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8-2 if 海編(チャーリー王子殿下視点)

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それから俺は変わった。何が変わったって、1日1日に感謝するように大事に生きるようになったんだ。こんな過酷な状況に置かれているにもかかわらず朝を迎えられたことにまず感謝し、昼まで生き延びられたことに感謝し、夜もまたこうして生きていることに感謝した。

人間は1人で生きているわけではない。いろいろな人達に生かされているんだ、そんな気持ちが芽生え荒波と正面から向き合って必死になって漁をし続けた。

何とか無事に陸に上がることができ、俺はまず大公に会いに行く。
「今までの俺はどうかしていたと思います。生きるという事に真剣に向き合っていなかった。これからはもっと考えて行動するようにしたいし、自分のために人が死ぬことがあってはならない。そんなふうに思うようになりました」
俺は大公にそう申し上げると、自分のしでかした責任を取るために平民になることを申し出た。

「漁で稼いだお金はスワンに渡して下さい」
俺は大公にそう言ったが大公は首を横に振った。

「お前が平民になって生きていくと言うのならこの金は必要だろう?  持っていきなさい」
以前の俺なら意固地なプライドのためにそのお金はもらわなかったかもしれない。けれど今は違う。

「ありがたく使わせていただきます」
俺はペコリと頭を下げると市井の商店街に向かったのだった。


もうあの辛い過酷な漁に出かける事はないだろう。けれどあそこでした経験はなにものにもかえ難かった。命にさらされて生きることの究極の意味を教えられた。あれに比べればどんな仕事も楽だと思えるようになった。


🦀🐟🐟🐟🦀


「いらっしゃい! いらっしゃい! 今日は安いよー。いい蟹をたくさん仕入れてますよーー。この魚も脂が乗ってうまいですよ。ぜひ今晩のおかずにしてみてください」
俺は商店街で声を張り上げる。これは俺の魚屋だ。あの蟹漁の報酬を元手にして俺はちょっとした魚屋をこの商店街に構えたのだ。

「こっちの魚とそれからそのひときわ大きな蟹を下さいな」
聞き覚えのある声が俺を振り向かせた。

「なんだよ!   びっくりするなぁ。大公のお姫様がなんでこんな魚屋に買い物にくるんだい?」

「ふふふ。昔の婚約者が魚屋さんを始めたって聞いたからね。買いに来てみたくなってしまったのよ。なかなか頑張っているわね。」
嬉しそうに言ってくるスワンに俺は笑顔で答えた。

「俺はもう平民のただの魚屋だよ。でも、なんでかなぁ、今の方が充実してるんだよ。信頼できる同居人もいるしね」
俺は心の底からそう言って笑ったのだった。もし、あのまま国王になっていたとしたらとんでもない愚かな王様になっていたと思う。

「同居人?  あら、恋人でもできたのね?」
「違うんだよ。命の恩人と一緒に暮らしてるんだ」

そうなんだ。俺はハンスと一緒に暮らしている。大怪我をしたハンスは車椅子の生活になったが計算は得意だったので店の奥でお会計係りをしてくれている。俺が店先で魚をさばき蟹を並べ呼び込みをする。お客様は買いたいものを手に取って奥にいる会計係のハンスにお金を渡す。

スワンの不思議そうな顔に俺は苦笑する。
「俺さぁ、生まれ変わったんだよ。人に感謝することを覚えたんだ。受けた恩は忘れないし、その恩は返していきたいんだよ。こんな俺でも人の力にはなれるんだ、そう思うと生きていて本当に良かったと思えるんだ」
その言葉にスワンはにっこりと微笑み足取りも軽く帰っていった。


それからしばらくして俺の側近だったジェイコブの死を人づてに聞いた。ジェイコブを死に追いやったのは俺だ。
俺はジェイコブの墓の前で土下座をする。
「すまないな。本当に申し訳なかった。お前の分も俺はしっかりと生きて、そしてあの世で会えたら思いっきり謝らせてくれ」
花を墓に供えると俺は悲痛な心持ちでその場を後にした。

俺は簡単に死ぬことは出来ない。なぜなら責任があるから。命の恩人のハンスを支えて店を切り盛りし、俺達の魚を楽しみに買いに来るお客様の為にも俺は頑張って生きるんだ。
「だから、ジェイコブもう少し待っていてくれな」
俺はジェイコブの墓に向かってそう呟きながら店に戻ったのだった。


それ以来、店の2階の自宅にある食卓にはジェイコブの席ができた。
「どうだい?ジェイコブ、この魚と蟹は絶品だろ?」
今日も俺はハンスと俺の間の空席にジェイコブの皿を置く。
その皿の上には魚と蟹、ジェイコブが好きだった赤ワインも添えてある。

「おいしいよ、ありがとう」
ジェイコブの嬉しい声が聞こえたような気がした。
「あぁ、みんなで食べると旨いよな」
俺は涙をこらえて蟹を味わうのだった。



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チャーリー王子殿下if編これにておしまいです
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