1 / 23
1 絶望
しおりを挟む
私はエルナン男爵家のサロンで、お父様の重大発表を聞こうとしています。しかも、その重大発表はどうみても良いお話ではなさそうなのです。なぜなら、お父様の表情はとても暗く、お母様は目に涙を浮かべていたからです。
「実はな、アイビーよ。エルナン男爵家を存続しがたい、思いがけない不幸が起こった。わしが友人の保証人になったばかりに、多額の借金を背負ってしまったのだ!」
「は? 思いがけないですって? 他人の保証人になったのなら、その方の借金を背負わされるリスクがあるに決まっているではありませんか? 全く、思いがけなくないです! 想定内の展開ですわ」
日頃から、私は両親に迂闊なことはしないようにと忠告してきました。けれど、絶対に彼らは私の言うことに従ってはくれないのです。
「お父様。私のお願いを完璧に無視なさったのですね? あれほど重要なことを決断なさる時は、私に相談するように申し上げましたよね?」
つい強めの口調で、私は両親を責めてしまいます。昔から、何度他人に騙されたかしれません。そのたびに、エルナン男爵家からは銀食器や調度品が消え、お金もなくなっていくのです。
だからなのでしょうか? 私は警戒心の強い、大層お金を大事にするしっかり者に成長しました。
「しかし、アボットさんは昔からの親友だったから、わしを裏切って夜逃げするなんて思わなかったんだよ」
「親友だろうとお金を貸してはいけません。何度、申し上げればわかってくださるの?」
私は呆れ果て、情けない思いでいっぱいになりました。ですが、時計を見れば、妹達がもうすぐ学園から帰ってくる時間です。
妹達で思い出しましたが、その学園の授業料も払えないとなれば、妹たちは学園を辞めなければいけません。それだけは避けたいですね。
私はすでに学園を卒業し成人しておりまして、大商人のお嬢様がたの家庭教師をさせていただいています。家庭教師のお給金は安すぎることはありませんが、けっして高くもありません。女一人で食べていくには充分でも、家族を養いお父様が背負い込んだ借金まで払うのは到底無理なのでした。
「「ただいまぁーー。アイビーお姉様!」」
二人の妹達が学園から元気に帰ってきたので、いったんこのお話は打ち切りです。このような辛いお話を聞かせるには、妹達はまだ幼いですからね。
妹二人が寝た後に、また私は両親と借金のお話をしました。
「それで保証人になったという金額はいくらですか?」
なかなか白状しなかったのですが、やっと聞けた金額は気絶しなかった自分を褒めてあげたいほど、大きかったのです。
使用人たちには辞めてもらうしかありません。屋敷の維持費さえも払えるかどうか・・・・・・最悪、家族5人で路上生活になるかもしれません。
ふと、私は鏡を見つめました。エルナン男爵家のサロンの壁に掛かっている大きな鏡に私の姿が映ります。痩せすぎで目の下にくまができた冴えない女性です。
もう少しボンキュッボンな色っぽい体つきならば、この身体を使って夜華楼で働くこともできるでしょうが、全く無理そうです。
夜華楼とは音楽に合わせて優雅な踊りを見せる劇場のようなところです。薄い衣で踊り、お客様は男性ばかりという場所のようですが、妹たちの学費のためならば我慢できるかもしれません。
ですが、この控えめすぎる胸では無理というものでしょう。それか、輝く美貌の持ち主ならば、お金持ちの男性と結婚して玉の輿が狙えるでしょうか?
私はもう一度、鏡を見つめ首を横に振りました。潤いのない肌とぱさついた髪では、普通の男性すら振り向かせることは難しいでしょう。
私は自分に女性としての武器がひとつもないことに、がくりとうなだれたのでした。
「実はな、アイビーよ。エルナン男爵家を存続しがたい、思いがけない不幸が起こった。わしが友人の保証人になったばかりに、多額の借金を背負ってしまったのだ!」
「は? 思いがけないですって? 他人の保証人になったのなら、その方の借金を背負わされるリスクがあるに決まっているではありませんか? 全く、思いがけなくないです! 想定内の展開ですわ」
日頃から、私は両親に迂闊なことはしないようにと忠告してきました。けれど、絶対に彼らは私の言うことに従ってはくれないのです。
「お父様。私のお願いを完璧に無視なさったのですね? あれほど重要なことを決断なさる時は、私に相談するように申し上げましたよね?」
つい強めの口調で、私は両親を責めてしまいます。昔から、何度他人に騙されたかしれません。そのたびに、エルナン男爵家からは銀食器や調度品が消え、お金もなくなっていくのです。
だからなのでしょうか? 私は警戒心の強い、大層お金を大事にするしっかり者に成長しました。
「しかし、アボットさんは昔からの親友だったから、わしを裏切って夜逃げするなんて思わなかったんだよ」
「親友だろうとお金を貸してはいけません。何度、申し上げればわかってくださるの?」
私は呆れ果て、情けない思いでいっぱいになりました。ですが、時計を見れば、妹達がもうすぐ学園から帰ってくる時間です。
妹達で思い出しましたが、その学園の授業料も払えないとなれば、妹たちは学園を辞めなければいけません。それだけは避けたいですね。
私はすでに学園を卒業し成人しておりまして、大商人のお嬢様がたの家庭教師をさせていただいています。家庭教師のお給金は安すぎることはありませんが、けっして高くもありません。女一人で食べていくには充分でも、家族を養いお父様が背負い込んだ借金まで払うのは到底無理なのでした。
「「ただいまぁーー。アイビーお姉様!」」
二人の妹達が学園から元気に帰ってきたので、いったんこのお話は打ち切りです。このような辛いお話を聞かせるには、妹達はまだ幼いですからね。
妹二人が寝た後に、また私は両親と借金のお話をしました。
「それで保証人になったという金額はいくらですか?」
なかなか白状しなかったのですが、やっと聞けた金額は気絶しなかった自分を褒めてあげたいほど、大きかったのです。
使用人たちには辞めてもらうしかありません。屋敷の維持費さえも払えるかどうか・・・・・・最悪、家族5人で路上生活になるかもしれません。
ふと、私は鏡を見つめました。エルナン男爵家のサロンの壁に掛かっている大きな鏡に私の姿が映ります。痩せすぎで目の下にくまができた冴えない女性です。
もう少しボンキュッボンな色っぽい体つきならば、この身体を使って夜華楼で働くこともできるでしょうが、全く無理そうです。
夜華楼とは音楽に合わせて優雅な踊りを見せる劇場のようなところです。薄い衣で踊り、お客様は男性ばかりという場所のようですが、妹たちの学費のためならば我慢できるかもしれません。
ですが、この控えめすぎる胸では無理というものでしょう。それか、輝く美貌の持ち主ならば、お金持ちの男性と結婚して玉の輿が狙えるでしょうか?
私はもう一度、鏡を見つめ首を横に振りました。潤いのない肌とぱさついた髪では、普通の男性すら振り向かせることは難しいでしょう。
私は自分に女性としての武器がひとつもないことに、がくりとうなだれたのでした。
114
お気に入りに追加
1,325
あなたにおすすめの小説
あなたなんて大嫌い
みおな
恋愛
私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。
そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。
そうですか。
私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。
私はあなたのお財布ではありません。
あなたなんて大嫌い。
私が妊娠している時に浮気ですって!? 旦那様ご覚悟宜しいですか?
ラキレスト
恋愛
わたくしはシャーロット・サンチェス。ベネット王国の公爵令嬢で次期女公爵でございます。
旦那様とはお互いの祖父の口約束から始まり現実となった婚約で結婚致しました。結婚生活も順調に進んでわたくしは子宝にも恵まれ旦那様との子を身籠りました。
しかし、わたくしの出産が間近となった時それは起こりました……。
突然公爵邸にやってきた男爵令嬢によって告げられた事。
「私のお腹の中にはスティーブ様との子が居るんですぅ! だからスティーブ様と別れてここから出て行ってください!」
へえぇ〜、旦那様? わたくしが妊娠している時に浮気ですか? それならご覚悟は宜しいでしょうか?
※本編は完結済みです。
【完結】婚約を信じた結果が処刑でした。二度目はもう騙されません!
入魚ひえん
恋愛
伯爵家の跡継ぎとして養女になったリシェラ。それなのに義妹が生まれたからと冷遇を受け続け、成人した誕生日に追い出されることになった。
そのとき幼なじみの王子から婚約を申し込まれるが、彼に無実の罪を着せられて処刑されてしまう。
目覚めたリシェラは、なぜか三年前のあの誕生日に時間が巻き戻っていた。以前は騙されてしまったが、二度目は決して間違えない。
「しっかりお返ししますから!」
リシェラは順調に準備を進めると、隣国で暮らすために旅立つ。
予定が狂いだした義父や王子はリシェラを逃したことを後悔し、必死に追うが……。
一方、義妹が憧れる次期辺境伯セレイブは冷淡で有名だが、とある理由からリシェラを探し求めて伯爵領に滞在していた。
◇◇◇
設定はゆるあまです。完結しました。お気軽にどうぞ~。
◆第17回恋愛小説大賞◆奨励賞受賞◆
◆24/2/8◆HOT女性向けランキング3位◆
いつもありがとうございます!
完結・私と王太子の婚約を知った元婚約者が王太子との婚約発表前日にやって来て『俺の気を引きたいのは分かるがやりすぎだ!』と復縁を迫ってきた
まほりろ
恋愛
元婚約者は男爵令嬢のフリーダ・ザックスと浮気をしていた。
その上、
「お前がフリーダをいじめているのは分かっている!
お前が俺に惚れているのは分かるが、いくら俺に相手にされないからといって、か弱いフリーダをいじめるなんて最低だ!
お前のような非道な女との婚約は破棄する!」
私に冤罪をかけ、私との婚約を破棄すると言ってきた。
両家での話し合いの結果、「婚約破棄」ではなく双方合意のもとでの「婚約解消」という形になった。
それから半年後、私は幼馴染の王太子と再会し恋に落ちた。
私と王太子の婚約を世間に公表する前日、元婚約者が我が家に押しかけて来て、
「俺の気を引きたいのは分かるがこれはやりすぎだ!」
「俺は充分嫉妬したぞ。もういいだろう? 愛人ではなく正妻にしてやるから俺のところに戻ってこい!」
と言って復縁を迫ってきた。
この身の程をわきまえない勘違いナルシストを、どうやって黙らせようかしら?
※ざまぁ有り
※ハッピーエンド
※他サイトにも投稿してます。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
小説家になろうで、日間総合3位になった作品です。
小説家になろう版のタイトルとは、少し違います。
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
【完結】おまえを愛することはない、そう言う夫ですが私もあなたを、全くホントにこれっぽっちも愛せません。
やまぐちこはる
恋愛
エリーシャは夫となったアレンソアにおまえを愛することはないと言われた。
こどもの頃から婚約していたが、嫌いな相手だったのだ。お互いに。
3万文字ほどの作品です。
よろしくお願いします。
妻の私は旦那様の愛人の一人だった
アズやっこ
恋愛
政略結婚は家と家との繋がり、そこに愛は必要ない。
そんな事、分かっているわ。私も貴族、恋愛結婚ばかりじゃない事くらい分かってる…。
貴方は酷い人よ。
羊の皮を被った狼。優しい人だと、誠実な人だと、婚約中の貴方は例え政略でも私と向き合ってくれた。
私は生きる屍。
貴方は悪魔よ!
一人の女性を護る為だけに私と結婚したなんて…。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 設定ゆるいです。
ごめんなさい、お淑やかじゃないんです。
ましろ
恋愛
「私には他に愛する女性がいる。だから君は形だけの妻だ。抱く気など無い」
初夜の場に現れた途端、旦那様から信じられない言葉が冷たく吐き捨てられた。
「なるほど。これは結婚詐欺だと言うことですね!」
「……は?」
自分の愛人の為の政略結婚のつもりが、結婚した妻はまったく言う事を聞かない女性だった!
「え、政略?それなら最初に条件を提示してしかるべきでしょう?後出しでその様なことを言い出すのは詐欺の手口ですよ」
「ちなみに実家への愛は欠片もないので、経済的に追い込んでも私は何も困りません」
口を開けば生意気な事ばかり。
この結婚、どうなる?
✱基本ご都合主義。ゆるふわ設定。
その令嬢は祈りを捧げる
ユウキ
恋愛
エイディアーナは生まれてすぐに決められた婚約者がいる。婚約者である第一王子とは、激しい情熱こそないが、穏やかな関係を築いていた。このまま何事もなければ卒業後に結婚となる筈だったのだが、学園入学して2年目に事態は急変する。
エイディアーナは、その心中を神への祈りと共に吐露するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる