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1 絶望

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 私はエルナン男爵家のサロンで、お父様の重大発表を聞こうとしています。しかも、その重大発表はどうみても良いお話ではなさそうなのです。なぜなら、お父様の表情はとても暗く、お母様は目に涙を浮かべていたからです。

「実はな、アイビーよ。エルナン男爵家を存続しがたい、が起こった。わしが友人の保証人になったばかりに、多額の借金を背負ってしまったのだ!」

「は? ですって? 他人の保証人になったのなら、その方の借金を背負わされるリスクがあるに決まっているではありませんか? 全く、思いがけなくないです! 想定内の展開ですわ」

 日頃から、私は両親に迂闊なことはしないようにと忠告してきました。けれど、絶対に彼らは私の言うことに従ってはくれないのです。

「お父様。私のお願いを完璧に無視なさったのですね? あれほど重要なことを決断なさる時は、私に相談するように申し上げましたよね?」

 つい強めの口調で、私は両親を責めてしまいます。昔から、何度他人に騙されたかしれません。そのたびに、エルナン男爵家からは銀食器や調度品が消え、お金もなくなっていくのです。

 だからなのでしょうか? 私は警戒心の強い、大層お金を大事にするしっかり者に成長しました。

「しかし、アボットさんは昔からの親友だったから、わしを裏切って夜逃げするなんて思わなかったんだよ」

「親友だろうとお金を貸してはいけません。何度、申し上げればわかってくださるの?」

 私は呆れ果て、情けない思いでいっぱいになりました。ですが、時計を見れば、妹達がもうすぐ学園から帰ってくる時間です。
 妹達で思い出しましたが、その学園の授業料も払えないとなれば、妹たちは学園を辞めなければいけません。それだけは避けたいですね。

 私はすでに学園を卒業し成人しておりまして、大商人のお嬢様がたの家庭教師をさせていただいています。家庭教師のお給金は安すぎることはありませんが、けっして高くもありません。女一人で食べていくには充分でも、家族を養いお父様が背負い込んだ借金まで払うのは到底無理なのでした。

「「ただいまぁーー。アイビーお姉様!」」

 二人の妹達が学園から元気に帰ってきたので、いったんこのお話は打ち切りです。このような辛いお話を聞かせるには、妹達はまだ幼いですからね。

 妹二人が寝た後に、また私は両親と借金のお話をしました。

「それで保証人になったという金額はいくらですか?」

 なかなか白状しなかったのですが、やっと聞けた金額は気絶しなかった自分を褒めてあげたいほど、大きかったのです。
 
 使用人たちには辞めてもらうしかありません。屋敷の維持費さえも払えるかどうか・・・・・・最悪、家族5人で路上生活になるかもしれません。



 ふと、私は鏡を見つめました。エルナン男爵家のサロンの壁に掛かっている大きな鏡に私の姿が映ります。痩せすぎで目の下にくまができた冴えない女性です。

 もう少しボンキュッボンな色っぽい体つきならば、この身体を使って夜華楼で働くこともできるでしょうが、全く無理そうです。

 夜華楼とは音楽に合わせて優雅な踊りを見せる劇場のようなところです。薄い衣で踊り、お客様は男性ばかりという場所のようですが、妹たちの学費のためならば我慢できるかもしれません。

 ですが、この控えめすぎる胸では無理というものでしょう。それか、輝く美貌の持ち主ならば、お金持ちの男性と結婚して玉の輿が狙えるでしょうか?

 私はもう一度、鏡を見つめ首を横に振りました。潤いのない肌とぱさついた髪では、普通の男性すら振り向かせることは難しいでしょう。

 私は自分にがひとつもないことに、がくりとうなだれたのでした。
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