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存在感を増すセリーナ

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 セリーナはデイミアンに丁寧な手紙を書いた。その内容は、エレノアが自分と離れて暮らして寂しがっていないか気遣うものであり、何かあれば力になるためすぐに駆けつけるとしたためられていた。

 すぐにデイミアンから返信が届く。そこには、エレノアがアシュトン公爵家の使用人たちや自分を遠ざけるように、部屋に閉じこもりがちであることが綴られていた。
「……何か悩んでいるようです。あなたなら、エレノアの力になれるかもしれません」
 新妻を心底案じる言葉がそこには記されていた。

 ――ふっ。この二人、本当に相思相愛ね。……悩みと言ったら、私が吹き込んだくだらない妄想くらいしかないのに。単純なエレノアったら、すっかり信じ込んでいるのね。馬鹿みたい、自分の愛する人が不幸になるなんて、そんなこと、あるはずないのに。

 そう嘲るように微笑むセリーナだったが、その瞳にはわずかな嫉妬の色も見え隠れしていた。これほど大事にされているエレノアが妬ましく思えたのだ。

 

 デイミアンの屋敷に招かれたセリーナは、優雅な微笑を浮かべながら、心配そうにエレノアの現状を語るデイミアンに話しかける。
「エレノアのことを本当に心配しているのですね。私が来たからには、きっと彼女は元気になりますわ。だって、私はエレノアを妹のように愛しているのですから」
 暖炉の前で揺れるティーカップを手に、思いやりのこもった声でそう告げるセリーナに、デイミアンは感謝の意を示した。

 セリーナがエレノアの自室を訪れると、そこには、やつれた顔で目の下にクマを作ったエレノアがいた。

「エレノア、私が来たからにはもう大丈夫よ。何もかも、私がうまくやってあげるわ。使用人の管理も、デイミアン卿のサポートも、全部引き受けるから、安心してね」
 セリーナの声には優しさが滲んでいたが、その瞳の奥には別の思惑が潜んでいた。

 エレノアは弱々しい声で答える。
「デイミアン様と夕食をとっていたとき、急に倒れてしまって……それ以来、体調が良くないみたいなの。もしかしたら私のせいかもって思うと怖くて、使用人たちともうまく話せていないのよ……私、どうしたらいいの?」

――ばっかみたい。デイミアン卿はエレノアが心配でよく眠れていないだけよ。たんなる寝不足ね。考えればわかりそうなものなのに……エレノアは歌の才能しかない綺麗なだけのお人形さんだわ。お互いを想い合いすぎて、自滅しているだけの滑稽な夫婦なんて、別れてしまえばいいのに。

 セリーナはそう呆れながらも、ふたりが悩んでいる様子が愉快で仕方がない。才能あふれる、自分より身分の高い美貌の従妹。そのエレノアが憔悴している顔を見ると、心底幸せな気分になってくる。

「それなら、アシュトン公爵家で必要なコミュニケーションは、私を通したほうがいいかもしれないわね。大丈夫、私が間に入れば、エレノアの負の影響は減ると思うわ」
「ありがとう、セリーナ。あなたが来てくれて本当に心強いわ」

 エレノアの感謝の言葉に、セリーナはほくそ笑みながらも、それを悟らせることなく柔らかい微笑みを浮かべたのだった。



 このようにして、セリーナはアシュトン公爵家にしばらく留まることになった。セリーナはまずメイドたちに優しく声をかける。

 「エレノアは少し気難しい子だけれど、気にしないで。あと、彼女と仲良くしすぎると……不思議と不幸なことが起きるけれど……あっ、いいえ、なんでもないの。今のは忘れてちょうだいね」

 まるでうっかり口を滑らせたかのように言い直すセリーナだが、もちろんこれはわざとである。居並ぶメイドたちは、セリーナの言葉に耳を傾けながら首を傾げた。

――不幸なことってなんだろう? あたしらが奥様と仲良くなんてなれっこないけど、気になるわ……

 メイドたちは思い思いに想像してみるけれど、具体的なことをけっして言わないセリーナに、かえって興味をそそられていた。
 


 アシュトン公爵家の使用人は多岐にわたる。中には元々不注意な者もいれば、不運にも怪我を負う者もいる。しかし、そうした問題が生じるたび、セリーナは溜め息をつきながらこう言った。
「やっぱり……最近、エレノアと接触したのでは?」

 その声色はあくまで憂慮に満ちたものだったが、意味深に寄せられる眉は、周囲に暗黙の疑念を植え付けるのに十分だった。接触とはどの程度のことを指すのか、セリーナは一切具体的に説明しない。それため、朝の挨拶や廊下ですれ違った程度、さらには遠目にエレノアを見かけたことすら含まれる恐れがあった。この曖昧さが、ずる賢い使用人たちにとっては格好の言い訳となった。

 そそっかしい侍女は、自らの失態をエレノアのせいに仕立て上げ、嘘つきなメイドは実際には話してもいないのに「エレノア様から声をかけられた」と偽りの証言をした。それを知りつつも、セリーナは彼女たちを咎めるどころか、むしろその嘘を大いに肯定した。さらに、同情を装いながら特別なプレゼントまで与える始末である。

 この巧妙な振る舞いは、使用人たちの間に「エレノアと接触すること自体が不幸を招く」という無言のルールを植え付け、エレノアの孤立を一層深める結果を招いたのだった。


 セリーナの策略は、屋敷の中に確実に根を張りつつあった。自室に閉じこもりがちで影の薄いアシュトン公爵夫人よりも、にこやかな余裕の笑みを浮かべ、堂々と屋敷を闊歩するセリーナの方が、よほど女主人らしい風格を漂わせていた。使用人たちも、何か問題が起きると自然にセリーナを頼るようになっていった。

 さらに、肝心のエレノア自身がセリーナを信頼し、信頼している様子が見て取れたため、使用人たちからしても、それは自然な成り行きのように思えた。

 こうしてセリーナは、いつしか屋敷の中心に立つ存在となりつつあった。エレノアを孤立させる一方で、セリーナの存在感はますます増していったのである。

 •───⋅⋆⁺‧₊☽⛦☾₊‧⁺⋆⋅───•

 最近、更新が滞っておりまして、大変もうしわけありません。実は最近、眼瞼下垂の手術をしまして、あまり経過がおもわしくなく、なかなか書けないでおりました。今も万全というかんじではないのですが、ぼちぼち書いていこうかと思えるようになりました。🙇🏻‍♀️🙇🏻‍♀️
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