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側室の妊娠

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私はハンター皇帝と仲睦まじい芝居をあいもかわらず続けていた。

人前にいるときだけでなく、寝室でも最近はぴったり身を寄せてくるから居心地が悪かった。

「そろそろ、愛妾の方々のほうに足をお運びになられた方がいいと思います」

「いや、正妃のそばがいい」

それなら、なぜ50人も愛妾をよんだのよ?





「側室のイザベラ様の懐妊が判明しました。おめでとうございます!!」

宰相が顔を輝かせて私達が朝食をとっている部屋にやってきたの。

「懐妊‥‥」
私はなぜか、心がチクチクと痛んだ。

「正妃を娶る前に一度イザベラのところには行ったが‥‥懐妊か‥‥」
ハンター皇帝の顔の表情からはその感情は読み取れなかった。

多分、嬉しいけど私の手前、遠慮しているのかもしれない。

「正妃様、お気になさいますな。側室の子はあくまで側室の子です。正妃様がご懐妊されればそのお子がゆくゆくは皇帝になりますから」

宰相は私にそう言ったけれど、私が妊娠することはありえない。








イザベラは確か私の血筋が悪いことを騒ぎ立てた側室の一人だったように思う。

「正妃様、イザベラ様がもっと広い豪華な部屋に移りたいと申しております」
侍女長が私にお伺いをたてにきた。
後宮のことは正妃に決定権があるからだが、実はもうすでに一番豪華な部屋に移っていると聞いた。

「イザベラ様が当然のように荷物を運ばれて‥‥おとめする間もなかったのです」

「まぁ、いいんじゃないかしら?彼女は皇帝の子を妊娠しているのだし‥‥」







後宮の廊下で前方からイザベラが大勢の取り巻きの側室を連れてやってきた。私が、ちょうどリンダと話をしながらすれちがおうとすると、

「あら、正妃様、イザベラ様に挨拶の一つもなさらないのですか?次期皇帝の母君になられる方ですよ?」

「そうですわよ。正妃様といえど皇帝の母君には及ばないでしょう。膝をついて挨拶するようにそのうちなるでしょうに!」

取り巻き達があざ笑いながら口々に騒ぎ立てた。


「無礼者!この方は正妃様ですよ!いいですか?イザベラ様にお子ができたとて、正妃様がご懐妊なさればこちらのお子様が次期皇帝になります。そんなこともわからないのですか!!あなた方はこのような発言をしたことをきっと後悔するでしょう」
リンダは声を荒げて怒りで顔はまっ赤だ。

「いいのよ、リンダ。落ち着いて?イザベラ様、このたびはご懐妊おめでとうございます。元気なお子様が生まれるように祈っておりますわ」

私は、穏やかに微笑んだ。

イザベラは返事もせずにいたが、私は気にしなかった。

こんなことはなんでもないわ‥‥





「イザベラ様がドレスと宝石をお買い求めになられました」
侍女長がこれで10回目の報告にきた。

「またなの?」
私は呆れてしまう。
イザベラは毎日のようにお金を散財する。

「イザベラ様をここに呼んで?」
正妃の執務室にくるようにとリンダに伝言を頼むとリンダがしかめっ面で帰ってきた。

「イザベラ様はつわりでご気分がすぐれないようです。用があるなら妊娠していない身軽な正妃様が来るようにと‥」

「わかったわ、あとで行きます」





「どうした?さっきから皿のものが減っていないではないか!」
皇帝が私にお皿の上のお肉を食べるようにうながすけれど、食欲なんてわかない。

夕食のお料理はどれも美味しかったけれど、半分も食べられなかった。

「なんだ?浮かない顔をして。悩みがあるなら言ってみろ?」
皇帝が私の顔を心配そうに覗き込んだ。

悩みの元凶は皇帝、あなたなんだよ!!

イザベラの傍若無人ぶりは日に日に増していき、お飾りの正妃の私ではもう止めることなどできなかった。

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