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6-2 R15?ジェイコブ・パーシーの末路(ジェイコブ視点)※ 死があります。閲覧注意。残酷ではない。

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※ジェイコブ一家の死があります。残酷ではない(と思います)が閲覧注意。人が死ぬ場面は見たくない方は注意してください。ただ倒れて死ぬだけですが。




この氷と雪の空間から逃げ出したい……僕はこっそりこの地からの逃亡を企てた。

「父上、母上! ここはとてもじゃないが人の住むところじゃないよ。どこか暖かい地方に逃げよう! こんな所で一生終えるのはごめんだよ」

「そうだな、ここは酷く寒い。ワシらにはこんな暗く寒い場所は合わないぞ!」
父上もここの外気の寒さには我慢がならないようだった。

「そうよ! ノースリーブのドレスも楽しめないなんて最悪だわ。顔も洗えないし、まつげまで凍るじゃない!」
いつも厚化粧だった母上は、今では日が当たらない日々のお陰か色白でシミひとつない。これはプラスの作用だと思うのに、高級な白粉が手に入らないとぼやいていた。

まぁ、とにかくこのような状況で僕達はそれぞれが不満を抱えていたんだ。


ꕤ୭*


馬車に乗り込み極寒の地を去ろうと僕らは馬車を走らせた。やっとどうにかその最北端の地をぬけ出せたかと思うと、その先に見慣れない迫力ある大男が待っていた。周りにはたくさんの騎士達を従えてにこやかに微笑んでいるが目は少しも笑っていない。

「なんですか? あなた方は?」
僕は嫌な予感がして冷や汗が背中をつたう。

「私はスワンの伯父だ! つまりはドラモンド大帝国の皇帝だ。お前らの行動は逐一部下に見張らせていた。そろそろ逃亡する時期だと思っていたよ」

「ひっ!!」
僕達3人は恐怖の声をあげた。賢王と名高いが刃向かう者には容赦ない冷血な皇帝で有名だ。

「大公はなぁ、ああ見えて大層優しいのだよ。だってあの地は最高じゃないか? 雪熊と戯れて(そんなことをしたら死にます)、空には七色のカーテン。一日中太陽がでない日には寝放題だよ。しかもあそこの酒は天然氷を利用して造ってるから最高にうまいだろう? まさに天国! 寒いのが苦手な奴にはキツいがその分、家の中は暖炉が燃え上がっており暖かい。あれは罰ではなく褒美に近い。お前達の頭を本当に冷やさせるだけの場所だったのだよ?」

「え! あれがご褒美……あんな雪と氷だけの世界が?」
そう愚痴った僕は、その後の皇帝の言葉に自分の迂闊さを呪った。

「寒い場所がそれほどお気に召さないのなら、今度は私の領土の一番暑い地に招待しよう。砂漠で野垂れ死ぬかラクダ使いにでもなるんだな。私としては釜ゆでの刑にしたいのだが生憎スワンに『残酷な死刑はだめ』と言われてなぁ。直接殺すことはできないが、まぁ、結果的に死ぬぶんにはいいだろう。人はいずれ死ぬものだからなぁ。文句は言われまい。なにしろ、ほら? スワンは私の溺愛する妹が産んだ一人娘だ。ゆえにスワンはこの世の宝! それに少しでも傷をつけた! これは本来万死に値する」

ーーか、釜ゆでの刑だとぉ? なんでこうも恐ろしいことばかり言うんだよぉ~~!!




そして、今……僕らは灼熱地獄の砂漠にいる。熱いというより皮膚が痛い。見渡す限り木もなく人家もなくひたすら砂漠が広がり続ける場所に放り出されて、死にそうになっている。

あぁ、なんであの七色のカーテンの見えた氷の世界を逃げ出したんだろう? あそこでの生活は外気が寒くて熊がいるだけで、生活そのものは楽だったのかもしれない。父上とともに牧師として働き、それなりに知り合いもいて、酒だって飲めたし食べ物も美味しいサーモンが楽しめた。

なぜ、それを幸せと思えなかったのだろう……今は悔やむしかない。この砂漠で野垂れ死ぬ自分の運命をただ客観的にとらえていた。もっと早くにこのような心境になっていれば……

「私はもぉダメよぉ……」
そう言いながら倒れた母上。

無言で仰向けにひっくり返り泡を吹いて倒れた父上。

僕だけが生き残り……やがて僕も力が尽きて倒れた。
最期に思い浮かべた映像は、華やかな王都の風景ではなく……なぜか空に浮かぶ神秘的な七色のカーテンだった。
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