をさせたのか? お前はなんていうばかなことをしたんだ」
1歳年上の兄上が僕を叱りつけた。
「だ、だって、こいつが逃げるからいけないんだ。ちょっと触ってみたかっただけなのに」
捕獲網を後ろに隠しながら、僕は必死に言い訳をした。
それからすぐに、小さな聖獣を守るように現れた大きな聖獣。こいつの親だ。大きな咆哮をあげると、僕に向かって飛びかかって来た。兄のジュルダンが咄嗟に僕を庇い、足を聖獣に噛みちぎられて瀕死の重傷を負ってしまう。
父上達や騎士達がやって来た頃には聖獣は子供を連れて逃げた後だった。兄上は生死の境を彷徨い、命は取り留めたが片足がなくなり車椅子になった。
僕は散々父上から叱られた。僕の迂闊な行動が招いたこの結果に兄上は責めなかったが、父上と母上は僕を責めた。兄上は優秀で両親からとても期待されていたからだ。
父上は兄上が片足を失っても兄上に爵位を譲った。
「僕の方が五体満足ですよ。跡継ぎに相応しいのは僕でしょう?」
父上に文句を言ったところで、傍らにいた母上に平手打ちされた。
「ジュルダンはあなたのせいで足をなくしたのよ! 恩知らずな子ね。弟を命をかけて守ったジュルダンこそ当主に相応しいわ」
(なんでだよ? 誰も守ってくれなんて頼んでねーーよ。あの聖獣だって、あんなことで怒らなくてもいいじゃないか。石がちょっと当たって血が出ただけだ。だいたい聖獣の子供のくせに弱っちいから僕に追い回されたんだろう?)
「納得がいかないよ」
そのつぶやきで両親はさらに僕を睨み付けた。
(僕はそんなに悪いことをしたか? 兄上が怪我をしたのは聖獣のせいだろう?)
僕が結婚適齢期になる頃には両親は亡くなっており、兄がドビュッシー伯爵として領地を治めていた。僕は兄の前では勤勉に手伝うふりをしたが、領地の管理なんて単調でつまらない。
ある日、帳簿をちょっと誤魔化して小遣いにして、娼館通いしていたらバレて兄の逆鱗に触れた。
「なにもかもがいい加減な奴だ。お前にはがっかりだよ。つきあう女も娼婦ばかりだ。結婚相手に堅実な女性を選ばなければ、お前が伯爵になることはない」
「兄上の次は僕が伯爵になる番だ。そんなの決まっている」
「決まってなどいないさ。亡き父上の弟(叔父)にもクレマンスより年下の息子がいる。今はその息子に跡を継がせてもいいと思っているよ」
(それは困るよ。兄上は片足がないことで結婚を諦めている。兄上に子供がいない今、次の伯爵は僕なのに)
とにかく兄上が納得するような地味女を連れて来なくては。
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